小さい頃から 時々変なものを見た
他の人には見えないらしい それらはおそらく妖怪と呼ばれるものの類
緑川ゆきさん作、妖怪が見える少年・夏目貴志(なつめ たかし)が、祖母である夏目レイコの遺品、妖怪の名前を記した友人帳を受け継いだことから始まる、人と妖(あやかし)の心温まる交流と、主人公・夏目の成長を描いた大人気シリーズ、『夏目友人帳』の最新16巻をご紹介します。
16巻では、普段は妖を見ることができないけれど、祖父の陣を使えば交流することができる多軌 透(たき とおる)と、少しだけ妖の存在を感じることができる田沼 要(たぬま かなめ)という、夏目が妖とかかわった生活を送っていることを知っている、同級生の友人2人がメインとなったお話を主軸に構成されています。
2人の友人と、2人の妖。それぞれとの交流を通して、夏目は悩みながらも成長していきます。
田沼やタキは妖の存在を知ってはいても、夏目のように簡単にその姿を見たり、話したりすることはできません。ゆえに、彼らの間で板ばさみになってしまう夏目は、人と妖、それぞれの側からの想いを伝えきれずにいます。人の気持ちも、妖の気持ちも分かってしまう、心優しい夏目だからこそ悩んでしまうのです。
――ああ また
秘密にしろって 勝手なことを
おれにだけ心を見せて
大事なくせに
優しいくせに
タキのお話でも田沼のお話でも共通すること。それは、誰かを大切に思う気持ちは、一緒なのだということ。それが人であろうと、妖であろうと。大事なものは変わらないのです。
それにしても、夏目はそろそろ気づいてもいいんじゃないかなあと思います。夏目が友人を大切に思うように、その友人も夏目のことを大切に想っているんだよということに。
彼が育ってきた環境からすれば、なかなか気づきにくいことなのかもしれませんが、自分ひとりで抱え込むことだけが正しいわけではないんだよ、といってあげたい。夏目が友人をよく見ているように、その友人だって夏目のことをちゃんと見ている、成長しているんです。
それは田沼やタキ、西村や北本といったクラスメートだけでなく、いつも夏目を見守ってくれている藤原夫妻に対しても当てはまります。もちろん、ニャンコ先生も、名取だっていますし、いずれは的場さんと分かり合える日がくるかもしれません。
気づけば、夏目友人帳も16巻。はじめはひとりぼっちだった夏目くんも、10年間の連載でこんなに多くの友人ができたのだなあ、と感慨深くなりました。最初のころと比べたら、だいぶ自分以外の人間に甘えられるようになってきたのかなとも思いますが、彼はもっと甘えてもいい。たぶん、それを喜ぶ人が彼の周りにはたくさんいます。
そうすることで、今よりもっと成長した夏目くんを見れたらうれしいですね。
(評:ラノコミどっとこむ編集部/やまだ)
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