動かした心の量と収入のバランスを――これからの編集者に求められること:堀江信彦×佐渡島庸平対談(2/2 ページ)
トキワ荘プロジェクトが名編集者・堀江信彦氏とコルク代表・佐渡島庸平氏の対談イベントを開催。堀江氏が携わった作品の裏話や、低迷する日本のマンガ業界を救うため、これからの編集者に求められることが語られた。
海外に輸出したい「日本のマンガ文法」
堀江 といっても、クールジャパン戦略が掲げているような、日本のマンガを翻訳を輸出することではなく、日本の“マンガ文法”を輸出することを考えないといけないと思うんだよね。文化の違いがあるから
僕らの会社で、言葉の壁を取り払った「サイレントマンガオーディション」というのを、「ラブレター」というテーマで開催したら、わずか半年で53の国の地域から514作品もの応募があって、どれも立派なジャパニーズ漫画だった。そしてどの国の人が描いたものでも僕たちは理解できた。かつて、手塚治虫さんが「マンガはエスペラント語だ」と語ったのを思い出すね。
なぜ日本のマンガがこんなに分かりやすいかというと、日本のマンガは映画の絵コンテをそのまま紙に流し込んだもの。紙に描かれた映画だから、世界中、誰が読んでも動画を脳内再生できて理解できる。
日本のマンガ文法で、その国の文化に根ざしたマンガを描けるように教える場があればいいと思うんだけど、海外でマンガ専門の編集者がいるのはインドネシアで1人だけ。全然足りない。
まず、日本でマンガ編集者の講習を開いて、どうすればマンガ家たちが幸せに食べていけるか、どのように産業化できるか、うまくマネタイズできるか勉強する。そして、成長したら、国外に飛び出して、日本のマンガ文法で、かつその国の文化や風習に則したマンガを描けるようにマンガ家を育てていく。技術を輸出してその国でマンガ産業が根付けば、日本のコンテンツも輸出できるから。
佐渡島 外国でも活躍できるようになると、マンガに対する見方も変わってきますよね。野球やサッカー選手が海外で活躍して、「かっこいいなぁ」って憧れるように、「海外で活躍する編集者やマンガ家かっこいいなぁ」みたいな。
堀江 そうそう。一昔前の日本のサッカーのレベルは、そんな大したものじゃなかったけど、活躍する選手が増えて、それに憧れて、裾野が広がって、それでボトムアップが図られてきた。心が動くとそういう効果があるんだよね。
同じように、マンガを描けば人の心を動かせて儲かる。そんな風にカッコよいと認識されれば、もっとマンガ家を目指す人が増え、裾野が広がる。自然とボトムアップが図られ、ますます良いコンテンツになっていく。それを海外に輸出できるようにする。それがあるべき編集者の姿じゃないのかなあって僕なんか思うんだよね。
佐渡島 僕らもそれを目指して「作家エージェント集団」を立ち上げたので、マンガ家さんたちが幸せになれるように、世界中の人たちに作品を届け、みんなが憧れるようなそういう職業にしていきたいですよね。
堀江 そのためにも、マンガ専門編集者の教育をしていきたいよね。
関連記事
- 『堀江信彦×佐渡島庸平対談「これからの編集者を語る」』イベント開催
トキワ荘プロジェクトが、有名編集者が編集者のあり方について語り合う対談イベント『堀江信彦×佐渡島庸平対談「これからの編集者を語る」』を開催する。 - 「編集者は原点回帰せよ」――電子出版の未来のために、今必要なこと
東京ビッグサイトで7月3日から開かれている「国際電子出版EXPO」。2日目は、eBooksフォーラムセミナーが行われた。 - 作家のエージェント会社「コルク」――安野モヨコ、小山宙哉、伊坂幸太郎さんら賛同
講談社の編集者2人が同社を退社、新たに作家のエージェント会社「コルク」を創業する。阿部和重、安野モヨコ、小山宙哉、伊坂幸太郎、三田紀房といった作家、漫画家が賛同している。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.