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それいけ! デジコレ探索部「第13回 90年前のデアゴスティーニ? とある出版社の奇策」まだ見ぬお宝を求めて

日本の貴重なデジタル化資料を公開している国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)。本連載では、デジコレで見ることができるデジタル化資料の中からコレは! というものを探し出し、紹介していきます。

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 デアゴスティーニから、『週刊 仮面ライダー』が創刊されましたね。初期の仮面ライダーたちは、悪の組織ショッカーによって肉体を改造された、いわゆる改造人間です。ところで、オレンジ文字さんは「改造社」という名前の出版社を知っていますか?

ずいぶん強引に話をねじ曲げてきたわね。確か変わった取り組みをしていたのよね。えーと……。

 円本(えんぽん)ですね。

そう、それ!

 改造社は1919年に、元は東京毎日新聞(旧・横浜毎日新聞)の社長だった山本実彦が創設した出版社です。

 創設年に刊行を始めた総合雑誌『改造』は、1955年に廃刊となるまでに、志賀直哉の『暗夜行路』や林芙美子の『放浪記』、幸田露伴の『運命』、谷崎潤一郎の『卍』、火野葦平の『麦と兵隊』など、数々の名作を生み出すことになります。

 さらに山本は、1921年にイギリスの哲学者バートランド・ラッセルを、翌22年には物理学者アルベルト・アインシュタインを日本に招へいするという歴史的な偉業の立役者でもあります。ちなみにこれがアインシュタインにとって初の来日でした。来日の際に行われた講演の内容は、改造にも掲載されたようです。

 好調な滑り出しをした改造社ですが、1923年9月1日の関東大震災により倒産寸前にまで追い込まれます。

火事によって本が焼失して、多くの出版社が倒産したり、拠点を関西に移したりしたのよね。

 そんな中で1926年、改造社の山本はある秘策を打ち出します。それが円本と呼ばれた『現代日本文学全集』の刊行です。1冊1円で全巻予約制、月に1冊ずつ配本するというもので、これが本に飢えた人たちに大ヒットとなりました。デアゴスティーニみたいですよね。

冒頭のネタはそこにも関係してくるのね。

 ちなみに円本という名称は、当時東京を走っていた1円均一のタクシー「円タク」から取られたもののようです。

1円って、いまでいうといくらなの?

 だいたい4000円〜5000円ぐらいでしょうか。

え、結構高くない?

 当時の本は今の数倍の価格だったみたいですね。昔は全集を飾ることが金持ちのステータスでもあったので、そういった理由から購入した人もいるのかもしれません。

 予約した人が創刊当時で何と約23万人。そのおかげで資金が集まり、当初予定していた全37巻別巻1巻から大幅に増加させ、最終的に全62巻別巻1巻を発売します。予約購読者も最終的には40〜50万人にまで増加したといわれています。

 ほかの出版社も改造社の後を追うようにして、『世界文学全集』(全57巻 新潮社)、『世界大思想全集』(全126巻 春秋社)、『明治大正文学全集』(全60巻 春陽堂)といった全集を発売していますね。

『現代日本文学全集 第6編』(改造社)
『現代日本文学全集 第6編』(改造社)
全ての漢字にルビが振ってあるのが特徴的
全ての漢字にルビが振ってあるのが特徴的

 ちなみに、アインシュタインの講演で通訳を担当した理論物理学者の石原純博士の本も改造社から出版されています。

『アインシュタインと相対性原理』(石原純/改造社)
『アインシュタインと相対性原理』(石原純/改造社)

 改造社はその後、1929年に「改造文庫」の発行を開始。雑誌『改造』も売り上げを伸ばしましたが、同誌に掲載された細川嘉六の論文が共産主義を賛美しているとして問題となり、1944年に廃刊(横浜事件)。1946年に復刊しますが、1952年に山本が亡くなったこともあり売れ行きが衰え、1955年に廃刊となりました。

 改造社は現在、改造社書店、改造図書出版販売株式会社として書籍の販売をしていますが、出版などは行っていないようです。

せっかくだし、改造社の円本を集めてみようかしら。

 今でも古書店で、そう高くない値段で販売されているようですので、少しずつ集めてみるのも楽しいかもしれませんね。

 それにしてもデジコレで全巻見ることができないのは意外でした。国立国会図書館または全国にある図書館送信参加館の館内では見られるそうですので、よければ読んでみてください。それでは、また次回お会いしましょう。

(出典=国立国会図書館)

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