本屋探訪記:最高の人×最高の空間が茅場町の「森岡書店」をつくりあげる
BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は、茅場町にある古いビルを使ったギャラリー兼本屋さん「森岡書店」を紹介。
茅場町にある古いビルを使ったギャラリー兼本屋さんをご存じだろうか?
周りはオフィスばかりである。まさかこんな場所にあろうとは教えてもらわねば分かるまい。
ではなぜ僕は知っているのか。
はじめて知ったのはある講義でのことだった。東京芸術学舎で開催された講義「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」。全5回で現役の本屋さんが講師となって話してくれるものだが、その中の1人が「森岡書店」の森岡さんだったのだ。
ボウズ頭の、かと言ってコワモテではない優しそうな男性が話してくれたのは、一誠堂書店という老舗書店での職歴と森岡書店開業のエピソードだった。
詳しくは「芸術学舎 講義『いつか自分だけの本屋を持つのもいい』第三回 森岡督行『本屋としての14年半』」で書いたのでここでは割愛するが、とにかく古ビル好きの森岡さんが惚れ込んだビルを本屋さんにしたことだけは触れておきたい。そんな場所なら行ってみたくなるのが人のさが。そういうわけで行ってみることにした。
看板などない
東京メトロ茅場町駅を降りて北に向かうと隅田川。これを川沿いに東に行くと古いビルがある。良い感じの古ビルだと聞いたから恐らくこの辺りだろうと思ったのだが、探せど探せど看板らしきものがない。あるのは飲食店の立て看板のみ。中に入って古いビル特融の雰囲気に気圧されながらも本当にここかどうか分からない。
サイトで確認すると店は3階らしい。ここまで来たのだからと恐る恐る3階まで上ってみる。エレベーターという文明の利器などこのビルには存在しないので階段で上がる……これかな、いや、まさか。ドアに小さく「MORIOKA SHOTEN」。知っていても見つけるのにひと苦労だ。
空間の魅力
中に入ってみると驚く。無音の空間にアンティーク好きの森岡さんが集めた古家具が整然と配置され独特の雰囲気を醸し出している。真ん中から見ると左右対称の空間。インテリアの配置は曼荼羅から着想を得たらしい。
店内は、入って左側が本屋さん、右側がギャラリーだ。ギャラリー部分はなかなかの広さで、このビル特有の若干黄色みがかった白い壁が作品を際立たせている。
ギャラリー部分と本屋部分を分けるのが細長い台。本棚部分は、ガラスケースとテーブルと棚。奥はすべて窓になっているのだが、この窓が良い。日の光が差し込んだこの空間は本当に素晴らしいのだ。
やさしいスキンヘッド
と、まあ建物としての魅力を紹介したがこの空間に外せないものがひとつある。何を隠そう店主の森岡さんである。先に述べた講義のときからの知り合いだが、本当に良い人なのである。滲み出る人の好さ。スキンヘッドというとコワモテのお兄さんを想像してしまうものだが、この人ほどやさしいスキンヘッドは見たことがない。
茅場町という立地条件からするとすぐに閉店してもおかしくない気がするが、もう何年間やっているのだろうか。空間としての魅力や店主の力量はもちろん、そういうところを超えた「森岡さんでなければきっとできなかった」とそう思わせる魅力が森岡さんにはあるのだ。
厳選された本たち
そんな「やさしいスキンヘッド」が厳選した本たちがこの空間にはある。量は多くないがどれも素敵な本ばかりだ。写真集を中心にzineや中には新刊本もある。ゆったりした空気の流れる中、本を愛でる時間の何と豊かなことか!
著者のいる店で買う
いつも通り「森岡書店的6冊」を選ぼうと思ったのだが、今回は店主による著書を紹介したい。物書きとしても活躍している店主である。人柄がにじみ出ていてその文章には惚れ惚れする。もちろん森岡書店でも買えるのでぜひ直接出向いて購入して頂きたい(以下、『荒野の古本屋』については探訪時には出版されていなかったが載せる。店主が森岡書店をつくるまでのエッセイだ)。
- BOOKS ON JAPAN1931-1972
- 写真集―誰かに贈りたくなる108冊
- 荒野の古本屋
魅力があれば立地は関係ない
つい先日、古本ライター岡崎武志氏の『古本道入門』を読み終えた。古本屋や古本の世界を面白おかしく、しかし丁寧に解説されていて面白かったのだが、こんなようなことが書いてあった。
いい古本屋に立地はそれほど関係ない
西荻窪の音羽館などを例に出してそう論じていたのだが、森岡書店に来てみると本当にそうなのだなと納得できる。茅場町駅は基本的にサラリーマンの街だ。だから、仕事で行くことはあっても観光や遊びで行くことはほとんど、いやまったくないと言っても過言ではない。ましてや川沿いにちょっと外れた道である。ただでさえ少ない人通りがもっと少なくなる。当然、普通の人間ならこんなところにお店を開こうなどとは思わないはずだ。
ところが、森岡さんはつくった。唯一無二のこの空間を。発端はビルの佇まいに惚れ込んだからということで、確かに建築としての雰囲気は堪らないものがあるが、それでもやはり森岡さんという人間がいなければ森岡書店は成り立たない。店主一人の店だから当たり前だが、それが本当に大事なことなんだと思う。
森岡書店は空間と人に魅力さえあれば立地条件なんて関係ないのだということを教えてくれる稀有な存在なのだ。
著者プロフィール:wakkyhr
本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。
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