e-Day:アナログにも仕事をさせろ(前編)

【国内記事】 2001.06.28

 デジタル情報革命は,インターネットという推進力を得て,生活のさまざまな場面で進行中だ。音楽は随分前にアナログレコードは駆逐されてしまったし,テレビのデジタル化も衛星放送を皮切りに始まった。

 しかし,世の中デジタルであればすべて解決できるかというとそうでもない。

 音楽CDを例に取れば分かりやすい。確かにベートーベンの交響曲第九番をコンパクトなCD 1枚に収めることができたのは画期的だった。演奏時間が1時間半を超えるマーラー作曲の一連の交響曲が今ほど人気を得ているのは音楽CDの登場に依るところが大きい。マーラーの場合,アナログレコードでは片面に収まらない楽章さえある。オペラに至っては,アナログ時代にどのように聴いていたのか不思議ですらある。

 ただし,デジタル変換によって起こる量子化(ある範囲内のデータを代表値に変換すること)によって,捨て去ったものもいろいろある。その最たるものが音質だ。

 今から4年前,デジタル一辺倒に疑問を持ち,最新のデジタル技術をベースにアナログ信号をうまく扱う新しい技術を開発すべく,ベンチャー企業を設立した日本人がいる。

「ロボットのような機械に“視覚”を持たせるべく,映像認識技術を開発しようと考えました。直感的に物事を判断させるには,デジタル化とプロセッサパワーで何とかしようというのはスマートではないんです」と,ニューコアテクノロジーの共同創業者でCTO兼社長を務める渡辺誠一郎氏は話す。

 彼をはじめインテルで働いた経験を持つ技術者たちが幾人か参加した同社は,茨城県つくば市とシリコンバレーのサンタクララに拠点を持つ。

 ただ,ちょうど会社をスタートさせたころ,カシオ計算機のQV-10が大ヒットし,デジタルカメラ時代の幕が上がった。

 当時としては画期的だったものの,処理が遅く,画質も悪く,色も平板だった初期のデジタルカメラを目にしたニューコアの創業者たちは,映像認識のために考えていたアナログ技術の融合を,この生まれたばかりの道具に応用しようと思いついた。チャレンジする価値は十分あった。

 デジタルカメラは,CCDの信号をデジタル化してイメージ処理と圧縮をかける。画質にはレンズの良しあしやCCDのサイズがもちろん影響するが,デジタルでイメージ処理するソフトウェアによってさまざまな味付けがなされる。

 しかし,デジタルカメラを使っていると分かるのだが,色に深みがなかったり,背景でボケたところにカラーノイズが発生するなど,銀塩フィルムを使うカメラにはいまだに及ばない。RGBごとにCCDとAD(アナログデジタル)コンバーターが3系統ある3 CCDカメラであれば,ホワイトバランスなどの補正もうまくいくが,1つのCCDで順番に取り出したRGB信号をいきなりデジタル化するとこうした問題が起こるのだという。

「アナログに仕事をさせるチャンスが見えた」と渡辺氏は振り返る。

 ニューコアでは,デジタル処理プロセッサの前にアナログのフロントエンドプロセッサを置き,アナログ信号のうちにピクセル単位でイメージ処理することを考えた。3 CCDカメラのような画像が1つのCCDカメラでも得られるようなものだ。

「デジタルによる後処理だけで何とかしようというのは邪道。素材あっての料理」(渡辺氏)

 1997年5月の設立から4年の研究開発期間を経て,この年末商戦からはいよいよニューコアのチップを採用したデジタルカメラが複数のメーカーから登場するという。息の長いベンチャービジネスもあるんだなと思った。

 デジタルカメラ業界を根底から覆すかもしれないニューコアの話は明日も続く。

[浅井英二 ,ITmedia]