Gartner Column:第9回 ハイプ曲線でITの先を読む

【国内記事】 2001.07.30

 ガートナーでは,IT動向の分析のためにいくつかのツールを使用しているが,その中でも特に有名かつ有用なものがハイプ曲線だ。ハイプ曲線とは,IT構成要素に対する期待度が時間の経過と共に変化していく状況をモデル化したグラフである(図1)。ハイプ曲線をうまく活用することで,ベンダーの過剰宣伝に惑わされたり,重要テクノロジーの採用に出遅れたりするリスクを低減することができる。

図1:ハイプ曲線

 あるIT構成要素が世の中に登場すると,次第に期待度が上がっていく(黎明期),そして,多くのメディアやベンダーがそのIT構成要素の過剰宣伝を行なうようになると,世の中の期待は必要以上に高まってしまう(流行期)。いわゆるバブル状態であり,そのテクノロジーがあたかも万能であるように感じたり,採用しないと世の中から遅れてしまうのではというような強迫観念を感じたりする時期だ。その後,過剰な期待の反動が訪れる(反動期),メディアにバッシング記事が登場するのがこの時期だ。そして,世の中が冷静さを取り戻し(回復期),そのIT構成要素の適切な適用範囲,価値,限界を理解するようになって,そのITは本来の価値に見合った地位(安定期)を得ることになる。

 もちろん,流行期が終わった後も高い価値を維持するもの(例えば,インターネットバブルの崩壊の後でも,インターネット自身の長期的な価値について異論を挟む人は少ないだろう)もあれば,一時の流行の後に過去の遺物として忘れられてしまうものもある(例はいくらでもあるが,ここで,具体名を挙げるのは控えておこう)。

 新しいものが登場してしばらくの間,世間の評価が上下するのは,ITに限った話ではなく,あらゆる分野において言えることだろう。評価検討中のIT構成要素が,ハイプ曲線のどの位置にあるかを考察してみることは,冷静な判断のためにとても重要なことだ。特に,流行時にあるITについて的確な意志決定を行なうことは難しい。

 以下のような落とし穴に注意する必要があるだろう。

落とし穴
1)適用範囲の拡大解釈:本来の適用目的以外でも有効な万能なテクノロジーであるかのよう錯覚してしまう。

2)適用可能時期の見誤り:ベンダーが提案する将来の長期的ビジョンを,すぐにでも実現可能と錯覚してしまう。

3)目的と手段の取り違え:ITは,ビジネス上の課題を解決するための手段である。しかし,ITへの過剰な期待により,それを採用すること自身が目標であるかのように錯覚してしまうことがある。

 また同様に,反動期における過小評価にも注意する必要があるだろう。

 ハイプ曲線の具体例として,7月2日に米ガートナーが発表した最新のハイプ曲線へのテクノロジーのマッピッングからの抜粋を図2に示した。

図2:最新のハイプ曲線へのテクノロジーのマッピッングからの抜粋

 Webサービスへの期待度は上昇しており,ハイプは加熱気味。P2Pは一時の熱狂が冷め,反動期に入ろうとしている。B2C ECは今や底にある。エンタープライズポータルは安定した評価を得て,当たり前のテクノロジーとなった。また,注目されつつある新規テクノロジーとしてSemantic Webが挙げられている。

 Semantic Webとは,現在のWebに対して,そのコンテンツの意味に関する情報も付加し,類似した意味を持つページ間でリンクを張ることで,情報検索の自動化を実現するためのW3Cで検討中のビジョンである(www.semanticweb.org参照,また,最近筆者が翻訳した「MITコンピュータサイエンス・ラボ所長ダートウゾス教授のIT学講義」(翔詠社)でも解説されている)。

 米国と日本における多少の温度差はあるかもしれないが,おおよそ納得できるポジショニングではないだろうか? 自分の判断で,自分なりのハイプ曲線へのマッピングを作ってみるのも有意義かもしれない。

 次回は,(元々は,今回書くことになっていた)コラボレーションについて書く予定だ。

[栗原潔ガートナージャパン]