e-Day:ITのオールスターをそろえたイオンのIT戦略

【国内記事】 2001.09.04

 米国時間の9月3日遅く,ヒューレット・パッカードによるコンパック買収が報じられた。株式交換によるものだが,その総額は250億ドルに上る買い物だ。タンデム,ディジタル(DEC)を買収してミッションクリティカルなエンタープライズ市場に食い込みを図ったテキサス州ヒューストンのPC/AT互換機メーカーのパイオニアが,株価の下落に抗し切れず,シリコンバレーの老舗との合併に追い込まれた。

 ここのところ,ドットコムの倒産には慣れっこになっていた業界だが,1998年のコンパックによるDEC買収以来の激震となっている。東京でもネットでコンパック買収の報が流れ始め,そのスケールの大きさと企業統合のダイナミズムに驚くばかりだ。

 そんな4日の夕方,都内のホテルでは,デフレスパイラルにあえぐ小売業界のライバルたちを尻目に,イオン・グループが総額350億円に上るIT投資を行い,10年後には「グローバル10」,つまり世界の小売業のトップ10入りを目指すという意欲的なビジョンをぶち上げた。

 同社は,8月21日にジャスコから社名を変えたばかりだか,こちらだって買収の歴史じゃ負けていない。

 昭和の初めに株式会社岡田屋が生まれたが,私が知っているだけでも,扇屋,伊勢甚などを吸収し,1988年にはアパレルの米タルボットも傘下に収めている。また,コンビニのミニストップやローラアッシュレイの国内展開など新業態にも力を入れていた。再建中のあのヤオハンもグループ入りし,いつのまにか小売業界最大手にのし上がっていた。

 そんなイオンがグループを挙げ,ITによって21世紀型のビジネスモデル創造を目指すのは,ひとえに危機感からだ。ウォルマートを筆頭とする小売業のグローバル10は営業利益率が平均で5%近いのに対し,国内では優等生のイオンも米国会計基準では2.8%と大きく水を開けられている。

 都内のホテルで行われた記者発表会で岡田元也社長は,「ジャスコの社員は牛馬のごとく働いているが,その成果はタルボットの足元にも及ばない。ITのレベルがそのまま差になっている」と,1997年に今回のITプロジェクトをスタートさせたきっかけを話す。岡田氏は,タルボットの経営に深く関わっていた。

 さらにITプロジェクトが始まった1997年以降,グローバリゼーションにも拍車がかかった。仏カルフールの進出も黒船級の大騒動になったし,中国企業への生産委託で良質な商品を安く販売するユニクロの前に総合小売業界はタジタジだ。

「WWRE(World-Wide Retail Exchange)の会合に出席しても,世界との格差を感じるばかりだった」と岡田氏。

 イオンの目標は明確だ。グローバルな競争力を身につけ,さらに同業他社だけではなく,異業種(例えば教育やエンターテイメント)にも負けない価値を消費者に提供できるようになることだった。

 イオンのITプロジェクトに参画するのは,まさに内外の一流ITベンダーたちで,よくぞここまでそろえたというほどのオールスター級の顔ぶれだ。

 日本アイ・ビー・エムが,米JDAソフトウェアグループのマーチャンダイジングパッケージをインプリメントし,そのデータベースは日本オラクルが提供する。サーバはサン・マイクロシステムズのEnterprise 10000(通称 Starfire)のクラスタ構成となる。

 JDAのマーチャンダイジングに関するパッケージは,世界1200社の小売業者が導入しており,ほぼスタンダードとなっているらしい。特に年商50億ドル以上の小売業者では40%が彼らのユーザーだという。

 また,富士通が商品管理システムの構築と運用を,日立製作所が物流システムをそれぞれ担当する。さらに,350億円のうち200億円を費やす店舗システムでは,東芝テックがWindowsベースのPOS端末を提供し,オムロンがPOSソフトウェアや店舗ソリューションを担う。POSのハードウェアとソフトウェアでさえ,異なるベンダーから調達するという徹底ぶりで最も優れた技術にこだわった。

 これらの優れた技術をとりまとめるのも小売・消費財企業に対するコンサルティングのスペシャリストであるカート・サーモン・アソシエイツ(KSA)だ。同社はフォーチュン500に入る小売・消費財企業93社のうち21社にコンサルティングを行っているという。

 まさに「ベスト・オブ・ブリード」を実践するイオン。日ごろ,ベスト・オブ・ブリードを攻撃するオラクルの総帥,ラリー・エリソンも地団駄を踏んで悔しがるような陣容だ。

「世界のベストパートナーをKSAがうまくオーガナイズしてくれたことで従来の殻を打ち破ることができた」と岡田氏も自信を見せた。既にITプロジェクトの成果は表れており,「49円のボールペンを売っても40円の儲けがでる」という。

 グローバルスタンダードがバズワード化しているが,日本の商慣習を打ち破って流通業改革に先鞭をつけたイオンは本気だ。

[浅井英二 ,ITmedia]