Linux Column:LinuxWorld San Franciscoにみる米国Linuxの状況(2)

【国内記事】 2001.09.05

 LinuxWorld SF初日の8月28日,招待講演に登場したのはコンピュータグラフィック(CG)アニメーションの製作会社であるドリーム・ワークスのエド・レオナルド氏。今回聞いたいくつかの講演の中では最も面白いものだった。

 ドリーム・ワークといえば,設立者の1人が「あの」スティーブン・スピルバーグ監督であり,最近日本で公開された作品としては「A.I.」を製作している。しかしレオナルド氏は,A.I.ではなく「Shrek」の製作に携わっているとのことだ。

 Shrekは,子供向けのアニメーション作品とはいえ,公開1カ月で2億ドルの興行成績をあげ,今年ナンバーワンのヒットとも言われている。この映画の製作にLinuxがかなり活用されているとのことで,その事例を中心に話が展開した。

CG業界におけるLinuxの隆盛

 同社はそれまで,CGアニメーションの製作に,SGIのワークステーションを利用していたが,膨大なレンダリング計算のためにマシンルーム一杯のマシンが必要だったという。しかし今回,新にシステムを再構築し,標準ラック1台に,1Uマシン(Pentium III×2基)を約40台搭載することで,スペース効率を大きく改善できたという。

 現在では,このクラスタ構成のシステムで,レンダリング処理を行っている。また,実際のアニメーション製作アプリケーションもLinux上に移植し利用したという。製作の70%程度はLinuxで処理をしたとのこと。同氏は今後,100%Linuxによるシステム構築を目指すという。まぁ,これは多少のリップサービスの感が無くもないが……。

公開1カ月で2億ドルの興行成績をあげ,今年ナンバーワンのヒットとも言われる映画「Shrek」

 実際,非常に精緻な,森の木々や丘の描写,人物の自然に近い表情など,1枚のCGとしても大変クオリティの高いものがアニメーションするのには驚かされる。参考までにスクリーンに映し出されたCGを撮影したものを添付しておく。このCGがLinuxで描かれたと思うと,なんだか嬉しくなるのは私だけではないらしく,会場からは万雷の拍手が寄せられた。

 さらに興味深いのは,ドリーム・ワークス以外のCGアニメーション製作会社が集まってLinuxに関するディスカッションとアンケート調査を行ったところ,実に業界の4分の3の企業が何らかの形でLinuxを利用しており,その利用率も急速に上昇していくだろうという結果が出たということだ。

 同氏は,CGアニメーション業界を「ニッチ」であると表現していたが,前述したように非常に多額の金銭が動く,失敗は許されない厳しい世界でもある。そのような分野において,Linuxが積極的に採用されていることは非常に誇らしく思われる。

 このような例を挙げるまでもなく,今後Linuxが低コストで実現するスーパーコンピューティングのプラットホームとして利用されていく可能性が非常に高いと思わせる内容の講演だった。

オープンソースパネルディスカッション

 LinuxWorld SFの2日目となる8月29日には,VA LinuxのCEOであるラリー・オーガスチン氏をモデレータに,パネラーとしてLinuxの開発者であるリーナス・トーバルズ氏,アパッチのブライアン・バーデンドルフ氏,Sambaのジェレミー・アリソン氏,XFree86のディーク・ホンデル氏が登壇,オープンソース開発に関するパネルディスカッションが行われた。

 ディスカッションのテーマが多岐に渡ったためポイントを絞るのが難しいのだが,もっとも議論が白熱したのは,「オープンソースライセンス」に関しての議論だ。

 オープンソースというとGPLと捉えられがちだが,実際このディスカッションに参加しているパネラーの開発しているソフトウェアのうち,GPLをライセンスとして採用しているのはLinuxとSambaの2つだけだ。そのほかの,Apache,X Windowは,それぞれ独自のライセンスを採用している。

 ライセンスもまた,そのソフトウェアのポリシーであり,かつそのライフサイクルを決める決定的な重要事項であるだけに,些細な違いの部分こそが重要なのだろう。残念ながら2人,3人と同時に話をしてしまい,ネイティブでない筆者には理解できない部分もあった。また,時間も限られていたために,結論らしい結論も出ずに議論は終わってしまったのも残念だった。

 しかし,同日の午前中に行われたローレンス・レシグ教授の基調講演もあわせて考えると,今後,オープンソースソフトウェアのライセンスに関する議論が沸き起こるのではないかという期待が膨らむ講演だったといえるだろう。

 全体的には,招待講演は数こそ少ないものの,旬のテーマを選んでいるため聞き応えのある内容だった。この辺りは,さすがに現在のITの中心地であるシリコンバレーでの開催の強みだろうか。質の高い情報の提供と,それにまつわる議論が繰り広げられたと思う。

 きっと,これがシリコンバレーの強さの源なのだろう。Linuxやオープンソースにおいても,それはなんら変わるところはないと感じられた。

[宮原 徹びぎねっと]