Linux Column:「緊急企画!」コンパック買収による新HPのLinux戦略を大胆予想する

【国内記事】 2001.09.06

 ヒューレット・パッカード(HP)によるコンパックコンピュータの買収劇には驚かされた。DECを食ったコンパックをHPが食う……。IT業界もまさに弱肉強食だ。ところで,この合併により生まれる新しいHPは,Linux業界にどのようなインパクトをもたらすのだろうか? 筆者なりに,大胆予想してみることにする。

 まずは,これまでの両社のLinux戦略をおさらいするところから始めてみよう。

 まずはHPだが,正直なところ,それほどLinuxに力を注いでいた,という感じはしない。同社のLinuxビジネスの中で特徴的なものを挙げるとしたら,1つは開発にかなり力を注いでいるIA-64上で動作するLinux IA-64と,最近発表したセキュアLinuxぐらいだろうか……。なにしろ同社は,商用UNIXで一大勢力を保っているhp-uxを提供しているのだから,戦略的にLinuxの優先度が低くなるとしても致し方ないところだ。

 一方,コンパックはどうだろう?

 同社は,PCベンダーの中でもかなりLinuxに積極的な部類に入ると言えるだろう。Linuxがここまで利用されるようになる前は,コンパックのPCはLinuxにとって鬼門だった。なにしろ同社のPCは,カスタムチップが多くそれらの仕様が公開されていなかったために,ネットワークやX Windowなどのソフトウェアを利用することができなかったのだ。

 さすがに,「それじゃぁ,ハックしてドライバを書こう!」などというボランティア精神の旺盛な開発者もいなかった。しかしその後,同社のハードウェアも,徐々にごく一般的な仕様になっている。現在では,Linuxのサポート開始とあいまって,Linux対応のよいベンダーに数えられるようになっている。

 こうして見ると新しいHPが,現在のコンパックのLinux戦略を上手に取り込み,リソースを活用できるかが短期的には重要になってくると思われる。

 それでは,中長期的にはどうだろうか……。

 HPは,いわゆる「バリューPC」への参入がかなり遅かったベンダーだ。バリューPCの市場は,どう考えても粗利が低く,今後もビジネスのメインストリームには成り得ないだろう。Windows環境であればともかく,Linuxはもっとビジネス的に難しい。

 だが,もしもこの市場で勝負するための最後の手段として,LinuxをプリインストールしてWindowsのライセンス分をコストカットしたバリューPCで,デルコンピュータと真っ向勝負してくれたりしたら,Linux市場としては面白くなると思うのだがどうだろうか?

 まとめてみると私の予測では,コンパックの方が積極的だったこともあって,その路線を継承することが短期的な課題であり,中長期的には,いまある技術的資産の価値を正確に見極め,それを融合させたソリューションにまで昇華させることが出来るかどうかがポイントとなるだろう。

 次にPCサーバ市場だが,この分野は現在でも両社ビジネスのメインストリームとなっているので,継続的に力を入れていくだろう。

 今回の合併を好意的に見た場合,HPのIA-64についての技術的ノウハウと,コンパックのアプリケーション系のノウハウが融合すれば,ハイエンドでのSIAS(Standard Intel Architecture Server)によるソリューションの実現が容易に可能になるだろう。ただし,その際には,hp-uxとの住み分けの問題が発生するのだが……。

 しかし,合併後の新HPは,市場からはあまり好感を持って迎えられてはいないようだ。両社の株価も発表後10%程度低下したようだ。この分では,Linuxサーバ市場へのインパクトもいかばかりかはありそうだ。

 最後に,モーバイルの分野だ。米国ではiPAQが大変な人気で,LinuxWorld SFの会場でも多くのブースで組み込みLinuxのデモ用マシンとして利用されていた。

 汎用製品の組み込み用途での利用というのは,あくまでソリューションの一部としてアプリケーション部分のみの作り込み用プラットホームという位置付けだ。この分野では,現在のところ他社にはない差別化したソリューションを提供できそうだ。対抗出来そうなのはカシオか東芝ぐらいだろうが,両社とも新HPとは業態が違いすぎるのでコンペには成り得ないだろう。

 今回の合併劇は,どちらかというとハードウェア面の事業統合が目に付きやすい。しかし,ビジネス的な成功はどちらかというとハードはそこそこに抑えて,その上で動かすソリューションを如何に構築できるかが勝負の分かれ目なのではないだろうか。

 合併発表の時点で筆者は,両社の合併の方向性に若干ボタンの掛け違えのようなものを感じるが,Linux市場に対してはそれほど大きな問題があるとは思えないので,比較的楽観視している。だが本当に重要なのは,ハードやソフトの統合ではなく,如何にして両社のリソース(特にLinux分野に関わる社員)をうまく融合させていくかにかかっていると言えるだろう。

 何事も,ありきたりのことを実行するのが一番難しいのも現実なのだ。

[宮原 徹びぎねっと]