Gartner Column:第15回 サンと日立には今年のベストカップル賞をあげたい
| 【国内記事】 | 2001.09.25 |
ハイエンドストレージに関するサンと日立の提携には驚かされたが,その驚きは,(HP−コンパックの時とは対照的に)「なぜ,この2社が?」ではなく「そうかその手があったか!」というものだった。
8月9日の米国におけるサンとHDS(日立の100%出資米国子会社)との提携発表に引き続き,9月18日には,日本国内においても,サン日本法人と日立製作所の間でも,ハイエンドストレージにおける提携に関する発表が行なわれた。サンが日立製のハイエンドストレージである「SANRISE2000-e」シリーズを共同ブランド(製品にはサンとSANRISEの両方のロゴが付けられる)として供与を受けるというものである。
最初にこの提携内容が米国証券アナリストからのリーク記事として伝えられた時には一瞬耳を疑った。サンは,かなり以前から発表の直前まで,ストレージを中核事業として自社製品を中心とした戦略を推進することを明言していたし,一方の日立は,サンのライバルであるHPにハイエンドストレージを供給していたからである。もし,サンが提携を行なうのであれば,SPARCとSolarisにおいて既に密接な関係を築いている富士通が自然な選択と考えていた。
日本での発表記者会見において,サン日本法人の菅原敏明社長がこの提携の重要な推進役であったと聞き,納得がいった。過去に,菅原氏は日本アイ・ビー・エムのメインフレームの技術支援部門のマネージャを務めていた(私事ながら,筆者はその時の部下であった)のだが,その時点で,国産メインフレーム,特に,日立製品の信頼性の高さを痛感されていたのでは,と思えるからである。
現在では,決して欧米ベンダー製品の品質が劣るというわけではない。しかし,例えばコストの観点から99.99%の信頼性で十分なところを,敢えて99.999%まで高めるという品質に対するこだわりという点で日立製品を評価する顧客が多いのは確かだ。
デスクトップPCのような,既にコモディティ(日用品)化した製品では,必要にして十分な信頼性を持った製品を安価かつ迅速に提供できるベンダー(具体的に言えば,デル)が有利だ。しかし,ハイエンドストレージは,まだコモディティ化したとは言えず,機能や信頼性を極限まで追及することで差別化が発揮できる市場領域なのだ。
ところで,読者の方で依然としてストレージを「周辺」機器とみなし,サーバに付随する存在と考えて方がいらっしゃるとしたら,ちょっと考えを改めた方が良いかもしれない。IT基盤におけるストレージの位置付けはきわめて重要になっており,もはやハイエンドシステムの購買では,サーバ本体のコストよりもストレージのコストの方が大きくなるケースも多くなっているのだ。
ガートナーでは,この傾向が今後も続き,2003年時点でストレージのコストがサーバ本体のコストの2倍近くになると予測している。
サーバ・ハードウェア市場は,台数ベースの増加と価格性能比の向上がほぼ相殺され,金額ベースの市場規模がほぼ横ばいで進むと予測されている。これに対して,ストレージ市場は今後とも市場サイズの拡大が見込める。特に,いったん大型ストレージをユーザーに納入してしまえば,後は倍々ゲームで容量が拡張されていく可能性が高い。つまり,ストレージはベンダーにとってもサーバと同等以上に重要な市場なのである。
サーバ市場でサンが勝ち組に残れるのはほぼ確実としても,既にゼロサムゲーム化している市場で高い成長率を維持することは難しい。
それゆえ,数年前から同社はストレージをサーバと並ぶ戦略的ビジネスの中核に据えてきていた。ところが,ミッドレンジストレージ製品のT3ではある程度の成果を収めたもののハイエンド分野の製品機能では出遅れていた。スピード最優先のIT市場で他社に出遅れることのリスクを,サンは誰よりも知っていただろう。結果としてハイエンドの商談では,EMCと組まざるを得ないケースが多かったわけだが,EMCは直販指向が強いベンダーなので,サンとしてはあまり組みたくないのが本音であっただろう。
今回の提携により,サンがストレージに消極的になったと考えるのは全く誤りだ。サンは,戦略的分野では,他社からの製品供与を受けないという前提をくつがえしてまで,ストレージ市場でのポジションを維持しようとしているのだ。
一方の日立は,米国においては,IBM互換メインフレーム事業から撤退し,国内のUnixサーバでは全方位外交的なOEM戦略をとるなど,サーバにおける差別化要素を失いつつあった。同時に,同社はストレージ戦略を大幅に強化しており投資の30%以上を振り向けている。日立のストレージ製品の優秀性には異論の余地はないが,海外における販売力は重要な課題であった。HDSの全社員数は約3000人であり,これだけでEMCの直販部隊と戦っていくことは難しい。
IT業界では,一方だけにメリットをもたらす「Win-Lose」型の提携や,シナジーを発揮できず両社が不利益を被ることになる「Lose-Lose」型の提携が数多い。しかし今回の提携は,両社にとってメリットのある「Win−Win」の提携ということができる。
サン−日立連合はかなり強力だが,ストレージ市場の競合は今後もますます激化するだろう。追われる立場であるEMCは,既にソフトウェアに比重を移した価格政策や直販中心戦略の見直しなど手を打ち始めている。ストレージ分野では出遅れが目立ったIBMも巻き返しを図っている。HP−コンパックもうまくシナジー効果を出せれば強力である。富士通やNECなどの国産ベンダーも開発能力は高い。また,Windows中心のローエンド市場では,「ストレージの価格破壊」を目指すデルも無視できない。
これは,ユーザーにとってみれば良い傾向だ。ベンダー間の競合によりますます有利な商談ができるようになるからだ。
最後に宣伝で申し訳ないが,11月13日〜15日に開催されるガートナージャパンのシンポジウムで,筆者はサーバ関連のセッションとは別に,ストレージに特化したセッションも行なう予定だ。お時間があれば是非ご参加いただきたい。質問やストレージ購買の相談も大歓迎である。
次週は,(今度こそ)CRMの2回目の予定だ。
[栗原潔 ,ガートナージャパン]
