Linux Column:安ければいいというものではない

【国内記事】 2001.10.23

 週末,家の近所を歩いていると,最近積極的なチェーン展開で有名な某焼肉店の前を通りかかった。そもそも焼肉店には,付き合いで行く程度で,あまり外で焼肉は食べない方なので気にしていなかったのだが,見るとはなしに店員が張り紙をしている。その張り紙を見てみると,キャンペーンのチラシだ。「生ビール,一杯98円」のほか,肉もかなり安くなっていた。

 あぁ,例の騒ぎの影響だな……,とピンときた。

 騒ぎになってからどれぐらい経つか分からないが,未だに状況は収束せず,新聞には未確認情報も含めて連日大きく報道されている。こんな状態では,一般市民(私も含む)は安心して牛肉は食べられない。

 店の側としては,売上減は切実な問題だろうし,政府の対応を待っていられない現状もあり,あの手この手を使って客を呼び込もうとするだろう。安い焼肉にありつけてお得な思いをする客もいるだろうが,全体的に見て打撃は相当なものらしい。安全というのは,お金とはなかなか引き換えにはできないものなのだと,妙に納得してしまった。

 この話から連想したのが,ここ最近のインターネットウィルス/ワーム騒動だ。

 Code RedやNimda,SirCamと矢継ぎ早に騒動が巻き起こり,一時期ネットワーク管理者は対応に四苦八苦させられた。ここのところはやや落ち着きを取り戻しているようだが,いつ何時同じような騒ぎが起きないとも限らない。これまでは,セキュリティ意識が希薄というか,安全に対するコストをかけずに安くてお手軽なものを導入してきたわけだが,そのツケが一気に噴出してしまった形だろう。

 どっちの話も,最終的には安ければいいという話ではない。本当に必要なのは「安価」ではなく「安全」だ。安全ならば,牛肉は売れるのだ。

 では,システムはどうだろう? 今まではシステムも,安全をないがしろにして,売りやすさだけで売ってきてはいなかっただろうか?

 今回の騒動で打撃を受けたのはどれもマイクロソフト製品だ。これまでもそのセキュリティ的な脆弱さは,指摘されてきたはずだ。にも関わらず,その安全性の問題に蓋をして販売をしてきたIT業界全体にも責任があるのではないだろうか。

 そろそろ,業界全体のあり方をもう一度見直すべきだろう。果たしてIT業界は何を提供していこうとしているのか。うわべだけの使いやすさだろうか? それとも隠れた危険にさらされながら使われるシステムだろうか?

 少なくとも「安全」を提供していくべきなのは間違いない。そこにコストを使わないでどうするのだ。

 翻ってLinuxを見ると,これまでは「安い」というのが前面に出すぎていた。例に挙げた焼肉店と同じだ。Linuxが完全に安全だとは誰にも言い切れない。ただ,確実にニーズはそちらに移行しつつある。

 今一度,Linuxと安全性について,皆が見直し,より強力な方向付けをし,そしてより良いものを提供していく決意を固める良い時期が来ているのではないだろうか。

[宮原 徹びぎねっと]