Gartner Column:第22回 マイクロソフトを変えるのは司法省ではなく,マイクロソフト自身だ

【国内記事】 2001.11.12

 マイクロソフトのソフトウェア製品に関する(特に,セキュリティ面において)品質の課題はいつまでたっても解決されないように見える。しかし,同社が転換期にあるのは確かだ。マイクロソフトは変わるのか? というよりも,変わることができるのだろうか?

 司法省による和解案の内容は,マイクロソフトにとって相当に有利なものであった。ただでさえ,大手企業に有利な政策を採りがちな共和党ブッシュ政権の存在は,マイクロソフトに有利と言われていたのだが,これに加えて,同時多発テロ問題による景気減速を恐れる米国政府は,マイクロソフトに足かせをはめることに一層消極的になってしまったのかもしれない。

 また,テロ問題解決に多くの政治的資源が必要となることが予測される中で,これ以上の労力を裁判に投入することも厭われるため,敢えて多少マイクロソフト有利になっても早期和解を目指すという意図もあったと思う。

 もちろん,和解がまだ成立したわけではないし,私企業による訴訟や米国以外の当局(特にEU)からのさらなる訴訟の可能性は依然としてある(サンは,今回の条件で和解が成立した場合には,マイクロソフトを告訴することも厭わないと公言している)。しかし,長年の間,マイクロソフトのビジネスにとって最大の懸念であった独禁法による裁きの影響は日増しに小さくなっているようだ。

 では,マイクロソフトは,今まで通りの,良く言えばアグレッシブな,悪く言えば傍若無人なビジネスを継続していくのだろうか?

 その答えはイエスだろう。

 例えば,既にライセンス条件の強化(Windows XPのアクティべーション機能や大手法人向けライセンスの実質値上げ)などの兆しが見られる。また,分割の可能性がきわめて低くなった以上,マイクロソフトは,.NETをプラットフォーム中立型のテクノロジーではなく,Windows中心型のテクノロジーとして推進していくことになるだろう。

 その一方で,マイクロソフトの悪評のもうひとつの要因であるソフトウェアの品質については,改善が見られるようになるかもしれない。これは,独禁法訴訟というよりもマイクロソフト自身のビジネスモデルの変革から生じるものになると思う。

 そもそも,なぜマイクロソフトは機能優先,品質後回しの製品開発を行いがちなのだろうか?

 例えば,IBMのような総合ベンダーであれば,ソフトウェアを安定稼働させることで,顧客の信頼を勝ち取り,ハードウェアを増強したり,プロフェッショナルサービスを契約してもらうことで,ビジネスを成長させていくことができる(実際,メインフレームの世界ではユーザーのOSのバージョンアップの頻度ははるかに緩やかだ)。

 しかし,基本的にソフトウェア専業ベンダーであり,しかも(サービスではなく)製品販売の収益に大きく依存するマイクロソフトには,これはできない相談である。

 また,マイクロソフトは優秀な人材の確保と維持のためにストックオプションを重視してきた(マイクロソフトの給与は決して業界最高レベルというわけではない)。このような給与体系をとっている以上,株価の継続的上昇を維持できなければ,要員の流出を招くリスクがある(実際,株価上昇ペースが落ちだした2000年以降,マイクロソフトのキーパーソン流出が目立つ)。株価上昇を維持するためには,当然ながら,利益率の高いビジネスを成長させていく必要がある。

 結局,利益率が高いソフトウェアの大量販売ビジネスを成長させていくためには,ユーザーに頻繁に有償バージョンアップをしてもらうしかない。ゆえに,マイクロソフトは,かなり無理をしてでもソフトウェアの機能強化を行い,ユーザーにバージョンアップを強いているわけだ。

 つまり,マイクロソフトのソフトウェアの品質の問題は同社のビジネスの成り立ちそのものから生じている要素が大きいと言える。

 逆に,マイクロソフトがビジネスモデルを転換しようとしている今,この機能優先,品質後回しの考え方が変っていくかもしれない。明らかに,マイクロソフトは,ソフトのバージョンアップ収入だけを頼りにした従来通りのビジネスだけでは長期的に必要な成長を維持できないことを認識している。新たな収益源として重要なビジネスには以下のものがあるだろう(もちろん,XBoxなどのコンシューマ関連ビジネスも重要だが,ここではエンタープライズ関連に絞らせてもらう)。

 第一に,Webサービスの基盤だけではなく,Webサービスそのものを提供するビジネスへの進出である。(Hailstorm改め).NET My Serviceはその先駆けだ。

 そして,コンサルティングである。マイクロソフトはコンサルティング事業を,ソフトウェア製品を売るためのサポート部門的位置付けから,独立採算のプロフィットセンターへと変革しつつある。2002年と2003年には20億ドル以上の投資を行い,場合によっては大手のコンサルティング会社の買収も辞さないとガートナーは見ている。

 どちらのビジネスも共通した特徴を持つ。それは,仮に,ソフトウェアの品質の問題があれば,マイクロソフト自身のビジネスに跳ね返ってきてしまうということだ。

 例えば,先ごろ発見されたPassportサービスのセキュリティホールのような問題点が,.NET My Serviceが本格化した後に発覚してしまえば,マイクロソフトにとっては二重のダメージになる。つまり,Webサービス基盤としてのマイクロソフト製品の信用失墜だけではなく,Webサービスプロバイダーとしての収益減(場合によっては,違約金も発生するかもしれない)のリスクが生じることになる。別の言い方をすれば,もはや「売りっぱなし」はできなくなってしまうということだ。

 もちろん,このような変化は長期的なものだし,前回にも述べたように,企業カルチャーとはそう簡単に変るものではない。しかし,マイクロソフトは意志決定の早さ,および,いったん重点投資分野を定めた領域への集中力には賞賛すべき点がある。品質向上への投資こそが,結果的にビジネスに一番貢献できる分野であると判断すれば,マイクロソフトは本当に変われるかもしれない。

[栗原 潔ガートナージャパン]



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