e-Day:e-コマースもシヤチハタ,これが日本の文化

【国内記事】2001.11.15

 印鑑を押すという「日本の文化」をそのまま取り入れた電子署名ソリューションで4社がタッグを組んだ。

 インターネットを介したe-コマースがしだいに生活の一部となり,クレジットカード決済に対する不安も徐々に薄らいできたような気がする。ブラウザの右下に鍵のマークが現れれば,ためらうことなく住所やクレジットカード番号をタイプインするようになった。SSLによる暗号化通信のおかげだ。

 それでも,家やクルマのような高額な買い物の場合はどうなるのだろうか。企業間で機密を要するやりとりをする場合はどうだろうか。e-Japan構想のもと,官公庁への各種の申請業務が電子化されるというがどうなるのだろうか。

 これまでであれば,売買契約やローン契約には印鑑証明書を添付して公的な機関によって「自分」を証明してもらった。企業間や官公庁へは書類を持って出向いたが,これがネット社会ではどうなるのか。

 ご存じのとおり,昨年5月,「電子署名および認証業務に関する法律」が成立,今年4月から施行されている。これまでの民事訴訟法では,「本人または代理人の署名または押印があるとき」は,その文書が正しく,契約などが成立していると推定できるとされてきたが,新しい法律では「電子署名」が署名,押印と同じ効力を持つことになった。

 こうした法律の整備が整ったことで,先に触れたがe-Japan構想のもと,国や地方自治体における申請業務の電子化や企業間の取引の電子化が一気に進むのではと期待されているわけだ。

 しかし,過去の例を見ても分かるが,商習慣がすぐに変わらない。その国の文化や制度の中で出来上がってきたものは一朝一夕にはなくならない。

 社内の申請書類ひとつ取ってみても,形式ばったイメージや,何かお伺いをたてる雰囲気を感じる。文体も「お願い申し上げます」みたいに自然となってしまう。いろいろな人のいろいろな大きさの印影が朱色で並んでいると,ありがたみも出てくる。不思議なものだ。

 今回都内のホテルで記者発表会を行ったアドビジステムズ,シヤチハタ,日本ベリサイン,および三菱電機の4社は,こうした日本の文化や制度になじみのある印鑑(印影)を引き続き使いつつ,新しいネット社会の電子署名ソリューションを提供しようというのだ。

 アドビシステムズは,オリジナル文書のイメージをできるだけ忠実に残しながら,インターネットを介して効率的に共有・交換できるAcrobat技術を提供している。既に世界13カ国語に対応し,3億コピーのAcrobatリーダーを配布しており,電子文書の世界標準といっていい。

 来日したアドビのブルース・チゼン社長兼CEOは,「多くの政府機関で採用され,売り上げは3億ドルを超えている」と,Acrobat事業が順調に拡大しているとした。ちなみに日本での売り上げはワールドワイドの25%を占めているという。

 1925年創業のシヤチハタは,1968年に正式には「Xstamper」(エクスタンパー)という商品名で販売を開始した,いわゆる「シャチハタ」で広く知られている。累計出荷は1億5000万本に達し,ネーム印の代名詞となっている。ちなみに「シャチ」は名古屋のシンボル,「金のしゃちほこ」を由来としているらしい。

 1995年には,文書のやりとりが電子化されるのを見越し,電子印鑑システム「パソコン決裁」をアスキーNTと共同開発した。バージョン3.0ではAcrobatのフォーマットであるPDFに対応し,さらにこの9月には,日本ベリサインの協力を得て,最新のバージョン4.0にPKI機能を追加した「パソコン決裁4 with PKI」を発表している。この「with PKI」では,PDF文書に押印することで電子証明書も埋め込むことができたり,受け取ってPDF文書の印影が正しいものかどうかをチェックできるようになった。

 三菱電機でも暗号化技術やPKIベースの電子認証技術といった,いわゆるe-コマースのセキュリティ技術からシステムまで幅広いノウハウを持っている。ほかの3社をまとめながら,製品やサービスの枠組みを共通化し,また市場を喚起する活動をリードしていくという。

 いかにも日本文化という印鑑だが,アドビのチゼン氏から意外なコメントが聞けた。

「PDFが成功したのは,それまでの紙の書類に近いイメージを電子的に再現できたからだ。日本市場では印影は欠かせない。人々がペーパーレスの電子ワークフローに慣れていくための重要なカギとなる」

 電子文書の分野ではXML化という大きな流れもあるが,印影とは……。目からウロコ,でした。

[浅井英二 ,ITmedia]