「XP,上等!」と叫ぶペンギンに,唯一「祭り」を見た

【国内記事】2001.11.16

 今や,Windowsメジャーバージョンリリース時の恒例行事となりつつある深夜販売。有楽町方面は,何やら「乙葉」効果で盛り上がったと聞くが,深夜販売の元祖とも言える秋葉原は,折りからの冷え込みもあって全般に「寒かった」。

 今回のWindows XPリテール版の販売でも,午前0時までのカウントダウンとくす玉割り,カメラのフラッシュの放列,そして店に吸い込まれていくユーザーの行列……といった風景を見ることができた。

もはやお馴染みの光景になりつつある,ラオックス ザ・コンピュータ館の販売開始直後の模様

 だがそれも,ラオックス ザ・コンピュータ館やソフマップ1号店 Chicagoなど,表通りの限られた店舗のみ。路地に1本入れば,声を嗄らして深夜販売を盛り上げようとしているのはショップのスタッフのみ,という状況だった。

 行列そのものも,並んでいる店舗でさえせいぜい100人程度で,最後尾が余裕で見渡せるほど。中には,せっかく開店したにもかかわらず,客がまばらというショップもあったほどだ。かつてWindows 95が発売されたときのように,店舗の周りをぐるっと長蛇の列が取り巻く,なんてことにはならなかった。

発売開始から30分も経つと,人出もまばらになった……が,ショップは気合十分

祭りは終わった?

 率直にいえば,1995年のWindows 95,1998年のWindows 98,そしてWindows 2000と,回を重ねるごとに,深夜販売の「お祭り感」は薄れてきている。

 秋葉原の街頭をうろつきながら聞き耳を立ててみると,「あ,どうも,お疲れ様です」「いやいや,無事に発売になってよかったですねぇ」と,どう聞いても関係者としか思えないような会話を交わす人が目立つ。そうでなければ,私と同じようにごっついカメラを抱えている報道関係者,あるいは野次馬だ。

 熱心なユーザーもいるにはいるが,それ以上に目立つのは背広組の姿。どうも普段の「アキバ」とはちょっと違う雰囲気だ。

 そういえば,Windows OSの深夜販売のたびに「打倒! Windows」とかなんとか,プラカードを掲げて練り歩いていた,あの彼の姿は見えない。一時期流行を見せた(?)路上インストールのような強引な技を披露しようというユーザーもいない。購入後は,淡々と家路に就くだけだ。

 店舗側の期待とユーザーの出足にこれほどギャップができたのはなぜか。1つには,深夜販売を行う店舗がどんどん増え,秋葉原(15店舗)だけでなく,有楽町や新宿,渋谷のように帰宅の足の便がいい場所や,自宅近くの量販店でも購入できるようになったことが挙げられるだろう。

 また,10月25日のWindows XP OEM版の販売開始時にも,同様の深夜販売が行われたばかりだ。熱心なユーザーならば既にこちらで入手済み,という可能性もある。

 それとも,この数年で乱発気味の深夜販売に,ユーザーも食傷気味なのか。電子メールやWeb,文書作成や表計算など,ユーザーが求める基本的な機能は既に現在のOSやPCで満たされており,わざわざ深夜に購入することもない,と考えるユーザーが多いのか。

 あるいは,「不況」の陰からは逃れられない,ということか。PCメーカーも販売店も,Windows XPには,低迷しているパソコン需要への火付け役として大きな期待をかけている。だが実際の需要はどうか。秋葉原の人出を見ると,ちょっと悲観的な思いがよぎった。

ペンギンは健在,「XP,上等!」

 せっかく深夜に開店するのに,Windows XPを売るだけではもったいないという思いがあるのか,開店していた店舗では,ハードディスクやCD-Rドライブ,各種メディアなどの特売も行っていた。かなり魅力的な値付けがなされた品が多く,こちらを目当てにしていたユーザーもいたようだ。

 私もどちらかといえば,そちらに惹かれた。中でも「しまった」と思ったのが,ぷらっとホームだ。

ぷらっとホーム前で呼び込み中のペンギン。コメントを求めたところ「XP,上等!」(語尾に効果音付き)とのこと

 同店では「XPの夜だからこそ、Linuxユーザ集まれ!」と銘打って,ディスプレイやLinux OSなどの特売を11時より実施。ざっとカウントダウンの模様を見てから駆けつけたのだが,めぼしいものはすべて売り切れた後だった。HHKを狙っていたのだが……(いずれにせよ午後11時では,仕事を抜け出して駆けつけるのは無理だ)。

店内ではWindows XPとともに,各種Linuxディストリビューションを販売しており,「Miracle Linux+Oracle9i」パッケージを購入するユーザーも。特価の品は12時前に完売になったという

 同店によれば,開店直前には相当数のユーザーが詰めかけ,特別に開放した6Fのフロアがいっぱいになったという。また店舗の外ではペンギンが,熱心にLinux特売の宣伝を行っていた。この日,唯一「お祭り」を感じたのがこのエリアだったというのは,何とも皮肉だ。

[高橋睦美 ,ITmedia]