Gartner Column:第25回 IBMの最重要プロジェクト「Project eLiza」を具現化する「Regatta」

【国内記事】 2001.12.04

 Regattaの登場により,少なくとも今後5年間,IBMはUNIXサーバ市場における第2位のポジションを維持していくことになるだろう。Regatta,そして今後のIBMサーバ製品全般の最大の差別化要素は,性能よりも信頼性におかれるようになっていくと思われる。

 Regattaは相当に強力なマシンだ。p680に続くp690という連続的な名称ではなく,全く新しいモデル名を付けてもよかったのではと思えるくらいだ(もちろん,既存モデルの買い控えを防ぐなどのマーケティング上の理由はあったのだろうが……)。

 Regattaの強力性は性能面だけではなく,システムのRAS(信頼性,可用性,サービス性)において顕著だ。例えば,故障発生前からコンポーネントの不良を予期する機能,ビットステアリングなどの高度なメモリエラー修正機能などは,従来はメインフレームの世界でのみ使用されていたものだ。

 IBMは,UNIXサーバおよびPCサーバの最大の差別化要素をRAS機能に定めたようだ。

 これは,自己修復,自己構成,自己最適化,自己防御機能を備えたシステムの構築を目的とした「Project eLiza」と呼ばれるプロジェクトの一環だ。IBMは,今後3〜5年の間に年間5億ドルをProject eLizaへの投資に費やすとしている。これは,IBMのサーバ関連の年間研究開発費総額の約4分の1に相当する。明らかに,Project eLizaは,IBMのサーバビジネスにおける最重要案件とみなしてよいだろう。

 2001年3月に,Project eLizaのコンセプトが発表された時点では,それは,具体的製品というよりもビジョンとしての色彩が濃かった。しかし,p690さらには,インテルサーバであるxSeires 360の登場によりProject eLizaの具体的内容が明らかになってきた。すなわち,少なくとも当面は,Project eLizaの中心はメインフレームの世界で培われたRAS機能をUNIXサーバやPCサーバへ移植するということだ。

 実際,メインフレームのRAS機能は依然として最先端であり,その結果として,ユーザーの現場におけるアップタイムも優れている。IBMメインフレームの新名称であるzSeriesの「z」が「zero downtime」の「z」であるというのは十分な正当性を持ったものだ。

 しかし最近まで,IBMはメインフレームの先進テクノロジーを,ほかのハードウェアプラットフォームへ移植することに消極的だったように思える。

 例えば,サンがStarfire(Enterprise 10000)で採用し,大きな差別化要素としてきたクロスバーインタコネクト,そしてパーティション機能(1つのシステムを分割し,複数のOSイメージを同時稼動させるための機能)などは,メインフレームの世界では10年以上前から一般化していた機能だ。

 本来ならば,IBMが世界最初にUNIXサーバの世界で実装できてもおかしくない機能である。しかし最近までIBMは,メインフレーム独自機能の他プラットフォームへの移植にあまり積極的ではなかった。

 結局,IBMはメインフレームを一番大事にしており,メインフレームと,ほかのハードウェアの間には一線を画しておきたかったのだろう。メインフレームは利益率が高いビジネスなので,企業としてこの選択は当然のことだ。

 しかし従来は,メインフレームのみが対応可能であったようなミッションクリティカルな領域にも,UNIXサーバ,そして,場合によってはPCサーバまでもが使用されるケースが増え始めてきたことで,IBMもメインフレーム専用機能を出し惜しみする余裕がなくなってきたのだ。

 もちろんこれは,IBMがメインフレーム上の既存アプリケーションを積極的にUNIXサーバやPCサーバへと移行していくということではない。

 自社のメインフレーム,UNIXサーバ,PCサーバを共通の土俵の上で競合させていこうという戦略,いわば自社プラットフォーム間のコーペティション戦略と言った方がよいかもしれない。仮に,メインフレームビジネスが「pSeries」に奪われることになっても,サンやHPに奪われるよりは,はるかにましという思い切りがついたとも言えるだろう。

 このようなサーバビジネスにおけるアグレッシブな姿勢は,IBMの現社長兼COO(最高執行責任者),サミュエル・パルミザーノ氏が,1999年にサーバ部門の総責任者のポジションに就いてから特に顕著になってきた動きだ。

 同氏は2002年内に,ルイス・ガースナー氏の後を継ぎIBMのCEO(最高経営責任者)に就任することが確実と言われている。IBMのサーバビジネス(特に,成長分野であるUNIXサーバとPCサーバ)における積極性は,今後ますます加速していくことになるだろう。

 このような積極性,そして,半導体テクノロジーも含めた奥深い技術力の活用により,IBMは,HPとコンパックの買収が成立するかしないかによらず,UNIXサーバ市場における2位のポジションを少なくとも今後5年間維持できる,とガートナーは見ている。別の言い方をすれば,IBMはサンを急速に追い上げるもののトップの地位を得ることはできないであろうということだ。

 と言うところで,次回は,サンがトップの地位を死守できるであろうと予測する理由について述べていきたい。

[栗原 潔ガートナージャパン]