Linux Column:OSDLが紡ぎだすもの

【国内記事】 2002.01.29

 1月24日,横浜にOSDL(オー・エス・ディー・エル)の日本およびアジア太平洋地域における拠点としてのサブラボが設立され,お披露目のセミナーおよびラボ施設の見学会が行われた。

 OSDLは,Linuxをエンタープライズ用途で利用可能にするための研究開発を行うために設立されたNPO(非営利団体)で,本部は米国オレゴン州ポートランドにある。さすがにポートランドは遠いので,横浜は極東地域の活動拠点というわけだ。

 そして,筆者もフルタイムではないがOSDLの活動に参加しており,今回のお披露目にも参加した。セミナーの内容は,高速なクラスターやカーネル内でのメモリの取り扱いなど,かなり深く濃い話であったのにも関わらず,非常に沢山の人が参加していた。

OSDLのセミナーには,多くの参加者が集まった

 OSDLの活動は,実際には3月からということなので,その成果が出てくるのはもう少し先になりそうだ。日本のラボの責任者であるディレクター,高澤真治氏によれば,「年内に4〜5件ほどの成果の発表をしたい」と言う。今回のセミナーの内容以外にも,いくつかのプロジェクトが必要になるだろう。

 実際には筆者も活動の一環として関係していかなくてはならないので,筆者自身の活動目標でもあるのだが……。

 とりあえずは,まず最初にLinuxの基礎体力がどれぐらいあるのかを知らなければならないだろう。

「横綱のへ道も,まずは新弟子検査から……」

 Linuxの現在のポテンシャルがどれぐらいあって,何が足りないのかは日々の研鑚の中から育まれていくものだろう。そのためにも,現状と課題,そして目標についての大まかなコンセンサスが必要になるのではないだろうか。

 良くも悪くも日本のIT業界は「ユーザー文化」だと思う。今,既にある物を上手に使うのが得意だ。だから「目的に合わせて使えるかどうか」という点が重要で,事例が何よりも優先されるところがある。このやり方のメリットは失敗が少ないことだが,当然挑戦的で画期的なシステムが生まれる可能性は低い。

 しかし,これにはどうしても国民性というものが出てくるだろうし,挑戦的なことが必ずしも良いとは思わないので,そういう事実があるのだ,というくらいに考えたい。

 そうすると,活路を見いだすのは「品種改良」という考え方だ。今あるものを,ちょっとした工夫で改良していく。例えば農産物の品種改良,あるいは自動車,機械。例を挙げればきりがないだろう。同じような役割をOSDLが果たすことができるならば,非常に大きな意味を持つに違いない。

 OSDLが取り扱うのは,Linuxを中心としたオープンソースだ。その成果も全てオープンソースであり,誰でもその内容にアクセスすることができる。ここに1つ,オープンソースであることの意義が見出せる。どんなに優れたことだったとしても,それを本質的に,詳細に見ることが出来ないのであれば,効果は半減だ。

 しかし,障害もまたこのオープンであることに意義がある。なぜクローズドにするかといえば,それを独占した状態にしておくことが現在では最も利益を生み出すからだ。だから,全ての活動をオープンにしなければならないOSDLの活動は,場合によっては利益相反することも多いのだろう。あるいは思ったような協力を得られないこともあるかもしれない。

 それでも歴史をひも解けば,独占的な勢力が永遠に栄えた試しはない。いつかは綻びが生じる。そして残るのは誰もが知り得る真実だけだ。OSDLが,そのような何かを企業とコミュニティの間に入って紡ぎだすことを期待したい。

 OSDLの活動については,今後折をみて同コラムでも紹介していきたいと思う。OSDLの日本語Webサイトもオープンしたので,是非訪れてみて欲しい。

関連トピック

▼エンタープライズLinuxを推進するOSDL

関連リンク

▼OSDLジャパン

[宮原 徹びぎねっと]