Gartner Column:第33回 とんでもない技術予測で恥をかかないためには(2)

【国内記事】 2002.2.04

 前回の原稿を入稿後,突然,10年以上前のあるエピソードの記憶が蘇ってきた。それは,OS/2が登場した時に,「パソコンにはマルチタスクなど必要ない」と主張したある識者のことだ。その理由は今となっては大笑いだが,今,われわれが未来を予測する際にも当てはまる重要な教訓を含んでいる。

 かなり前のことなので詳しい話は忘れてしまったが(仮にその識者の名前を覚えていたとしても,ここでは書かない方が彼の名誉のためだろう),その理由とは「自分が普段パソコンを使っているときに,同時に複数の作業を行うことなどないから」というものだったのだ。

 これは当たり前である。当時のMS-DOSの世界では同時に複数のことをやりたくても出来なかったのだ(もちろん,Windows バージョン2やIBMのTopViewなどの疑似マルチタスク環境は存在していたが,使っているのはごく一部のユーザーだけであった)。

 さらに同様な話として,「システム作りの人間学」(G.Mワインバーグ著,木村 泉訳,共立出版)に載っていたある例え話を思い出した。原書は1982年に発行されたクラシックだが,現在でも十分通用する示唆を含んだ本だ(この著者独特の持って回った言い回しは,好みが分かれるかもしれないが)。

 その例え話とは,システム分析における落とし穴を説明するためのものであり,要約すれば以下のようなものだ。

 電車が朝夕一本しか止まらないような過疎村の主婦達が3時頃に村を出る電車があれば買い物に便利なのにと考えていた。ちょうど3時に村の駅を通過する電車があったので,鉄道会社に対して,その村の駅にも停車すれば乗客が増えるはずと提案した。鉄道会社は需要調査の後にその提案を却下した。その理由とは,3時頃にその村の駅を視察したところ,電車を待っている人がいなかったからというものだった。

 上のふたつの話は客観的に見れば笑い話だ。しかし,自分が将来予測や現状分析をする立場になった時に,気付かないうちに上記と同じようなロジックで判断していないか十分気を付けるべきだろう。使われていないから需要がない,ユーザーがいらないと言っているからその機能はいらないというのは,相当に乱暴な論理であると言えるだろう。

 前回は,「このような見落としを避け,未来を読むために必要なのは結局,想像力とビジョンである」と述べて,具体的な方法論をあいまいにしてしまったが,今回はガートナーで採用している手法のひとつを(別に隠すほどの話でもないので)紹介しておこう。それは,相反する意見を持つグループ間でのディベートである。場合によっては,(本人が実際にどう思っているかに関わらず)人為的にグループを分けてディベートを行うこともある。

 最近の例で言えば,コンパックとHPの合併の成立可能性についてのディベートが行われた。例えば,合併不成立予測派は「創業者家族が反対している以上,多くの株主が心理的な見地から見て反対する可能性が高いはずだ」と主張すれば,成立予測派は,「合併に反対する株主は,既に見切りを付けて株を売却してしまっているはずだ」と主張するといった具合である。

 こうした議論を続けることで,予測の精度を向上させると共に,会社としてのポジションのコンセンサスをアナリスト間で確立して行くのがガートナーの基本的方法論のひとつなのである。

 ガートナーのアナリストのバックグラウンドはさまざまだ。MBA取得者,コンピュータ・サイエンティスト,情報システム部門の管理職経験者,ベンダーの製品開発部門,SIベンダー出身者……。このように異なるバックグラウンドを持つアナリストが議論をすれば,意見が一致しないのは当たり前である。

 われわれは,意見が異なるのを大前提としてディベートを行うことで,あらゆる可能性を漏れなく検証し,可能な限り真実に近付くことができると考えている。個人や同質のグループが考える予測には,いかに優秀な人によるものであってもどうしても漏れや偏りが生じてしまうだろう。

 ディベートという技法を中学高校から教えてくれる米国とは異なり,建設的論争で真実に近付いていくという手法が一般的な日本企業では,なじみが薄いかもしれない。このような議論を行っても,どうしても感情的になったり,単なる馴れ合いで終わってしまったりしがちだろう。

 しかし,これからの不確実性の時代に(ITに限らず)先を読むためには,是非この種の手法にトライしてみるべきではないだろうか。

[栗原潔ガートナージャパン]



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