.NetのWebサービスに欠かせない機能を提供する東芝テックの「WX.Net」

【国内記事】2002.2.13

 マイクロソフトは,XML Webサービスを実現するためのプラットフォームとして.Net Frameworkを,また開発環境としてVisual Studio .Netを提供する予定だ(米国では2月13日にリリース)。しかし,実際に企業でWebサービスを実行させることを考えると,リソース管理や障害管理,例外処理,ジョブスケジューリングなど,細部に渡るさまざまな機能を実装する必要が出てくる。

 このような機能を,POSやハンディターミナルなど流通小売業向けシステム大手の東芝テックは,アプリケーションサーバ製品「WX.Net」として提供する。そのWX.Netについて,東芝テックの流通システムカンパニー,システムソリューション統括部の平野和順氏に聞いた。同氏によれば,WX.Netは,必ずしもPOSやハンディターミナル向けアプリケーションに特化したものではない。Visual Studio .Netを利用したWebサービスの開発において,汎用的に利用できる強力なミドルウェアだ。

「WX.Netを世界で展開させる」と話す平野氏

 東芝テックは,主力となるハンディターミナルやPOSシステムにおいて,マイクロソフトのWindows NT Embeddedを採用したデバイスを多くリリースしている。

 さらに,.Net向けシステムの開発で,昨年の2月にマイクロソフトと提携している。昨年9月にテロが起こるまでは,シアトルの米マイクロソフトに同社のエンジニアが駐在し,共同でシステムを開発していたという。社員のセキュリティへの配慮から,エンジニアは日本に引き上げ,現在はメールなどを利用して,シアトルとの共同作業を行っている。

 今後は,米マイクロソフトと東芝テックの海外各拠点が協力して,世界規模でWX.Netを展開していくという。同社は,マイクロソフトとの関係で,3つの事業を展開する予定だ。

 1つは,実行環境および開発環境という2つの機能を持つWX.Netを製品として販売すること。

 また,「クレジット決済サービス」や「顧客管理サービス」「販売管理システム」などをXML Webサービスとして,ASPの形態で提供する。さらに,既にある同社のアプリケーション製品群を.Netフレームワークに対応させ,販売していくという。

 WX .Netは,疎結合の分散オブジェクト環境の実現を目指している。東芝テックにはもともと,Windows NTベースの流通システムを構築するためのミドルウェア「WXFW(Windows eXtention Frame Work)」があり,自社内だけで使用していたWXFWを.Net Frameworkに対応させたものがWX.Netだという。

WX.Netのフレームワーク

 WX.Netは,Visual Studio .Netにアドインする形で実装され,Visual Studio .Netをパワーアップさせた開発環境の機能と,実行環境という2つの機能を提供する。

 開発環境として,WX.Netは,プロセス間通信やプロセスの初期化/終了処理,XML設定ファイルへのアクセスなど,アプリケーション開発に共通して必要な機能をカプセル化し,クラスライブラリと開発ツールとして提供する。

 このため,開発を担当するエンジニアは,もろもろのハンドリングはWX.Netに任せ,アプリケーションロジックを追加するだけで,必要なWebサービスを開発することができるわけだ。

 一方,アプリケーションの実行環境としても,さまざまな機能を提供する。具体的には,「Message Exchanger」「Flow Controller」「Result Manager」「State Manager」「Scheduler」「System Controller」「Process Manager」「XML Server/Client」「Data Importer/Expoter」などを挙げることができる。

 例えば,Message Exchangerは,SOAP(HTTP)プロトコルを利用して,プロセス間の通信を実現する。また,Result Managerは,自動実行されたフローの処理結果を一元管理し,処理フローごとの実行結果とエラー発生時のリカバリ処理を行うという。

Webサービス実現に向けた技術的な課題

 一般に,Webサービス実現のためには,標準技術の仕様をまだまだ強化しなくてはならないという。平野氏はその課題について次のように話す。

 まず,現状のSOAP1.1は,リクエストレスポンスのみで,トランザクションの規定がない。同氏は「SOAP1.2」に期待するとしている。

 また,ビジネスロジックの実装にも課題があるという。SOAPはあくまでもインタフェースを呼び出すプロトコルだ。クライアントPCなどから,SOAPを経由してIISとASP .Netが処理要求を受けると,ASP .Netはアプリケーションサーバにある業務ロジックを,従来のCOMを使って呼び出すのが実状だという。

 そして,呼び出される内側の業務アプリケーションの開発に関しては,現状,.Netとしてのソリューションがない状態。COMで呼び出し,そこで呼び出された業務ロジックを開発するプラットフォームは,Visual Studio .Netではなく,Visual Studio 6.0というわけだ。業務ロジックについても,.Netとしての開発環境の出現が待たれる。

未来型ショッピング「Virtual in Real」

 東芝テックは,.Netのプラットフォームを利用して,流通小売業における未来型ショッピングを提案することを視野に入れている。

 これを同社は「Virtual in Real」と位置付ける。バーチャル店舗とリアル店舗の差異をなくし,リアル店舗にはさらなる付加価値を与えて,商品販売市場の拡大を図る。

 例えば,情報家電向けアプリケーションをWX.Netで開発し,インターネットに接続した冷蔵庫に実装する。この冷蔵庫は,野菜や肉などの在庫を管理できるようになり,不足があれば,自動的に肉屋や八百屋に発注を掛けるといったことも可能だ。ユーザーは,実店舗にいるのと変わらないくらい便利なサービスを自宅で受けることができる。

 また,実店舗でのショッピングでも,携帯端末やインターネットと連動したPOSでの決済などを可能にして,ユーザーの利便性を高めるという使い方が想定できる。

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[怒賀新也 ,ITmedia]