Oracle AppsWorld 2002 Keynote:あの手この手で最新11iへの移行を促すオラクル

【海外記事】2002.4.08

 カリフォルニア州サンディエゴで4月8日,「Oracle AppsWorld 2002」カンファレンスが正式に開幕した。オラクルが本社を置くサンフランシスコから南約800マイルに位置するサンディエゴは,ラリー・エリソン会長兼CEOがチャレンジするヨットレース,アメリカズカップの開催地でもある。この週末はどんより曇ることが多かったが,AppsWorldが開幕するや,まぶしい太陽が戻ってきた。

 オープニングの基調講演に登場したオラクルのチーフマーケティングオフィサー,マーク・ジャービス上級副社長は,5年前に起こったe-ビジネスの波が,すべての企業に押し寄せていると話す。しかも,ITが主導した部門レベルの自動化だったe-ビジネスが,ドットコムベンチャーの後退やIT不況を経た5年後の今日では,CEOが次の20年をどう牽引していくのかを見据え,ビジネス自体を変えようとしている。

「大企業といえども,ドットコムのような俊敏さが求められている。それはテクノロジーの変化ではなく,プロセスの変化であり,企業文化の変化だ」とジャービス氏。

オラクルのマーケティングを統括するジャービス氏

 オラクルは1999年,他社に先駆けてインターネットベースのCRMをリリース,Oracle Applications 11に統合して「E-Business Suite」を打ち出した。SAPやピープルソフトら競合他社は当初,ベスト・オブ・ブリードを唱えたが,今ではスイート化の流れが決定的だ。

「1つのデータベース,1つのデータモデルの上で一連のアプリケーション,例えばCRMとERPがギャップなく連係し,世界中どこからでも同じ情報にアクセスできるようにするのが,われわれのE-Business Suiteだ」(ジャービス氏)

 Oracle9iという1つのパワフルなデータベースに情報が格納されているため,日々ビジネスが行われていく中で,どこに問題が隠れているのか発見し,素早く手を打つこともできる。オラクルは今年1月,アムステルダムで行われた欧州版のAppsWorldで「Daily Business Close」を掲げ,そうした俊敏な経営の重要性も説いている。

 このDaily Business Closeからは,ややもすると「日次決算」のような会計用語的な意味を連想しがちだが,オラクルでアプリケーション開発を担当するロン・ウォール執行副社長は,「たった35セントで毎日,世界中の出来事が手に取るように分かる新聞のようなもの」とDaily Business Closeのコンセプトを説明する。

 ジャービス氏は,「E-Business Suiteにビジネスインテリジェンスの機能を持たせれば,問題がどこにあるのかすぐに分かるようになる。(Daily Business Closeベースの)新しい別製品が出てくるのではなく,スイートにどんどん新しい機能が追加されていくと期待してほしい」と話す。

ノンカスタマイズ!

「スイート vs. ベスト・オブ・ブリード」の戦いに決着をつけたオラクルは,再び大胆な「ノンカスタマイズ」キャンペーンを打ち出してきた。これまで20年続けてきたやり方ではなく,次の20年を見据えてソフトウェアを考えるようになったユーザー企業の変化を踏まえたものだが,「カスタマイズされたアプリケーションはアップグレードが難しい」(ジャービス氏)という事情もある。

 ジャービス氏は,昨年,粗鋼の生産量で世界トップに立った韓国の浦項総合製鉄(ポスコ)が11iを稼動させ,早くも年間1.2億ドルのコスト削減を実現している事例を紹介した。

「ポスコのアプローチは,全社をE-Business Suite 11iで標準化し,しかもカスタマイズはしていない。代わりにビジネスプロセスを再設計した」(ジャービス氏)

 オラクルでは,スイート化を機にOracle Applicationsの名称をE-Business Suiteに切り替え,過去のバージョンも併せてブランドを統一しているが,実際には1万2000ユーザー中,最新の「11i」ユーザーは10パーセントに過ぎない。1998年の「11.0」が35パーセントで,残りの55パーセントは1996年の「10.7」を現在も利用しているという。オラクルとしては,「ノンカスタマイズの11i」による成功事例を示し,顧客に早期のアップグレードを促したいところだ。

 ジャービス氏も「今回のAppsWorldカンファレンスのテーマは,“アップグレード”であり,それをいかにサポートしていくかにフォーカスしている」と話す。正式にカンファレンスが開幕する前日の日曜日にはプレセッションとして「11i Upgrade Forum」も開催された。

 カンファレンス初日には,アップグレードを検討する顧客たちを支援するための具体的なプログラムも発表されている。「Oracle's 11i Upgrade to E-Business Suite Outsourcing」と呼ばれるアップグレードサービスで,既存の10.7や11.0ベースのシステムをオラクルのホスティングサービスへと移行してもらうことで,短期間での11iアップグレードとITコストの大幅削減を提供しようというものだ。このプログラムを採用する顧客企業は,引き続き5年間,メジャーリリースへのアップグレードも受けられるという。

 オープニングの基調講演のあとに行われたプレス向けのQ&Aセッションでは,幾つかの11i採用企業が紹介されたが,中でもワシントンD.C.に本社を置くジョン・アイ・ハァスは,E-Business Suite 11iをOracle Online Servicesで利用している。ビール用のホップを栽培し,世界の大手ビールメーカーに供給している同社は,移行に関するコンサルティングもオンラインで受けたという徹底ぶりだ。

 同社では,運用コストを20パーセントまで劇的に引き下げることに成功している。

[浅井英二 ,ITmedia]