ウインドリバーにプラットフォームを任せるのが組み込み市場での成功のカギ

【国内記事】2002.4.12

「これまで,われわれが組み込み市場に対して考えてきたことは,すべて間違えだった」

 ウインドリバーのCTO(最高技術責任者),ジョン・フォグリン氏が,こう話すのには3つの理由がある。その理由とは,とにかくフットプリントを小さくすること,1つのチップ上にすべての機能を集約してしまうこと,そしてPC市場と同じことが組み込み市場でも起きると考えていたことの3つだ。

ウインドリバーのCTO,ジョン・フォグリン氏

 フォグリン氏は,これまでの組み込み市場では,フットプリントを小さくすることが優先であり,それによりアプリケーションの効率化を実現し,デバイスのコストを引き下げることが可能になったという。また,組み込みデバイスには高いセキュリティも必要で,アプリケーション全体を同一のチップ上に集約することで,高いセキュリティを実現していた。

 同氏はさらに,PC市場で起きたことが,組み込み市場にもそのまま起きると考えていたという。PC市場では,コモディティ化により幾つかのバージョンや製品があったとしても,最終的には1つのバージョンや製品に集約されてきた歴史がある。現在のPC製品は,すべてが全く同じというわけではないが,操作性や機能,価格など,基本的な面で見れば同じ仕様に集約されている。

 しかし,ネットワークやインターネットに接続することが必要になったことにより,組み込みデバイスに求められる機能も大きく変化してしまったという。

「組み込み分野では,よほど注意深くアプイケーションを構築していなければ,ほかのプラットフォームに簡単に移行することはできなかった」(フォグリン氏)

 同氏は,「間違いだった」と話しているが,組み込みデバイスが,単独の製品として利用されている間は,このような手法もまんざら「間違い」とはい言い切れない。ネットワークやインターネット上で組み込みデバイスを利用することが必要になったために,デバイス間の相互運用性が重要になってきた。そのために,従来の開発手法では新しい仕組みに対応することが難しくなったというのが本音のところだろう。

 そこでウインドリバーでは今年の3月に,新たな戦略を発表。DSP(Digital Signal Processors)ベースのアプリケーション構築のための組み込みアプリケーション開発プラットフォームをリリースした。「VSPWorks」と呼ばれる同プラットフォーム製品は,ウインドリバーが昨年,買収したイオニック・システムズの「Virtuoso」技術をベースとしたものだ。

 VSPWorksは,拡張可能な分散アプリケーション開発に最適化されたコンピューティングモデルを実現するための環境を提供するもの。RTOSおよびGUIベースの開発ツールで構成され,非常に少ないメモリのフットプリントを実現し,単体または複数のDSPアプリケーションに適用できるフレームワークを提供する。

 VSP(Virtual Single Processor)モデルを採用することで,マルチプロセッサ環境やマルチコアシステム環境においても単一のプロセッサシステムであるかのようにプログラミングすることができるという。

 VSPにより,CPUやDSP,FPGAなどを1つの環境として利用することが可能。これにより,非常に広範囲の分野で利用可能な組み込みアプリケーションを実現することができるという。構築されたアプリケーションは,ソースコードを変更することなく,さまざまなプロセッサを搭載したハードウェア上に再構成することも可能だ。

 キーテクノロジーであるコンポーネントは,DSPのために最適化された拡張可能な小さなフットプリントカーネルを含んでおり,マルチコア分散アプリケーション用のVSPアーキテクチャや迅速なシステム設計にするツール群により,デバッグや集中処理を必要とするさまざまなアプリケーションの展開を容易にしてくれる。

「われわれは多くのコンポーネントを提供しており,どのコンポーネントと,どのコンポーネントを選択し,組み合わせていくかは大きな問題の1つだった。そこで,われわれのソリューションでは,必要な構成要素をすべてパッケージ化することにした。再利用可能なコンポーネントを提供することで,組み込みシステム開発の効率化が可能だ」(フォグリン氏)

プラットフォームの選択が成功のカギ

 ウインドリバーでは,VSPWorksで構築されたソリューションを,ネットワークインフラ分野やデジタルコンシューマ分野,航空・宇宙・防衛システム分野,製造業分野,自動車分野という,5つの分野に展開していく計画だ。

「コマーシャルな分野では,われわれは既にナンバーワンのポジションにいるが,そのほかの分野ではまだまだだ。しかし,われわれは研究開発に9000万ドルを投資しており,(ナンバーワンを狙える)非常にいいポジションにいると言える。利益を十分に確保しながら,これだけの研究開発費を投資できる企業はほかにない」(フォグリン氏)

 同社が5つの分野すべてでナンバーワンを目指すために,最大の競争相手となるのは,プラットフォームを自分たちで開発してしまう顧客企業そのものだという。現在,オープンソースを利用して,組み込み向けのプラットフォームを独自に構築する手法は世界的にも注目されている。

 しかしフォグリン氏は,「オープンソースを利用する手法では,セキュリティやシステムの最適化などに多くの時間とコストを費やしてしまい,迅速な市場への製品展開を実現することができない」と言う。

「Linuxを使っても,Windowsを使っても同じカスタム化を実現することは可能だ。しかし,それには多くの時間が必要になる。また,信頼性や安全性,セキュリティなどをすべて自分たちで開発し,組み込んでいくことは現実的でない。われわれのプラットフォームを利用することで,このような基本的な問題はすべて解決することができる」(フォグリン氏)

 ウインドリバーのプラットフォームを利用することで,顧客企業はアプリケーションの開発に集中することができるという。顧客は革新的な分野に注力し,インテグレーションについてはウインドリバーに任せるのが最適な方法と同氏。ここでいうインテグレーションとは,ネットワーク,マネージメント,セキュリティ,リライアビリティの4つを強力に統合したプラットフォームで実現できるソリューションを指している。

 しかし,顧客が組み込みプラットフォームの自社開発をやめて,ウインドリバーのプラットフォームに乗り換えるという判断をするためには,同社がプラットフォーム製品を将来的にもサポートし続けることができるという保障が必要になる。

「既に,そのための準備は整った。組み込み市場で成功するためカギは,プラットフォームをウインドリバーにまかせることが最も近道だ」(フォグリン氏)

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[山下竜大 ,ITmedia]