Gartner Column:第44回 経営戦略とIT戦略の不整合チェックリスト

【国内記事】 2002.4.22

 前回論じたみずほ銀行の事例からも容易に分かるように,経営戦略とIT戦略の不整合は企業に対して大きなリスクをもたらす。今回は,そのようなリスクの度合いを把握するための簡単なチェックリストをご紹介しよう。

 このチェックリストは,ガートナーのCIO向けプログラムのディレクターであるマリアン・ブロードベントが,ガートナー入社前にメルボルン大学のマネジメントスクールで研究職にあった時に考案したものである。

 下記の各質問に対して,「全くその通りである」(1点)から「全くそうではない」(5点)までの5段階評価を行い平均を取る。おおよその評価は,以下の通りとなる。

4点以上:高いレベルの整合性が取られている。プロセスは健全であるため,必要に応じて適切な文書化を行うべきである。

3〜4点:ほぼ適切なレベルの整合性が取られているが,一部に注意が必要な分野がある。

2〜3点:適切な整合性が取られていない危険性がある。 1〜2点: IT戦略とビジネス戦略の整合性向上のためのアクションを直ちに行うべきである。

Q1.上級役員がITの役割に関するビジョンを持っていない。

 この質問の答を直接的に得るのは難しいかもしれないが,ITとの関連が深い上級役員ポジションが存在するかどうかが重要な指標となるだろう。上級役員ポジションとは,例えば,CIO(Chief Information Officer),CKO(Chief Knowledge Officer),CCO(Chief Customer Officer)などを指す。

Q2.ITプロジェクトが情報システム部門主導型である。

 これについては説明は不要だろう。ITプロジェクトがデマンドプルではなくテクノロジープッシュになっているということもあるし,プロジェクトの遂行にあたって業務部門がリーダーシップをとっていないということもあるだろう。

Q3.経営戦略にIT間連の項目がない。

 この質問は前回のコラムの最後でも触れたものだ。上級役員に直接サーベイすることが困難な場合(現実的にはほとんどの場合がそうだと思われるが)でも,比較的容易にこの質問の答えを得ることはできるだろう。

Q4.業務上の意思決定に本当に必要なデータが見つからないことが多い。

 情報システム部門が数多くのレポートやアプリケーションを提供してくれているものの一番肝心なデータが入手できないなどである。多かれ少なかれどの企業においても発生している問題であろうが,情報システム部門と業務部門のコミュニケーション不足を明確に表してくれる指標である。

Q5.全社的なITの標準化が進んでいない。

 これも説明は不要だろう。マネジメントがITを全社的な戦略課題ではなく部門レベルの案件として捉えていると,標準化上の問題が発生しやすい。

Q6.上級役員がITの価値をあまり認識していない。

 この質問の直接的な答えを得るのは難しいかもしれないが,上級役員がITについて社内外に向けて語ることが多いかなどが指標になるだろう。

Q7.情報システム部門と業務部門が,お互いの問題を他人事として見ている。

 説明は不要だろう。この問題は多かれ少なかれどの企業にも存在すると言ってよいのではないだろうか。

Q8.真に困難な業務においてITが助けになっていない。

 ITが給与計算や在庫管理など(重要ではあるが)比較的容易な業務では使用されているものの,例えば,セールスマンのノウハウ共有,優秀な人材の確保などの本質的に困難な業務には活用できていないということである。

Q9.ITプロジェクトのコスト正当化が困難であることが多い。

 業務部門も明らかに価値を認めているIT投資に対して,最後の最後になって投資判断が下されないことが多いということである。予算権限を持つ役職者が,ITに対する支出を投資ではなく費用であると見ていると,このような状況が発生しやすい。

Q10.上級役員が,ITコスト削減のみがアウトソーシングの目的であると考えている。

 上級役員がITを単なる業務効率化の手段として見ており,上記と同じく,IT支出を費用としてだけ見ているとこのような問題が起こりやすい。(ITに限った話ではないが)アウトソースの中心的目標は,企業のコアコンピタンスへの集中に求めるべきである。これを見誤ると,IT戦略立案能力の形骸化を招き,かえってITの投資効果を低下させてしまうことになる。

 これらの質問はきわめて大雑把なものであるし,また自己評価である以上,厳密な診断が行えるわけではない。また,業種によってITの持つ位置付けは異なるので,異なる企業間で数値を比較することに大きな意味があるとは言えないだろう。

 しかし,自社の問題点がどこにあるかを大まかに知るため,また,定期的にこのサーベイを実施することにより改善の度合いを把握するための簡単な手段としては役立つだろう。

 このチェックリストの内容は“Leveraging The New Infrastructure”, Peter Weill and Marianne Broadbent,(Harvard Business School Press)に掲載されている。

 同書は,その他にもIT投資の効果に関する定量的な調査結果などが載っている興味深い書籍であるが,残念ながら翻訳書は発行されていないようだ。

[栗原 潔ガートナージャパン]



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