エンタープライズアプリ,さらにWebサービスへ広がるグリッドコンピューティング

【国内記事】2002.4.23

「使っていないときのパソコンを有効活用して宇宙人を探そう」――そんな夢のある触れ込みで多数のユーザーを集めた「SETI@Home」をご存知だろうか? このプロジェクトを嚆矢とするグリッドコンピューティングが,学術研究からビジネスへと活躍の場を広げようとしている。

 プラットフォームコンピューティングは4月23日,国内でグリッドコンピューティングプラットフォーム「Platform Grid Suite」を販売することを明らかにした。

 グリッドコンピューティングは,ネットワークにつながれたコンピュータの空き時間を活用し,使われていないプロセッサパワーを集め,仮想的な高性能コンピュータとして活用する技術。現在は主に,複雑な処理を必要とする暗号解読や医療研究といった分野で利用されている。

 このグリッドコンピューティングの実現には,オープンソースのソフトウェアが利用されることも多いが,プラットフォームコンピューティングのPlatform Grid Suiteは,オープンソースを下敷きに,独自の管理機能などを加えた製品だ。同社は合わせて各種サポートやコンサルティング,トレーニングといった活動を展開し,分散コンピューティング環境の実現を後押ししていくという。

 同社創立者兼CTOのソニアン・ゾウ氏は「グリッドコンピューティングは,インターネットの次の“大きな波だ”」と述べ,さらに,今後実現されるであろうWebサービスのインフラとしての役割をも担うという見方を示した。

 既に米国では,ゼネラル・モータースがグリッドコンピューティングを活用し,各拠点で余ったコンピューティングパワーを新車設計などに要する期間の大幅短縮などを実現しているという。

 プラットフォームコンピューティングでは,SCMといったエンタープライズアプリケーションにグリッドコンピューティングを活用すれば,企業のIT資産を有効に活用できるとしている。しかもこの場合,地理的な距離に関係なく,ユーザーにとっては透過的に,コラボレーションと統合が実現できるとしている。

 さらにゾウ氏によれば,業界ではグリッドコンピューティングの標準化に向けた動きが進んでいる。既にXMLやSOAPといった標準――ひいてはWebサービスとの統合を目的にしたコンソーシアムが結成されているという。

 もちろん,この分野でもイニシアティブを握ろうとする競合企業は多い。思いつくだけでもIBMのほか,サン・マイクロシステムズ,NECや富士通など,大手プレイヤーが参入している。だがこの点に対しゾウ氏は,「グリッドコンピューティングに競合はない。全体がエレメントであって,例えば“○○社のグリッドコンピューティング”などというものはない」と一蹴した。

ニーズに応じた組み合わせを可能に

 Platform Grid Suiteは,大きく2つの製品群に分けられる。1つは,ネットワークに分散するコンピュータリソースを1つの仮想システムとし,クラスタリングを実現するミドルウェア「Platform LSF」と「Platform LSF ActiveCluster」だ。

 もう1つが,いわゆるグリッドコンピューティングを実現する製品群である。これには,Platform LSFでクラスタ化された,地理的に分散している複数のシステム間で,リソース共有を実現する「Platform LSF Multicluster」のほか,Globus Toolkitを下敷きに,リロースの管理機能やセキュリティ,ディレクトリ機能を実現する「Platform Globus」が含まれる。さらに,ファイル転送ツール「Platform FTA」や,マルチプラットフォームの環境においてデータへの正確なアクセスを実現する「AVAKI 2.0」も提供される。

 同社ではこのように機能ごとにコンポーネントを分けることで,必要に応じてシステムを追加,拡張できることがPlatform Grid Suiteの特徴だとしている。

 これらの製品は,エンドユーザーに対する直接販売ではなく,コンパックコンピュータをはじめとするISVやハードウェアベンダーにOEM提供し,各パートナーの製品に組み込まれた形で提供される見込み。プラットフォームコンピューティングでは同時に,システムインテグレータなどとの協業を通じて,コンサルテーションや各コンポーネントの販売なども行うという。

 Platform Grid Suiteは7月より出荷される予定で,価格は,UNIX版Platform LSFが18万9000円,Linux版Platform LSFは7万5000円。その他のコンポーネントについては要問い合わせとなる。ただし,Platform Globusの年間保守料金としては,200万円からを予定しているという。

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[高橋睦美 ,ITmedia]