ホットスポットは“ワークスペース”になるか?

【国内記事】2002.4.25

 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は4月25日,公衆エリアから無線LANを利用してインターネットに接続するサービス,その名も「ホットスポット」を,5月15日より開始することを発表した。

 同社は2001年7月より,IEEE802.11b標準に準拠した公衆無線LANサービス――一般名詞として使われる“ホットスポット”サービス――の接続実験,「Hi-FIBE」を進めてきた。その成果を踏まえ,5月15日より正式にサービスとして提供する。なおこれに伴い,Hi-FIBEは5月12日で終了する。

 当初ホットスポットは,東京23区内の約200カ所で提供される。モスバーガーやミニストップといったチェーンを展開する店舗が中心だが,他にもプリンスホテル,ビッグカメラなどにもアクセスポイントが設置され,サービスを利用できる。同社では順次拠点を拡大し,年度内には1000拠点程度でサービスを提供する方針だ。

 ただ,NTTグループをはじめ,他の公衆無線LANサービス事業者とのローミングについては,「将来的に視野に入れて検討していく」(同社)としながらも,具体的な活動となると白紙の状態だ。

 ホットスポットの料金は月額1600円の定額制で,接続に必要となる無線LANカードなどはユーザー側が用意する。また,申し込み時には手数料として1500円が必要だ。5月8日より,Webサイトを通じて受付を開始する。なお同社では5月15日から31日までを「お試しキャンペーン」とし,申し込み手数料を無料とする。

 ホットスポットでは,店舗などに設置された無線アクセスポイントは,アッカ・ネットワークスのDSL回線やNTT Comの光ファイバ,FWAによってNTT Comのホットスポットシステムに接続され,OCNバックボーン経由でインターネットに接続される。その先のサービスプロバイダー(ISP)は特に問わない。ただ,OCNユーザー向けに,何らかのパッケージサービスを提供する計画はあるという。

 一方で,ホットスポットで活用するコンテンツについては,積極的にパートナー戦略を展開する計画だ。その一例として,位置情報に基づいたコンテンツ提供に向け,シャープや凸版印刷などと共同で取り組んでいくという。

802.11a/bの双方に対応

 NTT Comのホットスポットの特徴としては,IEEE802.11bだけでなくIEEE802.11aにも対応していることが挙げられる。802.11a対応の無線LANカードを利用すれば,最大36Mbpsでの接続が可能だ。当初,802.11aが利用できるのは一部のアクセスポイントに限られるが,夏には全てのエリアで対応する計画だ。なお料金はユーザー単位で課金されるため,802.11bと802.11aの両方を使っても,料金は変わらず1600円である。

 ただ,市場に多くの製品が登場し,技術としてはこなれてきた802.11bに対し,802.11aはまだ対応製品の数も少なく,相互接続性も十分に検証されているとは言いがたい。

 NTT Comではこうした状況を踏まえ,チップセットを提供するアセロス・コミュニケーションズと,無線LANカードを開発するソニー,日本電気,TDKの各社,それにチップセットおよびアクセスポイントを開発したNTTのアクセスサービスシステム研究所(AS研)と連携して,互いの802.11a製品の接続性を検証してきた。

802.11aの相互接続性は既に検証済みという

 Hi-FIBEで実証実験を行ってきた802.11bに対し,802.11aは実験抜きでいきなりの商用サービスとなるが,同社では「これまで水面下でさまざまな検証を行ってきたので,おそらく問題はないと考えている」という。

 なお,802.11aで利用する5GHz帯は,現在屋内向けの利用に限られており,屋外向けは別の用途に割り当てられている。しかし総務省では,5GHz帯を屋外での無線アクセスにも利用できるよう見直し作業を進めている段階だ。NTT Comではこうした状況を見据えながら,屋外でのサービス展開についても検討していくという。

 同社はまた,ノートパソコンだけでなくPDAを使っての接続にも期待を寄せている。あわせて,具体的な時期は未定ながら,IPv6/IPv4のデュアルスタック接続などを展開することで,ユビキタスネットワークの実現に近づけるとしている。

セキュリティはNTT Comの別のサービスで……

 さて,ホットスポットにはどんな使い方が考えられるだろうか? 最も分かりやすいのは,「ビジネスマンがホットスポット経由で社内イントラネットにアクセスし,場所にとらわれずに仕事を行う」というワークプレースとしてのモデルだが,残念ながら現段階では,それは難しそうだ。理由はセキュリティである。

 NTT Comでは,ホットスポットではESS-IDとWEPを利用することとし,さらに,まずSSLで暗号化された専用ポータルで,IDとパスワードによる認証を経てから接続するといったセキュリティ対策を挙げている。ただ,WEPの鍵は固定で,しかも「全ユーザー共通」(同社)。より確実な認証を実現する802.1xも,「導入していない。標準化の動向やOSの対応状況を見ながら対応していく」(同社)方向という。

 MACアドレスの登録によって,端末認証を行うという手段もある。だがこの方法は,複数の端末を使い分けているユーザーが不便をこうむるため,同社では採用しない。ただ,NTT Comのホットスポットシステム側で,アクセスしてきた機器のMACアドレスをログとして記録し,IDの使いまわしと見られる不審なアクセスや,ホットスポットを足がかりとした攻撃を監視することは行うという。

 結局のところ,ホットスポットのサービス単体では,私的な利用はともかく,ビジネス情報をやり取りするワークプレースとしての活用は難しそうだ。それ以上のセキュリティを求めるならば,NTT Comの別のサービスと組み合わせるか,独自で手段を講じるしかないと同社も認める。

 ホットスポットでは幸いにして,端末にグローバルIPアドレスが割り振られるという。このため,NATとの兼ね合いを考える必要ななく,比較的容易にIPSec VPNを利用できる。

 したがって特に企業ユーザーには,「OCN ビジネスパックVPN」などをともに提案し,802.11+IPSecという組み合わせで安全な接続を提供するという。またAT&Tグローバル・サービスとの提携によっても,VPNソリューションの提供を推進する。同時に,ICカードを用いた認証サービス「セーフティパスビジネス」も,選択肢の1つとして積極的に提案していく。

 さらにNTT Comでは,各種設定方法に関する情報やサポートをユーザーに提供していく。無線LANを導入していても,WEPやESS-IDの存在すら知らず,設定方法も分からないというユーザーは相当数に上るはずだ。そうしたユーザーに適切な設定を行ってもらうための手順を,Hi-FIBEでの経験を踏まえて提供していくという。

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▼NTTコミュニケーションズ

[高橋睦美, ITmedia]