Linux Column:「バージョン番号にみる戦略」

【国内記事】 2002.5.07

 レッドハットが5月6日に,同社のディストリビューションの新バージョン「Red Hat Linux 7.3」を発表した。ほかのディストリビューションがバージョン番号を8に進めている中,RPMベースのディストリビューションの中心的存在である同製品は敢えてマイナーバージョンアップにとどめた。この動きから少し同社の戦略を分析してみたい。

 元々,レッドハットは,オープンソースのコアにいることと,技術的な優秀さをセールスポイントにした企業だ。ナスダックへの株式公開で一躍有名企業となったが,米国の展示会などの同社の出展ブースを見ると,他社に比べると限りなく地味だ。提携しているパートナーのデモや,場合によっては同社の技術者が展示会を見に来るのを兼ねて説明員として立っていたりする。だから,毎回,毎回ブースの形状も同じだ(笑)。

 これに対して,米国市場での一番の競合相手であるマンドレイク・ソフトウェアの狙いは明確だ。とにかくインストールベースを増やすこと。そしてそのためには一般ユーザーにターゲットを絞っている。そのために可愛らしいペンギンのキャラクターや起動時の見た目の良さなど,ビジュアルに訴える製品開発とプロモーションにも力を注いでいる。

 両者の戦略は非常に好対照といえる。

 レッドハットの話に戻そう。ここ最近の同社の発表を見ている限り,エンタープライズ市場へのコミットを示す内容が多い。Linuxをビジネスとして捉える限り,間違いなく主戦場は企業ユーザーのいる領域だ。家庭に入り込むホーム市場では間違ってもWindowsにはかないっこないのは明々白々だからだ。

 そしてその企業ユーザーの最大の望みは,投資して構築した情報システムが未来永劫利用できることだ。当然そんなことはありえないが,バージョンアップはできるだけして欲しくないのは当然だろう。バージョンアップのたびに,システムの見直しとバージョンアップ計画の立案,そして実際の工数。そこまでしても実際に得られるものはゼロに等しいか,あるいはバグが増えて頭を抱えるだけだ。

 もちろん,これはWindowsの場合によくあることだ。そしてLinuxはそのようなバージョンアップ無間地獄に対するアンチテーゼとして注目を浴びるようになったのではないだろうか?

 しかし,実際にユーザーは,Windowsと同じ感覚でLinuxディストリビューションのバージョンアップに期待を寄せる。そうすれば,よりよい環境が手に入るのではないかという甘い期待があるからだ。裏切られても裏切られても,「バージョンアップ」という言葉には人間の感覚中枢の奥底を刺激する響きがあるに違いない(笑)。

 この相反する要求に対して出せる妥協案が「マイナーバージョンアップ」ということだ。少し変えるけど,あくまで品質を上げるためにやるのですよ,という意味だ。なにやら障害の修正なのに「サービスパック」と呼ぶのに似ているような気もするが……。

 正直,Linuxの最大のポイントは変化に対しての自由でもあるはずだ。しかし,市場がまだその考えを受け入れられないうちには,矛盾した動きをせざるを得ない部分もあるのだろう。そんな中で,この時期にマイナーバージョンアップで来たのがレッドハットの強みなのかもしれない。

 Red Hat Linux 7.2では,日本語化という点で,やや「?」がつく点も多々見られた。それ以外の収録パッケージにも疑問点が多く,良くはなっているものの満足できるものではなかった。今度のバージョンで,より理想に近づいていることを期待しよう。

[宮原 徹びぎねっと]