エンタープライズ:トピックス 2002年5月10日更新

IBM developerWorks Live! Keynote:「グリッドが“e-Business on Demand”の基盤に」とIBM幹部

「グリッドコンピューティングの定義は,テクノロジーをボアリング(boring:退屈)にするもの,かもしれない」と話すのは,IBMサーバグループで次世代インターネットをはじめとする高度なアーキテクチャとテクノロジーを統括するアービン・ラダウスキーバーガー博士だ。

 米国時間の5月9日,2日目を迎えた「IBM developerWorks Live!」の基調講演に登場しラダウスキーバーガー氏は,IBMソフトウェアグループでDB2を統括するジャネット・ペルナGMが直前の基調講演で「DB2の進化は開発者らにボアリングをもたらす」と話したのを受け,そう切り出した。1970年にワトソン研究所でIBMのキャリアをスタートした博士だが,意外な一面を見せて会場を沸かせた。

「インターネットは新しいアプリケーションやいつでもアクセスできる環境を生み出したが,複雑さも増している。グリッドコンピューティングとは,そうした複雑さを隠し,オープンなプロトコルでネットワーク上のさまざまなリソースを利用できる分散コンピューティングの基盤となる」(ラダウスキーバーガー氏)

サーバグループでテクノロジー&ストラテジー担当副社長を務めるラダウスキーバーガー氏<

 ラダウスキーバーガー氏は,分かりやすい例として,URLによってドキュメントが引き出せるWorld-Wide Webを挙げた。Webでは,URLを叩くだけで,実際にそのページがどこのサーバのどのストレージに格納されているかを知る必要はない。彼によれば,Webも仮想化の一例であり,これをページだけでなく,すべてのコンピューティングリソースに適用していくのがグリッドコンピューティングだとする。

 最近,同社CEOに就任したばかりのサム・パルミサーノ氏は,今年2月,やはり同じサンフランシスコでパートナーらを前に,「IBMの未来はグリッドにある」とさえ話している。

 既にIBMが協力するペンシルバニア大学のグリッドでは分散コンピューティングのリソースがユーティリティーサービスのように提供されているという。何千という病院が,乳ガンを検査するため,X線写真をデジタル化して格納し,データマイニングのような手法で陰影を自動検出できるという。IBMではこのグリッドのために,eServerのpSeriesとxSeries,およびDB2 Universal Databaseを提供している。

 ラダウスキーバーガー氏は,最近注目を集めているGlobus Projectの「Open Grid Services Architecture」(OGSA)についても触れた。Globus Projectは,米政府系の研究機関やマイクロソフト,シスコシステムズなどが参画する分散コンピューティングのプロジェクトで,もちろんIBMもメンバーとなっている。IBMでは,「Globus Toolkit」の次期バージョンである3.0の仕様を公開しているが,前バージョンからの主な変更点はOGSAの採用だとされている。

「OGSAは,グリッドとWebサービスのコンセプト/技術の良いところを統合したものだ」とラダウスキーバーガー氏。

 しかし,グリッドコンピューティングには,さらにリソースの管理という厄介なチャレンジがある。

 ラダウスキーバーガー氏は,グリッドコンピューティングには,「Autonomic Computing」と呼ぶ,自己管理機能が不可欠だし,IBMがSelf-configuring(環境の変化に自己を適応させる),Self-healing(自己修復),Self-optimizing(外部に合わせて自己を最適化),そしてSelf-protecting(外部からの侵入を防ぐ)の4つを実装したシステムの開発に取り組んでいることを紹介した。

「いずれアクセスも仮想化され,ピザを注文するのにURLを叩くことさえ必要なくなる。ただ,“ピザが欲しい”と依頼するだけで済む」(ラダウスキーバーガー氏)

 ISPがユーザーの場所をGPSなどの情報から検知し,最寄のピザ屋に注文を出し,あっと言う間に配達されてくるというわけだ。「e-Business on Demand」もそこまで行くと,さすがに「ボアリング」かもしれない。

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[浅井英二 ,ITmedia]