| エンタープライズ:トピックス | 2002年5月21日更新 |
Gartner Column:第47回 新生HPの製品戦略を分析する-2- 〜ソフトウェアという大きな穴
多くの人が指摘するように,新生HPがIBMに対抗していく上での最大の課題はソフトウェアとサービスだろう。特に,現時点での製品戦略資料を見る限りでは,ソフトウェア面の課題はかなり大きいと考えている。
改めて言うまでもないことだが,ハードウェアの箱売りビジネスが今後右肩上がりで成長していく可能性は低い。確かに台数ベースや処理容量ベースで見れば,ハードウェア市場は拡大していくのだが,それを相殺する形で価格性能比が向上していくからである。もちろん,デルのようにリーンなビジネスモデルによるハードウェアベンダーは存続していくだろうが,巨大な組織を要するHPがデルと同じモデルを追及するのは困難だろう。
例えば,IBMについて見れば,今後の成長を支えていく推進力はハードウェアではなく,サービス,ソフトウェア,OEM向けテクノロジーOEM向けテクノロジー(POWERプロセッサなど)にある。基本的にハードウェア専業ベンダー色が強かったサンも,最近になりSun ONEブランドによるソフトウェアビジネスに力を入れている。総合ITベンダーとして生き残っていくためには強力なソフトウェア戦略が不可欠なのだ。
今日の一般的アプリケーション開発において,OSのインタフェースが問題になることは少ない。多くの開発者はDBMS,Webアプリケーションサーバ,開発ツールなどのミドルウェアのインタフェースに向けて開発する。HP-UXの開発者,AIXの開発者という区別よりも,Oracleの開発者,DB2の開発者という区別の方が重要なわけである。その意味で,アカウントコントロールのために強力なミドルウェアを有することは重要だ。ハードを売ることによってソフトが売れるのではなく,ソフトを売ることでハードやサービスのビジネスに結びつくケースが今後ますます増えてくるだろう。
新生HPのソフトウェアビジネスにおける最大の財産はOpenViewである。OpenViewは,特にネットワーク管理の分野ではデファクト標準となっており,OpenViewビジネスだけでも,ソフトウェア企業として世界15位にランクされるだけの規模がある。コンパックのテクノロジーをOpenViewに取り込み,さらにコンパックの既存顧客を潜在市場として手に入れたことで,OpenViewビジネスの先行きはさらに明るくなった。
また,ストレージ管理の分野の将来も有望だ。前回では,ストレージハードウェアがHPとコンパックのシナジーを発揮しやすい分野であると述べたが,新生HPが強力なストレージ管理ソフトウェアを提供できれば,さらにそのシナジーを強化できるだろう。
HPは,ストレージ管理については,FSAM(Federated Storage Area Management)という優れたビジョンを有していた。本質的に異機種混在型となるストレージ環境を連邦型で管理していこうという発想だ。FSAMの理想をOpenViewの世界で実現できれば,まだ確固たるリーダーが存在しないストレージ管理ソフトウェア市場での地位を固められる可能性もある。
そう考えれば,IBMのストレージ部門およびレガートシステムにおいて要職を歴任し,HPのストレージ事業のトップであったノラ・デンゼル女史をソフトウェア部門のトップに据えたことも納得がいく。
その一方で,Webアプリケーションサーバを中心とするミドルウェア製品であるNetactionの戦略はかなり見劣りする。Netactionは,2000年10月にHPが買収したブルーストーン・ソフトウェアのテクノロジーをベースとした製品だ。その当時からIBMは,WebSphereによる囲い込み戦略を強めており,HP-UX上でWebSphereを稼動させられてしまうことのリスクがこの買収の大きな要因であったと思われる。
しかし,Netaction製品はブランド認知度の点で課題を抱えているようだ。さらに,新生HPの製品戦略ではNetcationの位置付けがかなりトーンダウンしている。HPは,ミドルウェア市場ではパートナーのテクノロジー(その最も重要なものは,言うまでもなくBEAである)に依存する方向へ再度路線変更したと見てよさそうだ。
このWebアプリケーションサーバ戦略の弱さは,IBM,さらには,サンによるソフトウェアの囲い込み攻撃からの防御という点では課題が大きいと言えるだろう。
新生HPが,ミドルウェア戦略における課題を克服するための道はどのようなものだろうか? あくまでも個人的な意見ではあるが,マイクロソフトの.NETが重要なキーになるのではないだろうか。Windows環境との親和性が最も高いUNIX OSとしてHP-UXを位置付けることができれば,コンパックのエンタープライズPCサーバにおける強さも有効活用でき,新生HPのソフトウェア戦略の大きな穴を埋めることもできるだろう。
[栗原 潔 ,ガートナージャパン]
