エンタープライズ:ニュース 2002/07/16 21:16:00 更新


第2回 ナレッジとプロセスの融合でポータルを経営に生かす

組織内の各個人に対して、必要な情報へのアクセスを容易にする仕組みを提供するポータルは、もはや過去のものになろうとしている。意思決定を支援するためのツールとしてのポータルは、思考プロセスをシステムに落とし込み、同様の課題にぶつかっている第三者が再活用するための仕組みを提供してくれる。

 多くの企業でポータルの構築が進められているが、その背景として大きく2つの要因が考えられる。

 ひとつは、企業の組織形態がピラミッド型から水平分散型や神経細胞網型へとダイナミックに変化したことで、組織を構成する個人の役割がきわめて大きくなってきたということ。もうひとつは、新たな企業資産としてのナレッジを業務に活用していく上で、ポータルという仕組みが最適であるということだ。

 ポータルは、これまで組織内の各個人に対して、必要な情報へのアクセスを容易にする仕組みを提供するだけのものだったが、それはもはや過去のものになろうとしている。現在のポータルは、業務の中でナレッジを共有し、各自がその場で迅速かつ的確な判断を下すための道具として、つまり意思決定を支援するためのツールとして使われようとしているのだ。

 意思決定というと、マネジメント向けの仕組みだけを思い浮かべがちだが、それは誤りだ。セールスはもちろん、製造・生産、研究開発、あるいはコールセンターの現場などでも、個人が意思決定を求められる局面が増えているのだ。

 例えば、顧客が商品の機能について問い合わせをしてきた場合、その時の回答の内容、応対の仕方ひとつで顧客の満足度は大きく左右される。これはまさに、顧客からのたった一つの問い合わせに、経営的判断が迫られているとは言えないだろうか。

 迅速で的確な意思決定を行うには、もはやITの活用が不可欠である。わずかな対応の遅れが機会の損失につながってしまう現在、ITによってさらなるスピードと効率性を実現しなければならない。

 ITの普及は大量の情報の容易な入手を可能にした。しかし、情報量の増大に伴って、その中から有用な情報を見つけ出すことはますます難しくなっている。そこで望まれるのが、情報をナレッジへ転換できるポータルの構築だ。

ナレッジとプロセスの融合

 われわれが提唱した「第3世代ポータル」の狙いの1つは、現場の意思決定支援にある。「ロール別連携」というコンセプトの下、職種、職域、役職などの責任範囲ごとに、情報系・勘定系を問わず、あらゆる必要な情報に対して容易にアクセスできるような仕組みを備えなければならないのである。

 ジャストシステムが、この第3世代ポータルを通して提供したいと考えているのは、「ナレッジとプロセスの融合」だ。この数年、さまざまな企業でナッレジマネジメントの取り組みが進んでいるが、その成功事例を分析してみると、情報への意味付け、得意分野へのフォーカスなどがスムースに行われていることが分かる。

 しかし、これ成功させるために最大のポイントは、ナレッジへのアクセスが、日常の業務プロセスの中で必要に応じて即座に行える工夫がなされていることだ。

 ナレッジは、例えば教科書のように、まず体系的に学んでから、後になってようやく役立つという性格のものではない。必要が生じたら何度も参照される、いわば参考書のようなものだ。このため、ナレッジポータルは、役立つナレッジに容易にアクセスできる仕掛けを用意しなければならない。

 これは、単にナレッジデータベースのアイコンを常時デスクトップに配しておくという意味ではない。利用者が必要なナレッジへ簡単に辿り着くためには、業務プロセスとナレッジがシームレスに関連付けされていることが必要なのだ。

 例えば、セールス部門での業務プロセスでは、初回訪問から始まって、課題の抽出、最適解の検討、提案(再検討、再提案……)、契約、そしてアフターフォロー……といったフローが想像できるが、それぞれの局面によって必要なナレッジは当然違ってくる。このため、そのすべてのプロセスにわたるナレッジを集約しても、セールス用ナレッジとして括ることはできないのだ。

 業務プロセスの局面ごとに役立つナレッジをマッピングして、今ここですぐに必要なナレッジを引き出すことができれば、スピーディーで効率的な意思決定が行えるはずだ。いかに内容の優れたナレッジデータベースであっても、それを業務プロセスと切り離して用意したのでは、利用率を延ばすことはできない。

 例え、だれかがそのデータベースにアクセスしても、そこに並んだナレッジをどのように利用すればいいのか見当がつかないだろう。まるでジェット機のコックピットに座らされたようなもので、使いこなせれば大空へ飛び立てるのだが、扱い方を知らないものにとっては鉄屑の山だ。

思考プロセスも蓄積

 ジャストシステムでは、プロセスとナレッジの融合を可能にすることで、日常の業務プロセスを通して得られるナレッジをそのまま手間をかけることなく蓄積する仕組みを提供しようと考えている。

 業務は、一般に思考のプロセスと定常的な処理プロセスとの組み合わせで成り立っている。これをセールスに例えるなら、提案書作成や日報作成は前者であり、各種伝票の処理は後者となる。

 しかし、思考のプロセスには文書などの形には表すことができない「頭の中での試行錯誤」も含まれるのだ。いや、むしろ思考のプロセスの中心は試行錯誤にあり、提案書や報告書はほんの一部に過ぎないと言えるだろう。この思考プロセスをシステムに落とし込み、同様の課題にぶつかっている第三者が再活用できれば、その効用は絶大になるはずだ。

 これまで企業のナレッジマネジメント担当者は、「いかにナレッジを使わせるか」ということにエネルギーを費やしてきた。しかし今後は、このような仕組みを備えた第3世代ポータルよって、ナレッジの活用を飛躍的に高めていくことが可能になるはずだ。

松田潤(まつだじゅん)

ジャストシステム エンタープライズビジネス事業推進室 室長

1985年鐘紡入社。情報システム事業部において主に金融機関向けシステムの開発・導入に従事し、企業向けパッケージソリューションの企画、事業化も担当。金融分野、ヘルスケア分野などで、ナンバーワンシェアとなるパッケージの市場導入を成功に導いた。1994年よりジャストシステムに移り、企業向けソリューション販売事業を担当。1998年に全社マーケティング組織の構築を行った後、現職に就任した。特にConceptBase事業で、事業企画から、アライアンス、KMエバンジェリストまで、幅広い活動を行っている。「顧客を創造するテキストマイニング」(日本工業新聞社)を山崎秀夫氏と共著。

[松田潤(ジャストシステム),ITmedia]