エンタープライズ:ニュース 2002/08/30 17:33:00 更新


64ビットコンピューティングへの移行に挑戦するAMD

AMDが、エンタープライズ市場に向けたプロセッサ「SledgeHummer」とそのプラットフォームを準備中だ。しかし、同社は64ビットコンピューティングのメリットを、エンタープライズ市場以外にも見いだそうとしている点がライバルらと異なる。

 エンタープライズシステムにおける64ビットアーキテクチャの重要性は、ネットワークによる取引や社内向け情報システムの高度化が進むに従って増すばかりだ。64ビットへと向かうシナリオは、導入企業ごとに異なるものの、そのゴールに向かって多くのベンダーが走り出していることは間違いない。

 今年の末から来年の初めにかけて、64ビットアーキテクチャを自社の新しいプロセッサに組み込む予定のAMDもそうしたベンダーの1社で、エンタープライズ市場に向けたプロセッサ「SledgeHummer」(コードネーム)とそのプラットフォームを準備中だ。しかし、同社は64ビットコンピューティングのメリットを、エンタープライズ市場以外にも見いだそうとしている点がライバルらと異なる。

 同社がやはり計画している「ClawHammer」(コードネーム)は、インテルの64ビットアーキテクチャであるItaniumとは異なり、デスクトップPC向けソリューションとして開発されたものだ。AMDはこれ以外にも、ワークステーションやローエンドからミッドレンジまでのサーバでも、Hammerシリーズと呼ばれる64ビットアーキテクチャが有効だと主張する。

 7月末に東京で行われた同社の「AMD Developers' Conference 2002 Summer」で、日本AMD CPGプロダクトマーケティングの秋山一雄氏は、「顧客の要求に添う形で技術革新を進める“カスタマーセントリックのイノベーション”がAMDの企業理念。顧客の要望は、ローコストで、業界標準を採用し、優れたビジネスモデルに直結する技術である」と、Hammerシリーズ開発の背景にあるAMDの企業カルチャーをアピールする。

 Hammerシリーズは、業界標準のx86命令セットを拡張する形で64ビット化を行ったx86-64命令セットをサポートしている。このため、x86アーキテクチャとの互換性を100パーセント維持しながらパフォーマンスを犠牲にせず64ビットへの対応も図られている。このため、ユーザーが既存の32ビットアプリケーションを、そのまま生かしながら、自分たちの移行ペースに合わせて64ビットへと移行できるという。

 さらにAMDは、ClawHammerを積極的にデスクトップPC向けのプロセッサとしても販売していく。SledgeHammerは「Opteron」のブランド名でエンタープライズを狙うが、ClawHammerはAthlonブランドでボリューム出荷が見込まれるデスクトップ市場に投入される。すなわち、トップからボトムまでを同じ64ビットアーキテクチャでカバーすることにより、スケールメリットを最大限に生かす。

 デスクトップPC向けに64ビットアーキテクチャを採用することに関しては、賛否両論、というよりも64ビット化が本当に有効なのか、という疑問の声もある。

 しかしAMDでは、「PCで扱うデータ量は凄まじい勢いで増えている。肥大化する一方のデータを高速に処理するため、クライアントでも64ビットアーキテクチャが必要になる。32ビットアーキテクチャでは頭打ちになっている性能を、64ビット化によってさらに引き上げることが可能だ」(秋山氏)と自信を見せており、HammerシリーズのOEMメーカーやソフトウェア開発パートナーらとともに、グラフィックや自然言語処理など、クライアント指向のソフトウェアに64ビット普及戦略を展開している。

「32ビットアーキテクチャのままでは、パフォーマンス向上カーブは飽和曲線を描くところまで進化した。x86-64への進化は、増え続ける膨大なデータ量を処理するために必要不可欠」(秋山氏)

 こうしたPCアーキテクチャのスケールを生かした戦略は、x86-64アーキテクチャが従来のx86命令セットと高い互換性を持つからにほかならない。PC市場の最大の魅力がその規模にあるならば、x86-64戦略は理にかなったものと言えるだろう。

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[本田雅一,ITmedia]