エンタープライズ:ニュース 2002/09/19 15:30:00 更新


Linuxデスクトップ「Sun Enterprise Client」はオープンソース版の「NC」?

1カ月前のLinuxWorldで示唆したとおり、サンが「SunNetwork」カンファレンスでLinuxデスクトップ戦略の詳細を明らかにした。「Sun Enterprise Client」はオープンソースをベースとし、Java Cardの読み取り装置を標準で装備しており、企業や政府はセキュアかつ運用コストの安価なデスクトップシステムを配備できるという。

 9月18日朝、カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニセンターで「SunNetwork 2002 Conference」が開幕した。ドットコムバブルの消失、米国経済の長期低迷、そして同時多発テロというトリプルパンチに見舞われたIT業界は、IT投資を見直したり、セキュリティ対策を講じる企業や政府の要請に対処することを迫られている。

 8月中旬、同じモスコーニで行われたLinuxWorld Conference & Expoで示唆したとおり、サン・マイクロシステムズは、このSunNetworkカンファレンスで「Project Mad Hatter」のコードネームで開発が進められてきたLinuxデスクトップ、「Sun Enterprise Client」の詳細を明らかにしたが、それはインテルベースのLinux PCを単体で出荷したり、デスクトップ向けのLinuxパッケージをリテールで販売するという類のものではなかった。

 サンでソフトウェアを統括するジョナサン・シュワルツ執行副社長は、「顧客らから“デスクトップのコストを引き下げたい”という声にこたえるべく(オープンソースベースでセキュアな)Linuxデスクトップをつくった。不景気でなければ、こうした発表はなかっただろう」と話す。

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オープニングの基調講演でSun Enterprise Clientのプロトタイプをデモするシュワルツ氏。ディスプレイ右下にJava Cardリーダーが見える

 既に同社は、デスクトップのコストを引き下げるシステムとして、「SunRay」を販売している。すべてのアプリケーションはサーバ上で稼動し、その画面とキーボード操作をネットワーク接続されたSunRayターミナルとやり取りする仕組みだ。

 Java Cardの読み取り装置が標準で組み込まれており、カードを挿入してPINコードを入力すると、個人が特定され、どのSunRayターミナルからでも個々にカスタマイズされた環境が立ち上がる。逆の言い方をすれば、ディレクトリで管理されている権限に応じてコンピューティング資源の利用が許可されるということでもある。

 今回サンが発表したSun Enterprise Clientは、Microsoft Office互換のStarOfficeを搭載し、長期的にはWindowsデスクトップのオルタナティブを目指すものの、最初のフェーズではSunRayターミナルの延長線上にあると言っていい。サンによれば、当面の主なターゲットは、コールセンター業務やバックオフィスの在庫管理、あるいは予約係、教育機関のように、かつてNetwork Computerが狙っていた、特定のアプリケーションしか使わない分野だ。

 基調講演後のプレスカンファレンスでスコット・マクニーリー会長兼社長兼CEOは、「プレスのみなさんが“普通のコンピュータユーザー”だと考えないでほしい。コンテントを製作しないユーザーが実は非常に大きな市場を形成している」と話す。

 Sun Enterprise Clientは、Sun Linux、GNOMEデスクトップ、Mozillaブラウザ、StarOffice、Outlook互換のXimian Evolutionなどから構成され、サーバサイドのIdentity、Portal、およびMessagingの各種Sun ONE(Sun Open Net Environment)サーバ製品と連携する。

「エンタープライズデスクトップはDRAMと同じ(1つのコンポーネントにすぎない)」(マクニーリー氏)

 サンには、SPARC/Solaris、Java/XML、そしてSun ONEというエンドツーエンドのアーキテクチャがあり、これをウインテルに独占されている32ビットのPCにも拡張する格好だ。このため、サンがLinux搭載PCを単体で販売する計画はなく、100台単位の、しかも管理性を高めるために単一のコンフィギュレーションで顧客に納入されることになる。

 価格も「1台当たり幾ら」ではなく、運用コストなども含めた5年間のTCO(総所有コスト)で比較してほしいとし、1カ月当たり49.34ドルというコストを算出している。通常のWindowsデスクトップが169.93ドルに達するのに対して、1/3以下ということになる。

 Sun Enterprise Clientの正式出荷は2003年第1四半期を予定しているが、60日以内にプロトタイプが世界中の「iForce Ready Center」で利用可能となり、具体的なシステム検証を開始できる。

 マーケティングとビジネス開発を統括するマーク・トリバー執行副社長は、「景気低迷という厳しい環境の一方で、オープンソースが成熟してきている。われわれはこれまでにも(JavaStationのような)試行錯誤を繰り返してきたが、今回のモデルは正しいと確信している」と話す。

 同社は、Sun Enterprise Clientの発表にあたり、汎用的なPCの代替として見られることを極力避けようと努めている。StarOfficeを搭載しながらも、ターゲット市場を1つの決められたアプリケーションで処理を繰り返すコールセンターのような分野に絞り込んでいるのはそのためだ。

「われわれはPCビジネスに参入するつもりはない。マシンも製造を委託し、サンのラベルが付けられてチャネルに出荷される。ある意味、ハードウェアに包み込まれたソフトウェアと言っていい」(トリバー氏)

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オープニングの基調講演でエンドツーエンドのアーキテクチャを強調したトリバー氏

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[浅井英二,ITmedia]