エンタープライズ:ニュース 2002/10/10 16:05:00 更新


ホットなJ2EEサーバ市場、日本IBMはWebSphere 5.0投入へ

日本IBMが第4四半期に「WebSphere 5.0」を投入する。Java開発では大きな貢献を果たしてきた同社だが、最新バージョンには同社が長年培ってきたCISCやDB2の経験やノウハウが生かされ、さまざまなトランザクション処理技術が盛り込まれる。また、マイクロソフトらと取り組んでいるWebサービス機能の搭載も目玉のひとつになるという。

 IBMはこの第4四半期、WebSphereの新バージョンを投入する。J2EEアプリケーションサーバ市場でトップのBEAシステムズを激しく追い上げる同社だが、これで一気に抜き去る構えだ。

 ガートナーによれば、2001年の同市場では、BEAが34%でトップを維持し、31%のIBMが続いている。BEAは、昨年に比べ1ポイントシェアを伸ばしたが,IBMはさらに勢いがあり、9%もシェアを拡大している。2社の激しい争いが予想される。

 IBMはメインフレーム以来の豊富な顧客リストや強力な販売組織によってシェアを伸ばしているという見方がある一方、同社はJava、特にJava 2 Enterprise Edition(J2EE)の標準化に大きな貢献を果たしてきているのも事実だ。

 同社は、Javaの正式デビューからわずか2年後の1997年、まだまだよちよち歩きだった新しい言語をすべてのサーバラインでサポートすることをコミットした。CORBAサーバであるComponent Broker技術をベースとしたEJB(Enterprise JavaBeans)のオリジナル仕様書を当時のジャバソフトに提出したほか、Java開発がJCP(Java Community Process)に移って以降も主導的な役割を演じていることはよく知られている。

 日本アイ・ビー・エムでWebSphere事業推進担当部長を務める大古俊輔氏は、「技術の不連続性はデベロッパーにとって辛いだけでなく、最も高価なリソースであるデベロッパーを十分に生かせなくなってしまう企業にとっても不幸だ。ビジネスに合わせてITインフラを変えていくスピードも違ってくる」と、同社がJavaにコミットした背景を話す。

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話を聞いた日本IBMの大古氏(左)と清水氏

トランザクション処理技術が生きる

 発表が近づいている「WebSphere Application Server 5.0」は、IBMが長年培ってきた、CISCやDB2の経験やノウハウが生かされ、さまざまなトランザクション処理技術が盛り込まれる。ちなみにCICSは、メインフレームのOS/390で稼動するオンライントランザクション管理サーバ。顧客のミッションクリティカルな業務を30年以上も支えてきた。

「WebSphereが3年前デビューしたとき、ミッションクリティカルではないWebサイトの構築から参入したが、新しいバージョンではメインフレームの分野にも対応できるようになった。一部の顧客も採用を始めている」と大古氏。

 日本IBMでWebSphereアーキテクトを務める清水敏正氏は、そうした機能のひとつとして「Async Bean Framework」を挙げる。

 Async Bean Frameworkは、J2EEのプログラミングモデルに沿った拡張で、EJBの非同期実行を可能にするもの。従来、クライアントが複数のEJBを呼び出す際には、順番に行うしかなかったが、Async Bean Frameworkではこれを非同期に行えるようにしてくれる。トランザクション処理(TP)モニタの役割も担っており、「これまでなかったのが不思議」と大古氏が漏らすほど、ミッションクリティカルなシステムには欠かせない機能だという。

 IBMでは、Async Bean Frameworkの仕様をJCPに提出する予定で、いずれJSR(Java Specification Request)という形で公開され、標準策定のプロセスに進むとみられている。

 また、WebSphere Application Server 5.0では「Last Agent Optimization」も追加され、トランザクション処理が強化されている。これまで2フェーズコミットを使いながら同時にシングルフェーズコミットが使えなかったが、それらを混在させ、柔軟にシステムを構築できるようになる。

Webサービス機能も搭載

 IBMは、マイクロソフトと共にWebサービス標準の策定に取り組んでおり、その多くの成果がWebSphere Application Server 5.0にも盛り込まれる。

 8月9日には、そのマイクロソフトやBEAシステムズと3社で、Webサービスによって企業間のビジネスプロセス統合を容易にするための新しい仕様を明らかにしたばかり。これらは、SOAPに限定されないWebサービスを実現する「WSIF」(Web Services Invocation Framework)、このWSIFを利用したプロキシーサーバとして機能する「WSGW」(Web Services Gateway)、「WS-Coordination/Transaction」および「BPEL4WS」(Business Process Execution Language)から構成されている。

 IBMではこうしたWebサービスの標準化への貢献と同時に、WebSphere 5.0にもその機能を盛り込む予定だ。

バンドルよりもオープンソース化

 J2EEアプリケーションサーバ市場が高機能化と熟成を重ねてくるにつれ、同市場の寡占化も進んでいるのは、シェアの動向を見ても分かるとおりだ。製品としても、例えばサン・マイクロシステムズは、Sun ONE Application ServerをSolarisにバンドルするなど、プラットフォームとしての統合化が進んでいる。

 9月中旬のSunNetwork 2002 Conferenceでサンのスコット・マクニーリー会長兼CEOは、J2EEエンジンは、OSの機能の一部になるべきだと主張した。

「UNIX + J2EEだから“U2EE”とでも呼んだらいい」とマクニーリー氏。

 こうした動きを受け、BEAシステムズは9月下旬、HP-UXにトライアル版をバンドルするなど、ヒューレット・パッカードとの提携関係強化に踏み切った。

 しかし、IBMの大古氏は、標準的な機能を持ったアプリケーションサーバは「産業のコメ」になるべきだとしながらも、同社にはハードウェアを売るためにバンドルする考えはないことを強調した。

「IBMはバンドルよりも、むしろオープンソース化を積極的に進める」と大古氏。

 オープンソースではないが、AIX版やOS/390版だけでなく、Windows版やLinux版のJDKを開発し、Webからダウンロードできるようにしているのもその例だろう。

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関連リンク
▼日本IBM

[浅井英二,ITmedia]