エンタープライズ:ニュース 2002/10/16 23:00:00 更新


成功の秘密は人を中心に置いたIT技術の活用にあり──アサヒビール福地会長兼CEO

「WPC EXPO 2002」で、アサヒビール代表取締役会長兼CEOの福地茂雄氏が基調講演を行い、アサヒビールのITシステムの成功事例を紹介した。

 10月16日、東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開幕した「WPC EXPO 2002」で、アサヒビール代表取締役会長兼CEOの福地茂雄氏が「アサヒビールのIT戦略〜最高のツールを生かすのは人の力〜」と題して基調講演を行った。

 「今は常識すら変わる時代。仕事のやり方の変化が去年より早い、例年より早い、というのは当たり前。経営環境の速度に、仕事のやり方の変化が追いついているかということが問題だ」と切り出した福地氏は、まずアサヒビールのIT戦略の歴史を振り返った。

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「デジタルとアナログの両方を活用することが重要」という福地茂雄会長兼CEO

 福地氏によると、アサヒビールが経営環境の変化に遅れないようにするためITシステムの導入を8年前に決定、1996年に内勤社員全員にパソコンを配布したのを皮切りに「アサヒスーパーネット」と呼ぶ社内情報ネットワークを構築開始した。1997年に外回り社員にもパソコンを持たせ、営業からの情報を社長、役員も含めた社員全員で共有できるようにした。1998年には顧客の意見を社員全員で共有するシステム、翌1999年には営業ノウハウなどを中心としたナレッジマネジメントシステムを導入した。さらに2002年には経営トップからのメッセージを動画や音声で配信するブロードバンドネットワーク配信システムも作り上げ活用しているという。

 福地氏は導入したシステムの詳細には触れなかったが、導入したITシステムの具体的成果として、いくつかの例を挙げた。

 「フレッシュマネジメント」と呼ぶビールの製造から販売店までの一貫した品質管理によって、導入前は20日かかっていた製造から販売店まで届けられる期間を5日に短縮したほか、工場在庫も3日から0.3日まで短縮した。また、かつては工場の生産能力を基準として計画していたビール生産量を、前日の15時までに受け取った注文をもとに翌日の生産量を弾力的に変えるといったことも可能になったという。この鮮度重視の考えは非常に徹底されており、ビールを運ぶトラックが工場内に留まる時間すらも管理しており、現実に短縮されているという。

 また同社は末端の販売店である酒屋の業態が、コンビニや量販店など多様化する中で、営業のノウハウを生かすためにナレッジマネジメントシステムを導入している。しかし、ナレッジマネジメントシステムも最初はなかなか活用されず、時間がかかったという。福地氏によれば、当初はソフト会社が作ったナレッジマネジメントソフトを使っていたのだが、このソフトが同社のナレッジマネジメントにそぐわないと判断して破棄し、アサヒビール独自のものを作り上げたのだとしている。

 福地氏は、ITシステムが社内の情報を数字として素早く知るために効果的であることを認めつつも、それだけではだめだという。新商品に注文が殺到していることをデータで見ていても、実際に販売店の店頭に足を運び、現場の状況を見ることで、迅速で正しい経営判断ができるのだと述べた。「どのような優れたシステムであっても人が重要。ITを使いこなせるのは人次第だ」と締めくくった。

関連リンク
▼WPC EXPO 2002レポート
▼WPC EXPO 2002
▼アサヒビール

[佐々木千之,ITmedia]