エンタープライズ:コラム 2002/10/16 19:48:00 更新


Linux Column:それで、どのディストリビューションを選べばいいの?

少ない戦力でやれることというのは限られてくる。Linuxに再び追い風が吹き始めている気配があるが、船は同時に2方向には進めない。ディストリビューションベンダーからはUnited Linuxのような合従策が出てきているし、レッドハットにしても舵取りは難しそうだ。

 前回はRed Hat Linux 8.0(以下、RHL8.0)とデスクトップ市場の話をしたが、Linuxのメインフィールドは相変わらずサーバであることには違いない。RHL8.0はDNSやWebサーバなどのためのいくつかのサーバ設定ツールを持っており、その使用感はなかなかのものではあるが完全ではない。本気で使用するならば「設定ファイルのひな型」を作ってくれる便利なツール程度に思っておいた方がいいだろう。だから、現時点でサーバとして使用したいユーザーがRHL8.0に急いで移行する必要性はないだろう。事実レッドハットもRHL7.2、7.3やAdvanced Serverを継続して販売するとアナウンスしている。

 それにしても、ディストリビューション選択は難しくなった。特にビジネス用途では尚更だ。

 先週、Free Standard Groupが策定しているLSB(Linux Standard Base)にいくつかのディストリビューションが準拠していることが発表となったが、LSBはディレクトリ構造などいくつかの標準化基準のチェックという性質のものであり、viエディタなどで直接ガリガリと設定をいじりたい技術者からすれば、設定ファイルが「/etc」ディレクトリの下に集められているLSB準拠は、迷子になる必要がなくありがたいものである。

 しかし、LSB準拠だからといってビジネス上で特定のアプリケーションソフトウェアが互換性を持つというものではない。業務で利用するのであれば、アプリケーションベンダーの動作保証とサポートが必須である。これはカタログ的に、ということだけでなく、実際に動作しないということも多い。アプリケーションベンダー側から見れば、プラットホームであるOSはバージョンも含めて、できるだけ安定していてほしいところ。ところがディストリビューションベンダー側はエンタープライズ用途、サーバ用途、デスクトップ用途とマルチラインナップ化する戦略競争に入りつつあり、Linuxバブルが去った後の資金の乏しい中で、少ない技術者を分散配置せざるを得ない状況に陥っているように見える。

『銀河英雄伝説』の一節ではないが、戦力の集中運用と各個撃破は、数が少ない側が取りうる数少ない勝利の可能性の高い戦略だと思うのだが。

 このような状況で、満足がいくレベルでサポートがされており、業務用途で問題なく使用できると手放しで薦めることが出来るディストリビューションは、現状では残念ながら見当たらない。不足している部分はスキルのある技術者の努力で埋められているだけであろう。もちろん、それはそれで大いに意義のあることではあるが、今後のシステムの方向性はブレードサーバなどに見て取れるように、多重化によって冗長度を高め、システムを管理運用していくところにある。

 その際に必要なのは、ベンダー側で作業され、ユーザー側に納得のいく品質で製品が出てくる状態であろう。誤解されると困るので付記しておくが、オープンソースのユーザーリスクの話ではない。ビジネスとして、ベンダー側がリスクヘッジをして、それをサービスとしてユーザーに提供するというモデルの上での話である。

 そうすればこそ、ユーザー側は安心してもっと上位レイヤーを見ることができるが、現状では相当足元に気を使わないといけない状態で、そのような芸当ができるのはごく限られた優れた技術者だけである。それでは市場の大きな広がりは期待できないし、結局、マルチラインナップ化していく意味がなくなってくる。

 繰り返しになってしまうが、少ない戦力でやれることというのは、やはり限られてくる。Linuxに再び追い風が吹き始めている気配があるが、その風を満帆に受け止める帆をいかにして張るべきか。船は同時に2方向には進めない。どちらに舵を取るのか。どのディストリビューションベンダーもそのような状況の中でUnited Linuxのような合従策が出てきているし、比較的うまく行っているであろうレッドハットにしても舵取りは難しそうだ。広くいくのか、それとも方向性を定めて、より深めていくのか。その辺りに注目していきたい。

[宮原 徹,びぎねっと]