エンタープライズ:コラム 2002/11/05 20:32:00 更新


Gartner Column:第68回 ガートナーのベンダー評価−−サンは「Promising」

サンは今試練の時にある。株価は3ドルを割り込み、買収の懸念さえあるが、ガートナーによる最新の評価は「Promising」(5段階評価の真ん中)と変わらない。マクニーリーCEOは求心力を失っていないし、「N1」などの革新的なアイデアも登場している。数年後には、ソリューションベンダーとして、サンが生まれ変われる可能性も高い。

 サン・マイクロシステムズは今、明らかに試練の時にある。独立企業としての存続性そのものに対する懸念の声も聞かれるが、ガートナーによるサンの最新の評価は「Promising」(5段階評価の真ん中)である。

 ガートナーのベンダー分析に関する英文リサーチを読むと、「victim of its own success」という言葉使いがよく出てくる。成功した企業ほど、慢心による反動という問題を抱える可能性が高いということだ。2000年度に破竹の勢いで成長したサン・マイクロシステムズもまさにこの「自らの成功の犠牲者」の状況にあるといえるだろう。

 同社が抱える課題については、第23回にも書いた。そこで、2001年がサンにとって「パーフェクト・ストーム」であったとのスコット・マクニーリーCEOの発言を引用した(今となっては、少したとえが古いが)。しかし、2002年はサンにとって、さらに厳しい年となってしまった。

 業績的には3四半期連続の赤字を経験し、通年でも赤字。トップマネジメントの人材流出も続いた。

「エド・ザンダー(COO)の退職は本当に残念だった」とマクニーリー氏はガートナーの某アナリストに告白したそうだ。ほかの人の退職が残念ではないというわけではないと思うが、扇動型のマクニーリー氏と堅実型のザンダー氏の組み合わせは経営層としてバランスの取れたコンビだったというのは確かだろう。

 同社の株価も10月31日時点で3ドルを割っており、かなり厳しい状況だ。10月17日に、同社は社員の11%にあたる4400名のレイオフを発表したが、これも遅すぎ、かつ小規模過ぎるというのが株式市場の見方のようである。

 サンの独立企業としての存続性を疑う声もあるが、それは少し極端過ぎる見方だろう。同社のキャッシュリザーブは50億ドル以上と極めて健全なレベルにあるし、長期債務はほぼゼロであり、成長の源泉であるR&D投資も積極的に行われている。

 M&Aの可能性については、アナリストとしてはコメントしにくい(内部情報を知って書けば機密保持契約違反になってしまうし、知らないで推測だけで書けば風説の流布になってしまう)ので、ここでは、10月初め、米国で開催されたガートナーシンポジウムの基調インタビューにおけるマクニーリー氏の発言を紹介しておこう。

「サンを買収できるくらいの現金を持つ企業であれば、独禁法上の障害があるし、独禁法上の問題がない企業にはサンを買収できるだけの現金はない」(マクニーリー氏)

 このような環境下、ガートナーは10月29日付でサンの最新ベンダー評価を公開した。総合評価は「Promising」(5段階評価の真ん中)であり、変化はない。

 第49回でも書いたが、そもそも、ガートナーのベンダー評価は、証券アナリストとの企業評価と見方が異なる。証券アナリストはあくまでも株主の立場から見た投資対効果を評価するが、ガートナーはユーザー企業のそのベンダーに対するIT投資の安全性を評価するからだ。つまり、証券アナリストの評価は短期的な業績に影響される一方で、ガートナーの評価は長期的な戦略やテクノロジーに対する評価を中心としたものになる。もちろん、経営の根幹を揺るがすほどに財務的健全性が極端に悪化すれば、そのベンダーの製品に安心して投資することはできないので、両者の評価には多少の相関性はあるのだが。

 項目別の評価(下の図参照)でも、特に大きな動きはないが、サービスに対する評価がPositiveからStrong Positiveへと格上げされた。IBM出身の強力なマネジャーであるパット・スルツ女史がソフトウェア部門からサービス部門へ移ったことが大きいようだ。

fig01.gif
Strong Positive, Positive, Promising, Caution, Strong Negativeの5段階評価

 サンが試練の時にあるのは確かだ。しかし、マクニーリー氏は求心力を失っていないし、「N1」などの革新的なアイデアも登場している。数年後には、ソフトウェアとサービスを強化した総合ソリューションベンダーとして、サンが生まれ変われる可能性は高いといってよいだろう。

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[栗原 潔,ガートナージャパン]