エンタープライズ:インタビュー 2002/11/12 20:39:00 更新


Interview:「自律型コンピューティングはe-ビジネス・オン・デマンドの鍵」

全社的に「オートノミック・コンピューティング」への取り組みを薦めるIBM。Tivoliソフトウェアのマーケティングを担当するサンドラ・カーター氏によれば、これは、同社CEOのパルミザーノ氏が宣言した「e-ビジネス・オン・デマンド」を支える鍵の1つになるという。

 IBMは現在、あらゆるプロダクトラインにおいて「オートノミック・コンピューティング(自律型コンピューティング)」を推進している。システム統合管理製品の「Tivoli」も、その例外ではない。IBMが展開する4つのソフトウェアプロダクトラインの中でも、比較的地味なイメージがあるTivoliだが、実際には、企業にとって生命線とも言える情報システムの確実な運用を支える、縁の下の力持ち的な存在だ。このTivoli製品群とオートノミック・コンピューティングによって、企業のシステム運用はどう変わるのか、米IBMソフトウェアグループでTivoliソフトウェアのマーケティング担当上級副社長を務めるサンドラ・カーター氏に話を聞いた。

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よどみない口調が印象的だったカーターVP。この1年でオートノミック・コンピューティングに対する認知を高めていくという

ZDNet オートノミック・コンピューティングとは一体何を指しているのでしょう?

カーター ちょうどあなたが、こうして話している間にも自然にまばたきをしているように、IT環境がそこで起きている事柄に自然に反応し、自ら管理できる能力を備えることです。つまりITシステムが環境を察知し、必要なレスポンスを取ることです。

 今、複数のエコノミストが「ビジネス上の価値にフォーカスを絞るべき」と指摘しています。より少ない資源でより多くのことを行えるようにすることが重要なのです。これこそ次世代のe-ビジネスであり、CEOのパルミザーノが主張する「e-ビジネス・オン・デマンド」、すなわちビジネス上の要求に応じて必要なサービスを提供することでもあります。

 e-ビジネス・オン・デマンドはIBM全体としての取り組みで、Tivoliだけでなくあらゆるグループが関わっているものです。ここで、鍵を握る要素は4つあります。統合、オープンな標準、仮想化、そしてオートノミック・コンピューティングです。

ZDNet 具体的にはどんな形で役に立つのでしょう?

カーター 例えば身近なところでは、自宅に帰る途中に携帯電話を使って指示を出し、電子レンジが自動的に調理を行ってくれるといったことが考えられます。このときにはセキュリティが重要になりますが、Tivoli Securityがその監視役を果たしてくれるでしょう。Tivoli Monitoringによって出来具合を管理し、必要なアクションを自動的に取るといったことも可能です。

 オートノミック・コンピューティングは、ダイナミックに自己を構成する「セルフ・コンフィグレーション」、問題を見つけて分析し、修復を行う「セルフ・ヒーリング」、ビジネス上の価値や目標に応じてリソースの最適化を行う「セルフ・オプティマイズ」、さらにリソースを悪意あるユーザーから守り、適切な人だけがアクセスできるようにする「セルフ・プロテクティング」という4つの価値を提供します。

 実際に成果も上げています。例えば大韓航空はTivoliのソフトウェア群を用いて管理作業を自動化し、サーバ運用コストを削減するとともに、その分のITスタッフをより戦略的な業務に当てることができるようになりました。食品関連企業のeHoldでは「Tivoli Business Manager」によってサービスレベル維持の自動化を図り、やはり生産性の向上を実現しています。中規模企業のSANTiX AGでは、リソースの最適化と割り当てにTivoliを活用していますし、デロイトトーシュでは「Tivoli Privact Manager」によって、プライバシーポリシー設定の自動化を図りました。

 中でも重要なのは4番目のセルフ・プロテクティングです。異機種混在環境においてどうやってデータを守るか、また周辺のセキュリティとどのように統合していくか、さらにどのように一貫したセキュリティポリシーを維持していくかといった事柄が、日本も含め、今後ますます重要になるでしょう。

ZDNet かといって顧客が、これまで投資してきた資産を捨て去ることはできません。

カーター もちろんです。ですからオートノミック・コンピューティングは決して「革命」ではなく、一歩ずつ進む「進化」なのです。

 オートミック・コンピューティングには、「ベーシック」「マネージド」「プレディクティブ」「アダプティブ」、そして「ピュア・オートノミック」という5つのレベルがあります。顧客は自社の状況に応じて段階的に導入し、必要に応じて機能を追加していくことができるのです。

 それでは、今われわれはどのあたりにいるのかといいますと、現時点ではベーシックとマネージドの段階が大半です。ですがこれから2006年までの間に、システムが収集した情報を元に分析を行い、ユーザーにアドバイスを行うプレディクティブの段階、そしてシステムが自ら必要な対応を取るアダプティブの段階に属する企業が増えていくだろうと考えています。

 この目標に向けて、現在では26個の製品がオートノミック・コンピューティングに対応しています。ただ、1つのレベルから次のレベルへの移行において重要なことは、これが技術だけで実現できることではなく、プロセスやスキルも同時に求められることです。

「革命」ではなく「進化」

ZDNet これは現在の経済状況においては、特に重要なポイントですね。

カーター 私は多くのCIOと話し合ってきましたが、その多くがIT投資を横ばいにとどめる、削減するとしています。にもかかわらず、さらに多くのビジネス上の価値を生み出すよう求められているのです。

 オートノミック・コンピューティングは、タスクを自動化することによって、収益性の向上という目的の達成を支援します。そしてITスタッフが、より戦略的なプロジェクトに注力できるようにします。つまりオートノミック・コンピューティングは、顧客のビジネスバリューに注力し、支援するためのソリューションなのです。

 また、システムそのものもますます複雑化しており、管理は容易ならざる仕事になっています。複雑さが一定のレベルを超えてしまうと、人手ではなくコンピュータに任せたほうが、よりよく処理を行えることもあります。

 さらに顧客は、ベスト・プラクティスを求めています。われわれが何千もの企業の経験を結集し、より良い形で実行できるという点に、多くの顧客が価値を見出しています。

多くのベスト・プラクティスを反映

ZDNet コンピュータ・アソシエイツやヒューレット・パッカード、BMCソフトウェアなど、システム管理市場における多くの競合企業も、「プロアクティブ」「管理の簡素化」といったメリットを打ち出そうとしています。

カーター 確かに、複数の競合企業がオートノミック・コンピューティングを模倣しようとしていますが、IBMでは彼らには届かないレベルのものを実現します。

 1つが研究開発です。例としては、セキュリティイベントの処理の自動化が挙げられます。異機種混在環境において自己最適化を行い、ワークロードを配信するのは難しいことなのですが、Tivoliはこれを内蔵しています。

 2つめは、ベスト・プラクティスを満載していることです。IBMグローバル・サービセズを通じて蓄積してきた経験やプラクティスが製品に反映されています。その好例がTivoli Monitoringで、数多くのナレッジが組み込まれ、300以上のリソースモデルを含んでいます。この部分は、プライスウォーターハウス・クーパーズの買収によってさらに強化されることになるでしょう。

 最後は、先ほども強調したことですが、革命ではなく進化というアプローチを採用していることです。しかも、次に何をすればいいのかを5つのレベルで示す進化のロードマップを用意しています。他社のようにスクラップ・アンド・ビルドを顧客に強制することはありません。

ZDNet Tivoliは大規模企業における認知度は高いのですが、中堅・中小規模企業となると今ひとつプレゼンスが薄いという印象があります。

カーター 2003年は、ミッドレンジ市場にフォーカスしていく計画です。特に、異機種が混在する複雑な環境に価値を提供することができると考えています。シンプルな環境ならば話は別ですが、10台以上のサーバで2つ以上のOSが稼働しているといった具合の、複雑な中小規模企業のシステムにとって、Tivoliは大きな価値があるはずです。

 例えばストレージのバックアップやリカバリのように複雑な作業を支援することができるでしょう。今はまだですが、来年度は複雑な環境の中小規模企業という市場に合わせたパッケージングスイートも検討しています。

ZDNet 具体的な製品展開はどうなりますか? 4つある製品分野のうち、特にセキュリティやストレージに力が入れられているようですが、残りの2つはどうなるのでしょう?

カーター 「パフォーマンス&アベイラビリティ」と「コンフィグレーション&オペレーションズ」は既に普及が進んだ市場であり、今後急激な成長は望めません。これから大きく成長するのがセキュリティ管理とストレージであり、買収などを通じてその部分を埋めてきたいうことです。ただ、この4つの分野はいずれも重要なものであり、どれも欠かすことはできません。

ZDNet DB2やWebSphere、Notesといった、IBMの他のソフトウェア製品との連携は?

カーター IBMでは今後も4つのブランドを維持していくわけですが、技術の共有は進め、互いに支援しあう関係を作り上げていきます。これもまた、他社にはない強みだといえるでしょう。



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▼日本IBM

[聞き手:高橋睦美,ITmedia]