エンタープライズ:ニュース 2002/11/27 22:47:00 更新


SAPがCFM 2.0を出荷、グループ企業を束ねる「社内銀行」を作れ

SAPジャパンは、企業財務を最適化する「SAP CFM2.0 日本語版」を12月から出荷することを明らかにした。同製品を利用すれば、自社に「銀行機能」を持たせ、子会社の債権や債務の管理を一括して行うことで、各子会社が取引金融機関と行っていた資金調達コストや事務コストを削減できる。

 SAPジャパンは11月27日、都内で記者発表会を行い、グループ会社を含めた企業財務を最適化する「SAP CFM2.0 日本語版」を12月から出荷することを明らかにした。同製品は、多数のグループ会社を持つ大企業が、自社に「銀行機能」を持たせ、子会社の債権や債務の管理を一括して行うもの。グループ内で出金と入金を相殺し、カネの流れを平準化する(プーリング)ことで、それまで各子会社が取引金融機関と行っていた資金調達コストや、事務コストを削減できる。このため、全体として、企業の財務体質を健全化することができるという。

 CFM2.0では例えば、ある企業の子会社Aが100万円の未払いの買掛金、子会社Bが300万円の余剰資金を持っていた場合、2社の資金状況を本社の「社内銀行」が把握し、子会社Bの資金余剰を子会社Aの不足資金に割り当てる形を取る。子会社Aの100万円はBの余剰資金で相殺されるため、子会社Aは金融市場から借り入れを起こさずに済む。もしも、相殺しても資金が不足している場合は、社内銀行が相殺後の不足分の資金を一括して金融市場から借り入れればいいので、借り入れ金額も従来よりもずっと少なくなる。

 CFM2.0の機能は6つに分類できる。このうち、グループ企業間の債権債務をネッティングする「インハウスキャッシュ管理」、「財務取引管理」、NPVやVaRといったリスク値の計算を行う「市場リスク分析」、全社的なリミット設定やオンライン信用取引きチェックを行う「信用リスク分析」という4つのアドオンが12月のリリース対象となる。ほかにも、流動性計画とポートフォリオ分析が可能だが、今回はリリース対象外となっている。

 ユーザー側のメリットはコスト効果に留まらない。全社的な資金状況を把握し、取引の入力、会計処理、リスク管理まで、ワンシステムのイメージでつながっていることで、さまざまな業務で素早い意思決定が可能になる。また、R/3とも連携するため、経理や購買データも生かすことができるという。

 さらに、シナジー効果としては、子会社の資金調達状況を完全に把握できるため、親会社として戦略的な子会社管理もしやすくなる。子会社側の不正会計の防止などにもつながるといったことも考えられる。

 導入事例として、20カ国以上で業務展開するスウェーデンの石油関連製品販売大手、スタットオイルが紹介された。同社は、CFMのインハウスキャッシュ管理、財務取引管理、市場リスク分析を導入し、資金管理や財務機能を集約した。年間のコスト削減効果は350万ドルに上り、経営陣のスピーディな意思決定を促すなどの効果が現れているという。

 CFMの導入パートナーとして話をしたデロイト・トーマツの徳田弘昭プリンシパルは、「今まではほとんどなかったシステム」と話す。今のところ導入対象企業は少ないと前置きしながらも、現在、ネッティングをビジネスとして展開することを考える企業もあると話を続ける。それは、グループ内ではなく、無関係の企業同士でネッティングをする仕組みだ。これを完全に普及させると「全人類の決済が一瞬で終わり、現金は必要なくなる」と冗談交じりに同氏は話した。

 実際の導入について徳田氏は、要件決めが一番難しいと話す。導入を検討する企業は、当初はプーリングができればいいと考えている場合が多いが、実際にシステムを導入すると、請求書の代理発行などさまざまな業務システムとして展開できることに気付くからだという。また、グループ企業内で資金を融通するときに発生する短期・長期の金利水準、外貨の為替レートなど、「決め」が肝になることは、システム導入プロジェクト全般でしばしば指摘される通りだ。CFM2.0では、カスタマイズはあまり発生せず、比較的早い段階で動作確認、システムテストに移ることができるという。

 なお、SAPの製品はERPであるSAP R/3を核に、大きく全業種ソリューションと業種別ソリューションの2つに分けられる。CFMは、10に分かれる全業種ソリューションの内で、「mySAPファイナンシャルズ」を構成するコンポーネントという位置付けになる。

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[怒賀新也,ITmedia]