エンタープライズ:コラム 2003/02/03 19:16:00 更新


Gartner Column:第78回 電子自治体システムのアウトソーシング需要はどのくらい?

地方自治体の合併の流れもあり、情報システムの統合化の動きも活発だ。この動き始めた市場に巨大なアウトソーシング需要を期待するベンダーも多い。これまで国産ベンダーの牙城だった自治体市場だが、外資ベンダーでも、セキュリティなど、自治体が求める高度で柔軟な技術があれば、まだまだ新規参入できる余地はある。

 政府の後押しの下、地方自治体業務の効率化を目指して合併を検討する自治体が増えている。それに伴い、情報システムの統合化の動きも活発だ。電子自治体のシステムアウトソーシング需要に期待するベンダーも多い。

 ガートナーITデマンド調査室では、2001年に引き続き、2002年の9月と10月に第一法規出版と価値総合研究所の協力を受け、電子自治体に関する大規模なアンケート調査を実施した。全国3264自治体のうち、47.3%にあたる1560自治体から回答を得た。

 詳細は、新電子自治体共同研究会(第一法規出版、価値総研、ガートナー)が2002年11月に発行した「日本における電子自治体に関する現状と展望」(全4部セット)に掲載している。本稿では、その中から、一括アウトソーシングに関する調査結果を紹介しよう。

 電子自治体システムに対するアウトソーシングビジネスに興味を持つベンダーは多い。国が自治体業務の電子化を強制する中、十分なIT予算やITの専門部隊を確保できず、自らの資産では新しいシステムを導入したり、運用管理できないと考える自治体が多いからだ。しかも、国による自治体の合併政策と相まって、比較的小さな町村役場に対しては民間主導の共同センターの設置という需要に期待するベンダーは急増している。

 都道府県や指定都市のような大規模な自治体に対しても、全面的な外部委託ビジネスを獲得できれば、ベンダーにとってそのビジネス効果は極めて大きい。なぜなら、自治体に対する全面委託業務獲得は、一般の民間企業に対しても、そのベンダーのサービスの質や信頼性の高さをアピールするのに効果的な方法だからだ。

 実際に、新電子自治体共同研究会の調査結果では、情報システム要員のスキル不足や要員数不足など、情報システム部門のリソース不足で深刻な問題を抱える自治体が多く、特に、絶対数が多い町村役場においてその傾向は顕著だ。

 スキル不足は合併が実現したところで、一朝一夕に解決できる問題ではない。これら比較的中小の自治体では、情報システムを専門的に運用管理する部署さえ存在しないところも少なくない。これでは電子自治体の実現など到底不可能だ。

 この調査結果だけを見ても、電子自治体システムに対するアウトソーシングの潜在需要は小さくないことが分かる。電子自治体システムの実現には、インタラクティブ性を高めた最先端技術や、住民の個人情報を守るための強固なセキュリティ技術も必要だ。都道府県庁や市役所など、それなりの規模の情報システム部門を持つ自治体であっても、ITのプロ集団と言える組織を持つ自治体はわずかだろう。

 では、実際に、自治体は、電子自治体の実現に向けて、どのような方法を望んでいるのだろうか。下の図を見ていただきたい(クリックすると拡大図が開きます)。

e-gov.jpg

 すべて民間業者に委託することを望む自治体は全体の13%であるのに対して、すべて自前での実現を望んだり、ほかの自治体との共同センターで実現を望む自治体(官主体の運用管理を望む自治体)は45%にも上る。

 この結果だけ見ると、民間への一括アウトソーシングの需要は期待ほど大きくないように見えるが、都道府県庁、市区役所、町役場、村役場、で分けると、都道府県庁の24%が民間主体の共同センターでの実現を望んでいることが分かった。すべて自前で実現しようとする都道府県庁は皆無だ。日々発展する技術への対応や、複雑なシステムの運用管理がいかに難しいか、それを都道府県庁レベルであれば、よく分かっているからこその回答だろう。

 さらに、質問の仕方を変えて、情報システムの一括アウトソーシングの利用状況を尋ねると、実際に利用を検討する自治体は全体の8%と多くないが、「利用の可能性がある」と答えた自治体は全体の54%にもなる。これは、望ましい電子自治体の実現方法は官主体で運用管理することだが、情報システム運営にかかわるリソース不足(量と質)を考えると、将来的には民間企業に一括委託せざるを得ない状況になると考えているのだろう。すなわち自治体における一括アウトソーシングの潜在需要は極めて大きい。

 自治体におけるシステム市場は、富士通、NEC、日立製作所など、大手国内ベンダーや、地方密着型、また自治体の特定用途システムに特化したベンダーが牛耳っているのが現状だ。このため、新規参入は難しく思えるが、実際には自治体自身は、「これまでの取引関係」や「地域密着型であること」をアウトソーサー(外部委託業者)の選定基準としては重要視していない。むしろセキュリティ技術やサービスの質・信頼性、システム開発力など、提供されるサービスの内容に重きを置いていることが分かっている。

 すなわち、外資のベンダーでも、高度なセキュリティ技術、自治体ニーズに則した柔軟なシステム開発力、信頼性も高く、かつ適正価格のサービスを提供できれば、まだまだ新規参入できる余地があるということだ。市町村合併もまだ始まったばかりである。この電子自治体市場におけるアウトソーシング事業で勝者となるベンダーはまだ見えない。

[片山博之,ガートナージャパン]