エンタープライズ:インタビュー 2003/03/31 20:58:00 更新


Interview:顧客の声に耳を傾けるデルのランディ・モットCIO

厳しい経済状況の下、企業の多くが業界標準のハードウェアとLinuxの組み合わせを検討し始めている。そうしたシフトを牽引するデルは、自らのビジネスを業界標準プラットフォームで運営するショーケースでもある。同社のCIOを務めるランディ・モット氏が、顧客企業らとベストプラクティスを共有し、彼らの声に耳を傾け、さらにより良いソリューションを提供すべく来日した。

デルコンピュータの創業は1984年まで遡る。テキサス大学オースチン校で医学を学んでいたマイケル・デル氏が学生寮を拠点に、生まれたばかりの「PC」を通信販売したことが同社の始まりだ。あれから20年でPCはコモディティ化しながら,企業のITシステムを支えるまでになった。厳しい経済状況の下、ITプロジェクトのコストを見直す企業の多くが、業界標準のハードウェアとLinuxといった組み合わせを検討し始めている。そうしたシフトを牽引するデルは、自らのビジネスを業界標準プラットフォームで運営するショーケースでもある。同社の情報技術を統括する上級副社長兼CIO(最高情報統括責任者)のランディ・モット氏に話を聞いた

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1997年にはInformation Week誌で「CIO of the Year」に選ばれたモット氏


ZDNet 今回の来日の目的からお話しください。

モット 日本法人のITチームとのミーティングや、「CIOナレッジシェア」と呼ばれる顧客企業のCIOらとの定期ミーティングが主な目的です。CIOナレッジシェアは、カスタマーの声に耳を傾けるデルのビジネスにとっては重要なもので、オープンな対話を通じて、デルと顧客、あるいは顧客同士がベストプラクティスを共有する場となっています。

ZDNet そのミーティングでは、どのような話をするつもりですか?

モット デルは、(IAサーバと)WindowsあるいはLinuxを組み合わせた業界標準のプラットフォームを提供し、グローバルな顧客企業もサポートしている実績があります。顧客企業では、新しいプロジェクトに関するコストの見直しが行われています。「このプラットフォームは果たして適切な選択なのか?」という問い掛けです。そして、彼らはプロプライエタリなUNIXシステムからLinuxへの移行を検討しています。

 われわれは、業界標準のハードウェアプラットフォームとLinuxによって自社のグローバルシステムも稼動させています。コスト節約のメリットを顧客らに伝えると同時に、彼らがテクノロジーサプライヤーに何を望んでいるのかを聞き、それを開発、サービス、あるいは日本のチームに伝えたいと考えています。

ZDNet イラクとの開戦以降、幾つかのITベンダーは出張を自粛し、イベントもキャンセルしていますが。

モット デルのビジネスはグローバルに展開されています。情勢については慎重に見守っており、出張もケースバイケースとなっています。われわれのキー・ストラテジーを追及し続けるため、今回の定期ミーティングが必要と判断しました。日本のあと、韓国および中国に向かいます。

ZDNet あなたは、デルに入社する前にウォルマートで長年働き、CIOも務めていましたね。

モット 22年間です(笑い)。

ZDNet ウォルマートは、NCRのTeradataに多くの投資を行い、大規模なデータウェアハウスを構築し、活用していることで知られています。デル入社後、あなたの仕事に大きな違いはありますか。

モット デルでも昨年、Teradataで100テラバイトの大規模データウェアハウスを構築しました。顧客に関する情報を社内で活用するだけではありません。ゴールは、顧客も共有できるようにし、例えば、障害発生時にも適切な対処が取れるようにするものです。

 顧客へのレスポンスを良くする、という点ではデルもウォルマートと似ています。顧客の声に耳を傾け、より良い製品やサービスを提供するマイケル・デル(CEO)のアプローチは、(ウォルマートの創業者)サム・ウォルトン氏に通ずるものがあります。

IT基盤はコモディティであるべき

ZDNet 厳しい経済状況の下、ライバルたちは売り上げの減少や横ばいに苦しんでいますが、デルは極めて好調ですね。その背景をどのように考えていますか。

モット われわれは、経費を削減し、顧客に高い価値を提案することに注力しています。業界標準をベースとするアプローチが受け入れられる中、われわれの価値の提案が評価をされているのだと思います。

ZDNet IDCによれば、国内IAサーバ市場でもシェアトップをうかがえるところまできましたね(2002年、デルは18%にシェアを伸ばして2位になった。トップは23%のNEC)。

山田 単にハードウェアの価格だけでは、いつまでも続かなかったと思います。サポート体制を整え、DTC(デル・テクノロジー・コンサルティング)によってサービスを強化してきました。カスタマーエキスペリエンスをどこまで高められるかを常に数字で追及してきた結果だと思っています。

モット また、デルは常に一貫性のあるメッセージを伝えてきました。われわれはどういう存在で、将来どこに行こうとしているのか、を伝えてきました。そうすることによって既存の顧客だけでなく、新しい顧客も獲得しています。

 もちろん、LinuxやOracle9i Real Application Clusters(RAC)のようなソフトウェアの後押しもあります。ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)であれ、ミッションクリティカルなトランザクションであれ、クラスタ製品の存在によって、プロプライエタリなUNIXから業界標準プラットフォームへの移行が起こっています。

 複数のUNIXサーバを運用していたIT組織は、単一のLinuxに移行することによって保守運用コストを引き下げることもできます。

ZDNet しかし、どこも業界標準を使い始めれば、差別化は難しくなると考える企業が出てくるのではないですか。

モット デルは業界標準のプラットフォームを提供していますが、高い付加価値によってライバルたちと差別化を図っています。彼らのR&D投資は、プロプライエタリを推進するために使われていると言ってもいいでしょう。

 顧客企業においても同じことが言えます。今日のIT投資は、あまりにも多くのものがテクノロジーの相互運用性のために使われてしまい、ビジネスプロセスのイノベーションのために掛けられていません。本来であれば、ITの基盤は、容易に構築でき、相互運用性や拡張性が確保できる柔軟なものであるべきです。

 デルでは、パートナーとの協力を得て、業界標準プラットフォームという基盤を提供し、新しいアプリケーションの開発に際しても、もうバックエンドに手を付けなくて済むようにしたいと考えています。

ビジネスの継続性に取り組む

ZDNet セキュリティに対する関心が高まっています。デルの取り組みを教えてください。

モット セキュリティには2つの側面があります。「ソフトウェアの脆弱性」と「ビジネスの継続性」です。われわれは、前者のような狭義のセキュリティを超えた、もっと広範囲なベストプラクティスを適用しています。

 ただし、セキュリティ問題の多くは、最新のOS、最新のデータベース、あるいは最新の「Outlook」を使っていないことから起因しています。ですから、常に最新のソフトウェアを使うことで、より安全な状態にすることができます。

 狭義のセキュリティを超えた、ビジネスの継続性は、物理的に異なる場所で複数のシステムを運用し、冗長性を持たせることで確保しています。デルのビジネスは、幾つかの種類の完成品を提供するというものではありません。顧客のニーズに応じたシステムを納入するものであり、ビジネスの継続性は極めて重要です。セキュリティパッチやファイアウォールはもちろん、複数サイトにまたがるフェールオーバーによって、自然災害や電力問題が発生しても、ビジネスが継続できるようにしています。これは、セキュリティ問題が騒がれる以前からの取り組みです。

 業界標準プラットフォームというビルディングブロックは、必要に応じて小幅な拡張が可能で、システムに冗長性を持たせる場合にも大きなメリットが得られます。IT組織は、狭義のセキュリティだけでなく、ビジネスの継続性についてのITポリシーを確立し、それを経営幹部に提示していかなければなりません。

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[聞き手:浅井英二,ITmedia]