エンタープライズ:インタビュー 2003/05/23 20:21:00 更新


Interview:優れたLinuxソリューションで顧客にOS選択の自由を提供するHP

Linuxビジネスにおいて、HPの優位性はどこにあるのか? LinuxWorld Expo/Tokyo 2003での基調講演のために来日したヒューレット・パッカード(HP)の副社長でLinux総責任者のジュディ・チャービス氏と日本ヒューレット・パッカードHPのマーケティング・ソリューション統括本部部長の石山泰律氏にHPのLinux戦略について話を聞いた。

Linuxビジネスにおいて、ヒューレット・パッカード(HP)の優位性はどこにあるのか? HPの副社長でLinux総責任者のジュディ・チャービス氏と日本ヒューレット・パッカードHPのマーケティング・ソリューション統括本部部長の石山泰律氏に話を聞いた。

ジュディ・チャービス氏

「顧客の資産を守ることが最重要」と語るHPの副社長でLinux総責任者のジュディ・チャービス氏


ZDNET HPのLinux戦略とはどういったものですか?

チャービス HPのLinux戦略は次の7つの原則に基づいています。

  • オープンソースおよびLinuxへのコミット
  • LinuxとUNIXを近づけていく
  • 業界標準のプラットフォームで提供
  • 自社のエンタープライズソフトウェアのLinux対応
  • 安心できるサポートサービスの提供
  • 最良のLinuxパートナーシップ
  • 顧客に対して最適なサービスの提供

これらを一言でいえば、オープンかつヘテロジニアスなソリューション、サービスを顧客に提供していくというものです。そもそも、顧客がLinuxを重視している理由は大きく分けて2つあると思います。1つは投資収益やTCOなどコストに関する部分、もう1つが、ハードウェア・ソフトウェアに関わらず、業界の標準を利用することを望んでいるためです。

ZDNET Linuxビジネス市場はどのような感じなのですか? また、HPはそこにおいてどの分野に注力していくのですか?

チャービス ワールドワイドでみたLinuxビジネス市場の規模は、2003年で約137億ドルとなっています。今後は、Linux市場でもとくにサービスおよびソフトウェアが大きな割合を占めると思います。私たちはハードウェアベンダーとして見られがちですが、実際のところ、それだけにとどまらず、まさにこの分野に注力しているのです。

ZDNET IA32サーバ市場におけるHPのシェアは現在どれくらいですか?

チャービス コンパックとの合併でProLiantラインを手に入れたこともあり、非常に高いシェアとなっています。IDCのレポートによると、HPは約3割のシェアを持っており、これはその市場でのトップシェアとなっています。先ほどもいいましたが、現時点での業界標準といっても過言ではないIA32サーバ市場におけるHPのシェアを考えると、私たちはLinux市場を牽引していけるポジションにあるといえます。当然、業界標準にLinuxを実装していくことを重要視していますので、HPとしては、メインフレーム上にLinuxを搭載するのではなく、あくまでIA32またはIPFなどのプラットフォーム上にLinuxを搭載していく戦略を取っています。

ZDNET HPはオープンかつヘテロジニアスなソリューション、サービス提供を推進すると公言していますが、Linuxはどのような役割を果たすのでしょうか?

チャービス 注意していただきたいのは、Linuxがすべてに取って代わるわけではありません。UNIX、そしてWindowsがそれぞれの役割を持って、共存していくと考えるべきです。HPとしては、そうした状況で、顧客が望んだシステムを提供できる状態になっていることが大事だと考えています。

ZDNET その場合、ISVとのパートナーシップも重要ですね。

チャービス そのとおりです。Oracle、SAP、BEAなどをはじめとして、多くのISVと良好なパートナーシップを保てています。

ZDNET たとえば、IBMは自社のハードウェアにWebSphereをバンドルするといったオペレーションを容易に行えます。コンパックを買収したように、何かをトリガとして、どこかのISVを吸収し、自社製品にパッケージングして提供するようなことはありえますか?

チャービス そのような予定はまったくありません(笑)。顧客がたとえばHPのサーバ上でWebSphereを使いたいというのであれば、私たちは喜んでそのお手伝いをしますが。現在、ISVとのパートナーシップは非常にうまくいっていると認識しています。Linuxに関する戦略については、CEOの間できちんと軸あわせができている状況です。ISVと競合する部分がないこともパートナーシップがうまくいっている秘訣です。

ZDNET HPのサポート体制はどうなっていますか?

チャービス この部分に関してもHPの強みです。HPは4000人に及ぶサポート体制をとっています。これらの人員はCS(カスタマーサポート)、C&I(コンサルティング&インテグレーション)、MS(マネージサービス)という3つの部署に分かれています。このうちCSについては、HPのハードウェアだけでなく、競合であるIBMやデルのハードウェアについても検証を行っています。これにRed HatやSuSEの協力を得ることで、広範囲なサポートを可能にしているのです。

ZDNET Linuxの導入を検討することは顧客にとってどのようなメリットがありますか?

チャービス それは顧客が今持っているシステムが、Windowsベースなのか、LinuxまたはUNIXベースなのかに大きく依存すると思います。新たなシステムの導入に伴う管理の手間などを考えると、基本的には今使っているシステムと同じものを選択したいのが本音ではないでしょうか?

少し前までは、Linuxは無償だというようなアピールされたことがありましたが、Linux上でビジネスを稼動させようと思えば、メンテナンスやサポートのコストが必ずかかります。そのため、たとえばUNIXシステムからの乗り換えが必ずしもコストダウンとならない場合もあるので注意が必要です。また、現在Windowsを使用している顧客についていえば、Linuxの導入を検討することは、マイクロソフトとの交渉で、決してマイナスに働かないでしょう。

いずれにせよ、HPとしては、顧客がどのOSを選択した場合でも柔軟に対応できるようにし、最終的な顧客の決定をサポートしていくといった形を取っていきます。また、顧客が持つ資産を無駄にしないことが何より大事だと考えています。

ZDNET UnitedLinuxに関してはどのようにみていますか? 日本ではいまひとつ盛り上がりに欠ける気もしますが?

チャービス UnitedLinuxに関しては、すでに動作確認も十分に取れていますが、UnitedLinuxに対する市場の反応は地域ごとに異なります。たとえば、ヨーロッパではUnitedLinuxがトレンドとなっていますが、日本では、Red Hat LinuxやMIRACLE LINUXがトレンドではないでしょうか。実際問題として、HPで動作確認がとれていても、ISVが戦略的な面から正式サポートの表明を遅らせることもあります。UnitedLinuxもこれからどんどん盛り上がってくると思います。

ZDNET HPはRed Hat Linuxもサポートしています。しかし、Red Hatがエンタープライズ用途に位置づけているRed Hat Enterprise Linuxではなく、Errataの提供期間が短いRed Hat Linux 7.3や8が搭載されたものを使用する場合、エンタープライズユースではサポートに不安が残りますが、Red Hatのサポートが終了したあとのサポート体制はどのように行う予定ですか?

チャービス バージョンアップに伴う各アプリケーションの動作検証などの情報は随時提供します。また、Red Hatのサポートが終了したあとは、独自にErrataを提供するサービスを行っているサードベンダーとのパートナー契約や、Red Hatに対して要請していくことなどが検討されていますが、いずれの案も現状ではまだ確定していない状態です。Red Hat Enterprise Linuxに関しては、動作検証を行ったうえでサポートしていく予定です。

ZDNET Alpha上で動作するRed Hat Linuxが今回のLinux Worldに参考出品されていますが、こちらの動きはどうなっていますか?

チャービス 参考出品ですので、現状では市場に投入していくかどうかは未定ですが、動作に関しては、ほぼ問題ないレベルです。

ZDNET 今週、サンもLinuxにコミットしていくことを宣言し、x86ベースのサーバを発表しています。こうした業界の動向をどう見ていますか?

チャービス 私たちと同様のアプローチだと思います。私たちの取っている戦略が間違っていないといえるのではないでしょうか?

ZDNET 最後に、SCOグループが取っている一連の行動についてはどうお考えですか? HPとして、この騒動による顧客の不安を解消するために、SCOに有利に働く何らかのアクションを起こすことはありますか? また、これによってLinuxの普及に悪影響を与えると思われますか?

チャービス SCOとHPは20年来の付き合いがあります。その中では、ライセンス契約なども行っています。また、現時点では、HPとSCOの間でとくに問題は発生していませんので、今後もパートナーシップを継続していきます。また、Linuxを導入したいという顧客に対しては、それを提供していくという姿勢を貫きたいと思います。

[聞き手:西尾泰三,ITmedia]