エンタープライズ:コラム 2003/06/27 14:53:00 更新


Linux Column:トーバルズ氏のOSDLフェロー就任で何か変わるだろうか

トーバルズ氏がOSDLのフェローとして移籍された。最近のSCO騒ぎと並ぶLinux界のニュースだろう。その移籍で何が変わるのかを考えてみた。

 6月3週目のLinuxに関わるニュースといえば、Linux開発者のリーナス・トーバルズ氏がそれまで勤めていたTransmetaから、OSDL(Open Source Development Lab)にフェローとして移籍することが発表されたことだ。OSDLは、Linuxのエンタープライズ利用を実現するためのNPOであり、日本でも各ベンダーから支持されており、横浜にラボ施設がある。

 ご存知の通りTransmetaはCrusoeというCPUの開発元として知られ、Linuxディストリビューション「Midori Linux」をリリースするが、トーバルズ氏自身はLinux自体の開発を業務としていたわけではない。その開発に時間を割くことは、会社が許容してくれていたわけだ。しかし、業務の遅れについて心苦しく思う、という心情がメーリングリストなどで明かされている。今回、OSDLのフェローとなったことで、Linuxカーネルの開発に100%携わることができるようになったわけだ。この環境変化によって、Linuxカーネルに変化が起こるだろう?

中期的には変化がないものの長期的には変わるかもしれない

 筆者が思うには、中期的にはそれほど大きな変化がないのではないかと思う。これまでもそうだった通り、Linuxカーネルの方向性や取り込むべき機能などは、すでにトーバルズ氏がコントロールしてきている。これらの判断などに費やす時間は増えるわけだが、特に技術的な面の判断基準が大幅に変わるとは考えにくい。

 以前、来日された際のインタビューや記者会見の受け答えの印象からも、同氏の興味はCPUを中心としたコンピュータの基礎的なアーキテクチャ部分に対して最も強いように感じた。その後、時間が経っているので今も同じかは分からないが、元々Linuxは386プロセッサを利用することをターゲットとして開発が始まったことを考えれば、この興味は現在も大きくは変わっていないかもしれない。この観点からすれば、いっそうの活躍が期待されるが、外の点においてはドラスティックな変化があるのかというと、ちょっと考えにくい。

トーバルズ氏の行いそのものもオープンソースに通じる

 私自身、方針が大きく変わらないということは歓迎すべきことだと思う。少なくとも良い方法に進んでいるものを無理に方針転換する必要はないだろう。最近クローズアップされているLinuxへ求められているものは、信頼性(安定性)であり、長期運用時の安心感ではないだろうか。そう考えると、Linux開発のリーダーであるトーバルズ氏が開発に専念できる環境に身を置くことは、Linuxにとって大きなプラスになるに違いない。

 現在は緩和されたが、数年前はオープンソースに関わる人の間では、オープンソース大きく掲げて仕事とすることは難しい状況にあった(私も含めて)。今ではめでたく仕事として成り立たせている人も多いが、まだまだ課題が多く取り組めないという意見も聞かれる。今回のトーバルズ氏のニュースと同列に論じることはできないかもしれないが、自分がやりたいことを仕事として取り組めるのもまたオープンソース的な自由なのかもしれない。その、よいお手本ができた、という点も見逃せないだろう。1人でも多くの人が、そのように生きていけるようになるように願いたい。

[宮原 徹,びぎねっと]