エンタープライズ:特集 2003/07/14 14:09:00 更新

Windows Server 2003で広がるアプリケーションの世界
第1回 新しいソフトウェア環境に対応した最新のExchange Server 2003

マイクロソフトは、Titaniumのコード名で知られたメッセージングサーバ Exchangeの新バージョン「Microsoft Exchange Server 2003 日本語版」を製造工程向けに出荷(RTM)した。Exchange Server 2003は携帯電話やPDAからのアクセスにも対応し、生産性やセキュリティなどの面で改良を施しているという。

 Exchange Server 2003のベータテストは、マイクロソフト自身が「これまでにないほど順調で、品質面での問題も少ない」というほど円滑に進んだ。実際、筆者自身も前バージョンと併用しながらExchange Server 2003β版を試用してきたが、大きなトラブルにはまったく遭遇しておらず、パフォーマンスや要求リソースの面でも決して"重い"ソフトウェアにはなっていないように感じる。

 かつて筆者のExchange Serverに対するイメージは「機能性は高いが、ユーザーあたりに要求するハードウェアリソースが多く(つまり重たく)、管理性に乏しく、よく落ちる」というものだった。このイメージは、前バージョンのExchange Server 2000で大幅に改められたが、(製品版の評価が終了するまで予断は許さないものの)Exchange Server 2003ではさらにこの部分での品質を高めることに成功しているようだ。

 実際にマイクロソフトによれば、メモリ割り当て効率の向上を目指して開発したとのことで、例えば仮想環境を構築するアプリケーションであるVMWare上に構築した仮想コンピュータ、いわば限られた実行環境でも、明らかに以前のものよりパフォーマンスが改善されている。

 同社の最新ソフトウェア環境に対応していることにも注目したい。Exchange Server 2003はWindows Server 2003上で動作することを念頭に開発されており、ボリュームシャドウコピーサービス(VSS)、フォレスト間のKerberos認証といったサーバOS側の最新機能をサポートしている。ActiveDirectoryの複製トラフィックの最適化、ディレクトリ情報のロールバック機能装備などの機能アップも図られた。

 今年秋に別途投入される予定のクライアントソフト、Outlook 2003に実装される新機能に対応している点にも触れる必要があるだろう。Outlook 2003には、ローカルハードディスクに作成するメールボックスの複製とサーバ上のメールボックスを同時に使用することでパフォーマンスとデータ整合性を両立させる"キャッシュモードアクセス"という新機能が追加される。キャッシュモードアクセスそのものは以前のExchange Serverでも動作するが、Exchange Server 2003とOutlook 2003を組み合わせるとより効率的に動作する。またHTTP経由でExchange ServerとOutlookを接続するために、RPC over HTTPにも対応する。

Outlook 2003

画面1■Outlook 2003では、迷惑メールに対するフィルター処理などセキュリティに関する多くの新機能も追加されている


モバイル環境のサポート機能が充実

 RPCとはリモートプロシージャコールのことで、ネットワーク経由でリモートコンピュータにプログラムを実行させるための手順である。Exchange ServerにアクセスするためのMAPI(Messaging API)ではこのRPCが利用されるが、RPCはファイアウォールを超えることができない。そのためインターネットからExchange Serverに接続する場合、従来はVPNを併用する必要があった。

 RPC over HTTPはRPCをカプセル化し、HTTPを通じてパケットをトンネリングさせるテクニックで、これによりモバイル環境から容易にExchange Serverに対する接続が可能となった。モバイル環境をサポートする機能が充実したと言うよりは、むしろこれまであまり積極的に取り組まれなかった部分だと言えなくもない。

 また前述したOutlook 2003との組み合わせで機能するキャッシュモードアクセスは、モバイルユーザーにとって非常に重要なものとなる。キャッシュモードがない従来のOutlookでは、モバイルユーザーのためにサーバデータの複製をハードディスクに保存することはできたものの、ディスク上の複製にアクセスするか、それともサーバにオンラインで接続するかの二者択一しか行えず、しかも両者を動的に行き来することもできなかった。

 キャッシュモードアクセスで動作させたOutlookは基本的にローカルの複製されたデータベースを参照し、オンライン時にサーバの更新が非同期に実行される、という動作となる。このため、サーバの応答速度に依存せず、Exchange Serverの応答が遅れてもユーザーは非同期に作業を進めることが可能だ。

 動的にオンライン/オフラインを遷移させることも可能。例えばデスクで使っていたノートPC上のOutlookを起動させたままサスペンドさせ、会議室に移動して別の無線LANアクセスポイントに接続するといった場合を見てみよう。サスペンドによっていったんネットワークへの接続が切断され、無線LANアクセスポイントで再度ネットワークに接続した場合、IPアドレスが変わるため、従来ではExchange Serverとの接続を継続/再開できずにOutlookがハングアップ状態になり、タイムアウト後、再起動しなければならなかった。オンライン/オフラインの各モードを切り替えることで、このような事態を避けることができる。

 常に自動的に同期が取られているため、ノートPCを持って出かける場合に、いちいち同期しなくともそのまま持ち出せば最新のデータにアクセスできるというメリットもある。またローカルにある複製が最新の場合、サーバから情報をダウンロードする必要がなくなるため、ネットワークトラフィックを削減(マイクロソフトの資料によると半分程度)させることができる。さらにサーバレスポンスがユーザーレスポンスに直結しないため、1台のサーバがサポート可能なユーザー数も増える。

 実はこのキャッシュモードアクセスと似た機能は、現行のOffice XPに同梱されているOutlook 2002でも実装されるはずだった。現在のExchange ServerはWebDAVをベースとしたWeb Storage Serviceに情報を保存しているが、Office XPにはLocal Web Storage Service(LWSS)というクライアントPC上で動作するWeb Storage Serviceを常駐させ、それを経由してサーバにアクセスさせる(サーバとのデータ同期はLWSSが管理する)という手法を採用しようとした。この方式ではWebサービスもローカルで実行可能になるため、モバイル環境のサポートは一気に進むはずだった。

 結局、マイクロソフトは同社のバックエンドサーバが利用するストレージシステムとしてWeb Storageを採用することをやめ、次期SQL ServerのYukonが持つデータベースエンジンを用いることにした。またLWSSはローカルPCへの負荷が高く、パフォーマンス改善の目処も立たなかったため、Office XPリリースの時点では採用したくともできなかったという事情もある。

 Exchange Server、Outlookともに次期バージョンではYukonベースのストレージサービスを利用するため、時間が経過すればLWSSで目指した以上の機能を実現できるものの、その前段階としてモバイルユーザー向けに今回のキャッシュモードアクセスがサポートされたようだ。

Webブラウザサポートの充実

 これもモバイルユーザーに適した機能だが、ブラウザからExchangeの機能にアクセスするOutlook Web Access(OWA)の機能も大幅に向上した。

Outlook Web Access

画面2■新しいOutlook Web Access(OWA)を利用すると、WebブラウザからほぼOutlookの機能どおりのデータアクセスが可能


 従来のOWAは動作が重く(サーバのパフォーマンスに余裕がある場合でも)操作感は決して良好とは言えなかった。また、Outlookが標準で持っている機能の一部にしかアクセスできず、メッセージのビュー切り替えやプレビュー機能などが利用不可能だった。また[仕事]フォルダへのアクセス機能もない。見た目にはOutlookに近いイメージを実現していたOWAだが、その機能性はまったく別物だった。

 このため、Outlookを必要としていないユーザー向けにはOWAを提供し、サーバ側で集中管理するといったアプローチを取るといった使い方をするのは、事実上不可能だったと言える。OWAを日常的に使っている、という人がほとんど存在しなかった理由だ。

 しかしExchange Server 2003のOWAは変わった。Outlook 2003と非常によく似た画面を持ち、Internet Explorer 5以降のブラウザ上では、細かな使い勝手の面でも大きく進化している。例えば、これまで決まったサイズでポップアップしていたアイテムウィンドウは、前回のサイズを記憶するようになり、メールリストの上でマウスの右ボタンをクリックすればコンテキストメニューが現れ、ショートカットキーによる操作も行える。カスタマイズ性もグッと向上し、カレンダー表示や連絡先などの表示品質も改善されている。

 またサーバ側の負荷も目に見えて軽くなっているようだ。メッセージリストの取得と更新が非同期処理になったことなどで見かけ上のレスポンスがアップしたこともあるだろうが、メール、予定表、連絡先、仕事、パブリックフォルダへのアクセスといった、一般的なOutlookの機能を使う上で、何ら不便に感じることがない。メールアドレスの補完機能まで実装されている。

 これまでWebブラウザのサポートでは一歩遅れていたExchange Serverが、今回のバージョンで大きく前進したことは間違いない。これならば、ネットワーク管理者の立場で一部ユーザー向けにOWAを使わせることを前提に評価をしてもよいのではないだろうか。

 一方、携帯電話のブラウザからのアクセスについてもサポートされた。Exchange Server 2003の携帯電話サポートには、Pocket PC Phone Editionとの同期機能もあるが、日本ではこのバージョンのPocket PCが存在しないため、事実上、Exchange Serverの携帯電話サポートはブラウザ向けのサービスということになる。WAP 2.0もしくはCHTMLブラウザに対してのアクセス機能を提供する。

 Exchange Server 2003は、その基盤部分は従来のExchange Server 2000を踏襲するものだ。しかし難産だった前バージョンは、基盤部分での改善が大きすぎたが故に、細かな面で洗練されていない部分、あるいは機能的に抜け落ちている部分も存在した。しかし徹底してリファインを加えたことで、Webクライアントからのアクセス機能、パフォーマンス、セキュリティなどをアップさせた今回のバージョンは、安心して導入を検討できるものとなっているように見受けられる。

 次バージョンでは、再度大きな基盤技術の更新が予定されているExchange Serverだが、それだけに熟成を進めた今回のバージョンは評価に値すべきジェネレーションだ。

[本田雅一,ITmedia]