エンタープライズ:インタビュー 2003/08/01 01:03:00 更新


「決してオープンソースは否定しない」Microsoft 古川氏

7月31日、電子政府戦略会議で基調講演を行ったMicrosoft Corporationの古川 享氏に、その取り組みのきっかけやオープンソースについて聞いた。

 Microsoft Corporationの古川 享氏

「今は、PC業界の技術を他の業界へ広める橋渡しの役を務めている」と古川氏


ZDNet 現在古川さんはMicrosoft Corporationのアドバンスト・ストラテジー&ポリシー担当バイス プレジデントという立場にいらっしゃるので、電子政府への取り組みというのは意外な気もします。

古川 現在私は米国本社へ勤務しており、ひと月のうち3週間レドモンドにいて1週間東京に戻るという生活をしています。アドバンスト・ストラテジー&ポリシーとして私がやっている仕事というのは、パソコン以外の分野にわれわれの技術が適用されるとき、その分野とのパイプを作るという役目と言えばよいでしょうか。

 例えばWindows Media 9シリーズの場合には、オーディオ機器メーカーや音楽レーベル、あるいはコンテンツプロバイダーとリレーションを持つといったように、今までとは違う分野の方々と新たなお付き合いを始めるということをしています。その一環で政府関連の事項についても、旧通産省/郵政省の時代からいろいろな場面でお付き合いをしてきました。会社として異分野へ参画するというのは社会的責任を果たすということもありますが、わが社にとってメリットとなるものも少なくありません。会社として実現していないカテゴリーへ挑戦できたり、若い人材の活躍の場を作れたりといったようなことにつながるわけですから。

ZDNet マイクロソフトとして電子政府へ取り組む背景について解説してください。

古川 純粋にビジネスという面から見れば、これよりももっと効率のよい機会があるでしょう。製品を売り込みたいというよりは、社会の中で必要とされていることに取り組むことで、企業としての責任をきちんと果たしたいということがあります。また、幾多ある日本の企業とコラボレーションをすることで、マイクロソフト単独では実現不可能なことを力を合わせて提案・実現していくということも大切だと考えています。それから、電子政府とは官・民の両方が足並みを揃えていくことで発展していくものです。どちらかが欠けたり先走ってはうまく進みませんから、そのバランスをとることも重要だと思います。

 マイクロソフトがどういった部分に協力できるかですが、例えば電子政府では、すべての人々がそのサービスを利用できなければ意味がありません。ユニバーサルデザインであるということです。それには高齢者の方々や障害をお持ちの方々なども、パソコンの利用がスムーズにできるような仕組みを提供する必要があります。そのためにわれわれはアクセシビリティに関する取り組みを行ってきており、その技術をWindows 95から標準機能として取り入れています。実は、この分野ではもともとアップルコンピュータなどが進んだ技術を持っていたのですが、その技術者たちがマイクロソフトに入ってこの部隊が生まれるきっかけとなりました。こういった機能を提供するだけでなく、アクセシビリティに関するガイドラインを規定し、アプリケーションもこれに沿って作成してもらうといったことを行っています。音声による読み上げ機能や音声認識機能なども、日本国内で独自に取り組んでいかなければならないものですし、国内ではほかにも、リユースPCの非営利団体への寄贈支援やNPO支援といったプログラムをすでに実施しており、これらもIT化への布石にしたいと思います。

ZDNet 企業としてのノウハウの部分ですね。

古川 けれども、これも一企業の技術だけですべてが実現できるわけではありません。いろいろな企業の技術を結集して1つのものにしているという要素も多いのです。

ソースコード開示について

古川氏は「はるか以前から、マイクロソフトはソースコード開示を行っていた」と話す。


ZDNet 各国の中には、政府調達のソフトウェアはオープンソースでなければならないと決めたところもありますが、マイクロソフトの立場としては?

古川 「オープンソース」とまでは言えませんが、マイクロソフトは過去にもビジネスパートナーや政府機関に対してソースコードを開示しており、決してその部分でクローズドな会社ではありません。それから私は、マイクロソフトが「オープンソースに反対している会社」だと思われているところを払拭したいと思っています。マイクロソフトはオープンソースに反対していませんし、その活動を阻害しようという意思もありません。私としてはむしろオープンソースのよいところは積極的に取り入れたいですし、GPLの存在も認めています。ただし、GPLの名の下にソフトウェア産業が成り立たなくなったりすることは避けなければなりません。この分野にわれわれのビジネスが存在しており、お互いに足を引っ張るようなことだけはしたくないと思います。オープンソースでよりよいものが現れたときは、われわれももっとがんばらなくてはいけない、そう張り合えるような状況が望ましいと思います。

ZDNet T-EngineやLinuxといった「ライバル」についてはどうご覧になっていますか?

古川 Linuxはいまもお話したとおり、GPLの問題や責任の所在といった点で利用に踏み切れない部分もあると思います。ただ、そのメリットを感じて利用しているユーザーも社会の中には当然いらっしゃいますし、その存在を否定するなどというものではありません。

 T-Engineについは、私はとても素晴らしいものだと思っています。リアルタイム性を備えており、国産のCPUと国産のOSを搭載して国内の各業種で認知されているプラットフォームですから、どこかで接点を持ちたいと考えています。私からの「ラブコール」と言ってもいいですね。

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[聞き手:柿沼雄一郎,ITmedia]