エンタープライズ:インタビュー 2003/09/29 09:28:00 更新


Interview:Napster訴訟のマイヤー氏、Linuxに対するSCOの主張を分析

Napster訴訟も手がけたマイヤー氏は、SCOが問題のコードの完全な所有権を持っているかどうかは全く不透明な状況であり、慌てて判断を下すべきではない、とアドバイスする。

 新しい技術には常に法律的に灰色の部分が伴う。

 コンピュータ産業の歴史は、そういった問題でもいつか決着することを示しているものの、それまでの間、企業は長期間にわたって不透明な状況の中を手探りで進むことを余儀なくされるのだ。SCO GroupとLinuxコミュニティーとの間で繰り広げられている最近の論争は、まさにこのケースに当てはまる――そう指摘するのは、カリフォルニア州マウンテンビューにあるFenwick & Westで知的財産問題を担当するパートナー、ステュアート・マイアー氏だ。

 こういった灰色の部分を専門とするマイアー氏は、Napster訴訟を手がけたほか、1990年代には広く知られたBorlandとLotusとの間の著作権紛争にもかかわった。

 マイアー氏はCNET News.comのインタビューの中で、「裁判所がSCOの主張を支持すれば、Linuxを利用、開発あるいは販売する企業は、厄介な責任問題に直面する恐れがある」と指摘した。しかし、SCOが問題のコードの完全な所有権を持っているかどうかは全く不透明な状況であり、慌てて判断を下すべきではない、とアドバイスする。

――Linuxを使用する顧客を保護するというHewlett-Packard(HP)の判断をどう思いますか。

マイアー 企業にとって法律に関して最大の現実的懸念となるのは、不明瞭な問題だというのは、法律専門家がよく指摘することです。人々は法律がどうなっているかということは、あまり気にしないのです。どんな法制度であれ、人々はその内容が分かってさえいれば、それに対応できるものです。しかし法律のある部分があいまいであれば、企業にとっては事業計画を策定するのが非常に困難になります。HPなどの企業は、不明瞭な部分が残された技術を推進したいと考えているようです。彼らは、その不明瞭な部分を取り除きたいのです。

――ほかの企業、例えばIBMやDellなどもHPの後に続くと思いますか。

マイアー Sun MicrosystemsとHPが顧客を保護するという姿勢を打ち出したからには、ほかの企業もそれに従わざるを得ないと感じるでしょう。

――SCOの訴訟では何が焦点になるでしょうか。

マイアー まず「ニワトリが先か、卵が先か」という問題を解決する必要があります。基本となる所有権の問題がまだはっきりしないのです。知的財産権の申し立ての前提となるのは、訴えを起こした当事者がその知的財産を実際に所有しているということです。多くの場合、このことが争点になることはありません。しかし今回ケースでは、不明瞭な所有権のチェーンが存在し、その中にはオープンソースライセンスが当該の知的財産に関係している部分もあります。

――法律的問題がこれほど複雑になるのはなぜですか。

マイアー ソフトウェアに関する既存の法制度が、所有権に基づくモデルとなっているからです。業界は長い間、この既存モデルに基づいて発展してきました。そこに新しいモデルがオープンソースとともに登場が登場しました。このモデルは新しいというだけではなく、ある部分では従来の所有権モデルとも絡み合っています。それが今、SCO訴訟という形で現れているのです。新しいモデルに対してさまざま形で「待った」がかけられるのは必然的だと言えます。このような問題が起きるのは避けられないことなのです。

――SCOの主張が理にかなっていると仮定すれば、責任は誰にあるのですか。Linuxソフトウェアを配付した企業でしょうか、Linuxをシステムに組み込んで販売しているHPやIBMなどのハードウェアメーカーでしょうか、それともLinuxを利用しているユーザーでしょうか。

マイアー 潜在的には、多くの関係者に責任があると言えます。知的財産法では、直接的な侵害者であるか、あるいは権利の侵害を他者にそそのかしたり、他者による侵害につながるような行為をすれば、責任を問われる可能性があります。ですから、理論的には「全員に責任あり」という答えになるでしょう。

――企業が侵害の事実を認識していなかったとしても責任を問われるのですか。

マイアー 認識していたかどうかは問題ではありません。知的財産に関する法律では、精神的に罪はなくとも権利を侵害することがあり得るということが重要なポイントになっています。例えば、特許法では、特許が存在することさえ知らずに、偶然、同じような発明をした場合でも、特許権を侵害したとされるのです。著作権法では、実際に著作物をコピーするだけでなく、前に聞いたことがある歌をコピーした場合も責任を問われるのです。ジョージ・ハリスン(元ビートルズ:故人 彼の大ヒット曲「マイ・スウィート・ロード」が盗作訴訟で有罪となった)は、苦い経験を通じてこのことを思い知らされました。

――オープンソースコミュニティーの人々の多くは、SCOの訴訟を取るに足らない問題だと考えています。あなたはこの問題を重視しているのですか。

マイアー 知的財産の侵害や不正流用に対する訴えを真剣に受け止めることは重要です。言い換えれば、取るに足らない問題だと簡単に決めつけるような意見をそのまま受け入れてはいけないということです。企業はこの問題を調査した上で、自分たちにとってどんな影響があるのか判断しなければなりません。

 特許侵害の心配はないと言っていた人が、2〜3年後に裁判にかけられる、というケースを私は多く知っています。新聞や雑誌の記事を読んだだけで、この問題に時間を費やす価値があるかを判断してはいけません。何であれ、取るに足らない問題だと決めつけるのは非常に危険です。裁判では予想外のことが起こるからです。そういった事態にも対処できるよう準備しておく必要があります。

――Linuxを販売しているベンダーは、自分たちおよび顧客のために何をすべきでしょうか。

マイアー この問題を徹底的に調査し、十分な情報に基づいてビジネス上の判断を下すことが大切です。SunとHPが顧客を保護しようとしているのには、顧客自身が調査をしないでも済むようにするという理由もあります。リスクの現実性を考えた場合、ベンダーの保護が受けられるのであれば、リスクは小さくなりますが、リスクがなくなるわけではありません。理論上では、SCOの訴えはLinuxの使用差し止め命令という結果をもたらす可能性があるのです。

――この訴訟は、オープンソース製品の開発と販売にどれくらい悪影響を与えるでしょうか。

マイアー この訴訟が悪影響をもたらすことはないでしょう。オープンソースソフトウェアとプロプライエタリソースソフトウェアの結合が紛争を引き起こすのは不可避だからです。今回の争いは、たまたまその最初の事例になったというだけです。この争いが起きていなくても、ほかで争いが起きていたでしょう。この訴訟は、業界がオープンソースに慣れるまでの「成長期の苦しみ」のようなものだと私は考えています。



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[聞き手:Ina Fried,ITmedia]