エンタープライズ:ニュース 2003/10/14 16:48:00 更新


ENUMとIPv6の両方に対応したインターネットFAXが登場、ENUMトライアルでの利用も

松下電器産業はTELECOM 2003の展示会場で、IPv6を用いたビジネスコミュニケーションの模様をデモ。中にはENUMもサポートしたインターネットFAXも登場した。

 前回に比べると規模が縮小したというTELECOM 2003の展示会だが、日本を含むアジア地域のブースだけは元気なようだ。

 松下電器産業はこの会場で、IPv6の世界におけるビジネスコミュニケーションを想定したデモンストレーションを行っている。IPSecによる通信の暗号化はもちろん、SIPによるVoIPあり、マルチキャストあり、カメラを用いた監視サービスありと、さまざまなアプリケーションを盛り込んだ。

 このデモでは、PCだけでなく、PDAなどインスタントメッセージングやテレビ会議、アプリケーション共有を組み合わせたコミュニケーションの様子を紹介していた。特に、IPv6のマルチキャストを利用することにより、言葉としては矛盾するようだが「放送型」ではなく「通信型」のマルチキャストが可能になるという。誰かがホストとなって会議を招集するというよりも、自然発生的な井戸端会議のように、気が向けば複数の相手とのやり取りに加わり、好きなときに抜け出すことができる。

 IPv6ベースの通信に関しては、NTTコミュニケーションズもデモンストレーションを行っていた。同社の公衆無線LANサービス「HotSpot」で、IPv4/v6のデュアルネットワークをサポートするだけでなく、IPv6とIPSecの組み合わせによるセキュリティの確保と、MobileIPv6を用いたモビリティの向上を目指し、開発を進めているという。

NTT Comデモ

NTTコミュニケーションズのデモの様子

 特にIPSecのサポートは、ビジネスユーザーにとって重要だ。従来のホットスポットサービスでは、セキュリティ上の懸念が拭い去れない以上、企業システムへのリモートアクセスは避けられることが多く、用途は電子メールのチェックやWebアクセスなどに限られていた。

 NTT Comではこれら2種類のサービス実現に向けて、HotSpotサービスのバックエンドでIPv6のアクセスゲートウェイとなるMACGの開発を進めており、2004年春ごろを目標に提供する計画だ。さらには、プロトコルの種別に応じたCoS(Class of Service)も展開も検討しているという。

FAXにもENUMを実装

 もう1つ、ITU主催のイベントならではの展示と言えそうなのが、松下電器産業が展示した、IPv6とENUMの両方をサポートしたインターネットFAXだ。

ENUM対応FAX

外観は普通のFAXとあまり変わらないように見えるが、これが世界初のENUM対応FAX

 インターネットの世界では、ドメイン名を用いて相手の居場所を問い合わせる。ENUMはその問い合わせに、ITU-TのE.164番号、いわゆる電話番号を利用できるようにするための仕様だ。策定はIETFが進めたが、作業にはITUも加わっている。

 ENUMは、単にインターネットの世界と電話の世界を橋渡しするだけでなく、相手が今利用できる通信手段に応じて、1つの「識別子」からアクセスできるようにする。つまり、相手が電子メールアドレスやインスタントメッセンジャーのアカウント、電話番号にFAX番号に携帯電話の番号と、それぞれを記録しておく必要はなく、電話番号さえ知っていれば、適切な手段で相手とコンタクトを取れるようになる。

 無論、これが現実になるにはまだしばらく時間がかかるだろう。それでも、海外でENUMのトライアルがスタートしたほか、日本でも9月にENUM実証実験のための団体「ENUMトライアルジャパン(ETJP)」が設立され、活動を開始している。松下電器産業もETJPの一員だ。

 TELECOM 2003で披露されたインターネットFAXは、そのENUMを実装したものとしては世界初という。同時に開発を進めているENUMサーバ(プロトタイプ)に対し、ENUMで問い合わせを行うことで、IP網の上であろうとそうでなかろうと、容易にFAX通信を行えるようにする。

 その上IPv6をサポートしたことで、さらにいくつかのメリットが生じると同社は説明している。まず、インターネットFAX同士のダイレクトな通信が可能になり、従来のインターネットFAXに必要だったSMTPサーバが不要になる。またIPSecの実装も容易であり、暗号化された安全な通信が可能になるという。

 ENUMの実現には業界全体の歩調を整えることも必要であり、そういった要素を加味すると、ENUM/IPv6対応インターネットFAXが市場に登場するまでには、まだしばらくかかりそうだ。だが、ETJPによるトライアルも進んでおり、実験ではこのインターネットFAXとENUMサーバがリファレンスモデルとして利用される計画もあるという。

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[高橋睦美,ITmedia]