エンタープライズ:ニュース 2003/10/31 22:29:00 更新


「イノベーションにおける国家戦略が必要」とIBMのパルミサーノ氏

米IBMのCEO、パルミサーノ氏は、ビジネスにおけるイノベーションを国家規模で奨励しなければ、イノベーションを生み出す頭脳の流主は避けられないと警告する。(IDG)

米国の政府および企業は、ビジネスにおけるイノベーションを奨励する必要がある。なぜなら、技術をはじめとする各産業において、米国は強みを失いつつあるからだ――米IBMの会長兼CEOのサム・パルミサーノ氏はこのように述べた。

 パルミサーノ氏は10月28日、革新的技術をはじめとする産業において米国が世界のリーダーであり続けるための競争審議会の年次総会(ワシントンD.C.で開催)でスピーチを行い、1年〜1年半におよぶイニシアティブ「National Innovation Initiative」を発表した。パルミサーノ氏によると、米国は、過去のイノベーションについては「世界の羨望」を集めたが、ビジネスイノベーションを奨励し続ける方法に関して、国家全体のコンセンサスが必要だという。

 「われわれがきちんと注意を払わなければ、米国はイノベーションの新たな現実で失敗する可能性がある。そうなれば、イノベーションを生み出す人はどこかよその国に流出してしまうだろう。われわれは本腰を入れて、経済の多くの分野におけるイノベーションに注力する必要がある」(パルミサーノ氏)

 競争審議会は、世界市場において米国の企業が競争力を維持し、米国が高い生活水準を得ることを目的に1986年に設立された。同評議会のメンバーは、イノベーションに関連した課題を推進するために、科学技術諮問評議会や経済諮問委員会などの米国の政府中枢の人間と直接作業している。パルミサーノ氏は「イノベーション」という言葉を特に定義していないが、米国のイノベーションとして、ヘンリー・フォードによる米国自動車産業の開始やヒトゲノムのマッピング、トランジスターの発明などを挙げた。そしてIBMは、米国で過去10年間に発行された特許を最も多く保有する企業であり、今後も革新的であり続けると続けた。

 National Innovation Initiativeでは、次の3つの目標を掲げている。

  • 米国におけるイノベーションを強化する重要課題と機会の特定
  • 公共セクター、企業セクターへの勧告の準備
  • 企業および労働者、大学といった各種グループ間における、イノベーション戦略についてのコンセンサスの構築

 ジョージア工科大学の学長であるウェイン・クラフ氏とパルミサーノ氏が共同で会長を務めることになっているそのイニシアティブは、イノベーションを増進させる方法を確認する「幅広く範囲な」取り組みになるという。中間報告は、開始後6〜9カ月に発表される予定だ。2人の会長は、イノベーション推進のための勧告を準備するにあたり、ビジネス業界や学術界、労働者、政府の各リーダー間で対話が行われる際のホスト役を務める。

 パルミサーノ氏は、米国政府がビジネスイノベーションを推進すれば、米国企業はここ数年で数百万件もの雇用を作り出せるだろうと述べた。米国の経済成長に関心を寄せる著名なCEOや大学関係者、労働界のリーダーが形成するNPOである同審議会には、42人の業界関係者が出席していた。パルミサーノ氏は出席者を前にして、自由貿易合意といった政府の規制により、米国企業が引き続き世界市場に製品を提供できるのであれば、今後2年で1300万件の雇用を創出できるはずだと述べた。

 「しかし、われわれ全員が直面する真の課題は、“どこでその雇用を創出できるか?”という点にある」とパルミサーノ氏。「雇用を創出できるのはどこか? 今日、イノベーションと雇用創出は世界のどこででも起きている。われわれは現在、過去にこの国にあったような独自の方式を持っていない」(パルミサーノ氏)

 パルミサーノ氏はまた、インドや中国などの国が米国のイノベーションに追いつきつつあるのは、必ずしも安い労働力が原因ではなく、科学と技術に関する教育プログラムに力を注いでいるからだとも述べる。「賃金の格差以前の問題だ。IBMは、将来に備えて教育や雇用対策に投資している国と対話している。そのような国では、学生に現代の取引言語を教えている。それは英語だけではなく、ソフトウェアや財務上の数字、ゲノミクスだ」(パルミサーノ氏)

 パルミサーノ氏によると、同審議会は、1990年代のビジネスのバブル状態を受けて、産業を管理する方法を検討するようになったという。ドットコムの失敗をはじめとするスキャンダルを個別に取り上げることはしなかったが、それらのスキャンダルに反応した結果、ビジネス投資に対して潜在的に不利な環境を作り出してしまったという。

 雇用と投資の成長は引き続き停滞して、米国は予算と貿易赤字の増加に直面するとパルミサーノ氏は見ている。

 パルミサーノ氏が特定の政府政策の変更を推進することはなかったが、米Advanced Micro Devices(AMD)の創設者兼会長であるW.J.サンダース氏は、ストックオプションを授与するプロセスを改革する議会の取り組みを非難した。オレゴン州の民主党員、ロン・ワイデン上院議員が提出した議会案は、企業幹部へのストックオプションの授与に関して株主の承認を必要とするとしている。今年初めには、米国財務会計基準審議会が、決算報告書にストックオプションによる支出を表記するよう求める案に投票している。ほかにも、公開企業に対して、政府にストックオプションを報告することを義務付ける法規制はある。

 「ストックオプションの額と奨励金の金額は、自由で競争力のある市場で決定されるべきだ。自由でオープンな競争に、規制団体が入り込めないようにしよう」とサンダース氏は呼びかけた。

 サンダース氏は企業に対して、イノベーション生まれるような環境を作るように求めた。「アイデアは個人から生まれる。団体や企業から生まれるのではない。だから組織は、イノベーションを助長するような環境を提供する余地を作らなければならない」(サンダース氏)

[IDG Japan]

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.