エンタープライズ:コラム 2003/11/05 08:05:00 更新


Gartner Column:第117回 コールセンター市場に本格参入するSAPジャパン

コールセンターに対しては、大手企業からの需要は一巡したとの見方が一般的だ。しかし、リプレース需要や、未開拓の市場からの需要は存在しており、ビジネス機会が逸したと考えるのは時期尚早であろう。

 コールセンター(あるいは顧客との接点の場という意味でコンタクトセンターと呼ぶ場合もある)は、顧客からの製品・サービスに対する問い合わせ、苦情、注文などの対応業務を、電話とシステムを通じて効率的に行うセンターを指す。CRMは、マーケティング、営業、顧客サービスの3つの業務を、顧客中心戦略と連携させて実行するシステムであるが、3つ目の顧客サービスに該当するのがコールセンターだ。

 システムと一体化したコールセンターの導入は、ナンバーディプレイ・サービスの開始と、CRMの概念が普及し始めた頃に本格化した。特に消費者をビジネスの対象にするような大手企業では導入が進み、今ではこのような企業のほとんどで利用されている。銀行、製薬、消費財製造、通販、運輸、セキュリティサービスなどの大手では導入していない企業の方が稀であろう。実際に、ガートナーで行ったCRMに関するユーザー調査でも、コールセンターは導入率こそ高いが、新規需要はかなり小さくなっているのが分っている。

 ではコールセンターに対しては、もう大きなビジネス機会は期待できないのであろうか。

 そうではない。なぜなら今までのコールセンターが、期待されたような効果(ROIの向上)を出していないからだ。第69回のコラムでも述べたが、コールセンターそのものは、SFAと並んで実行系CRMの1つで、顧客サービス業務を効率化するための手段でしかない。設置直後はある程度の顧客満足度向上には貢献するが、多くの企業が同じサービスを導入すればその効果も薄れる。手作業をシステム化により効率化するだけでは、投資額に見合うような利益は出ないということだ。だが、企業データと顧客データを整備したデータウェアハウスを中核に置いた分析系CRMと併用すれば、また新たなビジネス効果が生み出されるであろう(第112回 データウェアハウスはビジネス効果創出の基盤)。

 実際にコールセンターやSFAなどの「実行系」CRMの新規需要は小さくなる一方で、「分析系」や「統合系」に対するニーズは高まっていることも、ユーザー調査の結果から分っている。特にDWH(データウェアハウス)/DM(データマート)の潜在需要は極めて高い。さらに分析系のBI(ビジネスインテリジェンス)やキャンペーンを自動化するマーケティングオートメーション、そしてアプリケーションやデータをエンドユーザーが効率的・効果的に利用するためのEIP(企業情報ポータル)も、そのニーズは大きく高まっている。これが意味するのは、ユーザー自身も、分析機能と統合技術の重要性は理解しているということである。

 すなわち、効果が制限されている現在稼動中のコールセンターに対して、効果を最大限にするために、分析系CRM(DWHやBI)と連携したコールセンターの需要はまだまだ見込めるということだ。これが既存のコールセンターへの追加機能としての需要となる場合もあれば、一方で、より先進的な技術と機能を取り込むことを目指し、完全にリプレースという形での需要も見込めるだろう。普及しつつあるIP(インターネットプロトコル)電話の技術もリプレースを促す可能性もある。これらに目をつけたのがSAPジャパンだ。

 SAPジャパンでは、日本独自で「コンタクトセンター・ソリューション室」を設置し、出遅れたかに見えたコールセンター市場への本格参入を開始した。フロントエンドではJavaをベースにしたカスタマイズを容易にするシステムを使い、バックエンドのシステムにはコンタクトセンター用のパッケージ製品を投入し、強みであるエンタープライズ・アプリケーションと連携させることで、より効果的なシステムを提供してビジネスを拡大する目論見だ。

 さらに、SAPジャパンは、今まで消極的であったように見えた自治体市場にも本格参入した。自治体においては、札幌市の成功事例が引き金になって、コールセンターの有効性を理解し始めたのか、多くが導入を検討中だ。すなわち、民間の大手企業では需要が一巡し、追加やリプレース需要が主体になっているのに対し、自治体市場ではまだ新規の需要が見込めるということだ。そして、自治体では民間以上にプライバシー(個人情報)問題に敏感で、コールセンターでも、民間のような個々でなく、セグメントごとで情報をまとめるという機能が必要になる。SAP ジャパンではそれに対応したテンプレートも開発済みだ。もちろんSAPジャパンは単独でなく、日本の大手ベンダーと手を組んで自治体市場への本格参入を図る。

 コールセンターの市場では、システムインフラ、パッケージ・アプリケーション、システム開発、さらには運用管理の委託という需要が見込める。県庁や市役所レベルで、新規ということであれば、ビジネス機会はかなり大きいと思ってよいだろう。

 ガートナーITデマンド調査室では、現在、第一法規と価値総研の協力の下、電子自治体市場調査を実施中だ。2001年から実施し、今年で第3回目になる。全国約3200自治体のうち、半数を超える1640自治体から回答を得た。もちろんコールセンターに関係する質問も数多く含んでいる。興味のある方は是非下記URLにアクセス頂きたい。

関連リンク
▼「日本における電子自治体に関する現状と課題」第3回報告書

[片山博之,ガートナージャパン]