エンタープライズ:インタビュー 2003/11/05 15:41:00 更新


変わり始めたボーランドの製品戦略――「C++製品群は、C++BuilderXに統合される」

ボーランドが9月に発表した「Borland C++BuilderX」について、ボーランドの藤井氏へのインタビューを行ったところ、同製品は、ボーランド製品の今後の方向性を指し示すものとなっているようだ。

 2003年9月にボーランドが発表した「Borland C++BuilderX」(以下C++BuilderX)は、シンプルなC++の開発環境を提供することを目指している。ボーランド マーケティング部部長の藤井 等氏に同製品について話を聞くと、近い将来、ボーランドの製品ラインアップが大きく変化するようだ。

藤井氏

「C++BuilderXはベーシックな開発環境であり、かつ総合的な開発環境である」と語る藤井氏


C++BuilderXとは?

―― 2003年9月に発表された「C++BuilderX(エックス)」について、簡単に説明していただけますか?

藤井氏 これまでボーランドは、さまざまな分野に向けてC++の開発環境を提供していますが、C++BuilderXは、ある意味非常にベーシックなC++の開発環境を提供することにフォーカスした製品です。従来のC++ Builderは、GUIプログラムを簡単に作成できるRADツールとしての役割を持っていました。しかし、C++BuilderXにはGUIプログラムの作成機能は搭載していません。

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C++BuilderXでWindowsアプリケーションをデバッグ中の画面

 特徴としては、Windows 2000/XP、Linux(Red Hat Enterprise Linux WS 2.1)のほか、Solaris 8もサポートしたマルチプラットフォームな開発環境であることのほか、Borland C++ CompilerやGCC、Intel C++ Compilers、Sun Forte C++ Compilerといったコンパイラを適宜切り替えてコンパイル可能なことが挙げられます。コンパイラに関しては、ユーザー側でカスタマイズしたコンパイラを利用可能となっていますので、特定の組み込み機器向けの開発や、サーバーサイドのプログラムの開発など、C++というひとつの切り口の中でいろいろな開発に対応しています。

 また、UMLを利用したプロジェクトの設計機能(Together Edition for C++ Xが提供)やプロジェクトの構成管理機能(StarTeamが提供)などを実装することで、設計、マネージメントを含めた開発環境となっています。

C++BuilderXをどのように普及させるか

―― C++BuilderXは、どのような層をターゲットとした製品なのですか?

藤井氏 今回の製品は大きく分けて、組み込み向け、サーバーサイドのアプリケーション開発向け、学校教育向けといった3つのターゲットを想定しています。とくに組み込み向けでは、開発環境を問わないクロス開発は欠かせないものとなっていると思います。

 また、弊社では、C++BuilderXが持ついくつかの機能を制限したものをPersonal版として無料で提供しています。これを利用することで、純粋にコーディングを勉強したい場合に有効に活用できます。実際に法政大学 情報科学部や産業能率大学などでも弊社の製品が講義で使われています。なお、C++BuilderXの日本語化されたPersonal版は間もなく提供予定です(注:2003年11月5日時点、提供時期は未定とのこと)。

―― ボーランドは現在の組み込み業界をどのように見ていますか?

藤井氏 組み込み業界、とくに米国におけるモバイル業界に対するボーランドの取り組みはここ数年で活発になってきています。弊社のモバイル向けの支援は、弊社のJava開発ソフト「Borland JBuilder」がモバイル端末向けの開発に使用されるようになったあたりに端を発しています。米国の例でいえば、モバイル機器を開発する企業は、自社製品の市場優位性を高めるために、弊社の統合的な開発環境を合わせて開発者向けに提供するといったような動きがありました。

 最近は、情報家電などに代表されるように、さまざまなプラットフォームを想定した開発が必要となっています。こうした状況のため、これまであまりフォーカスされなかった「開発のしやすさ」がこれまで以上に求められていると思います。

―― 具体的にはどのように取り組んでいるのですか?

藤井氏 米国の例でいうと、Nokiaとのコラボレーションが挙げられます。具体的には、数年前のJavaOneの全参加者にJBuilder Nokia EDITIONを配布しました。Nokiaとしては、JavaOneに出席したJava開発者に、自社の携帯端末で動作させるアプリケーションの開発環境を提供することで、アプリケーション開発をより加速させようという狙いがありましたので、このようなコラボレーションが可能だったのです。

 この延長として、Javaだけでなく、Symbian OS上でのC++開発というのが次のターゲットとなっていました。C++BuilderXでは、Symbian OSに特化した開発支援機能が搭載されています。

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Symbian - Nokia SDK を利用した開発画面(クリックで拡大します)

 なお、C++、Javaを問わず、日本でも特定のプラットフォーム向けの開発環境を提供するため、Nokiaを含めさまざまな企業との話し合いを進めている状態です。この中では、C++BuilderXをSDKの一部として提供することなども検討しています。これにより、開発環境のスタンダードとして印象付けられると思います。

―― 日本の組み込み市場はどのように考えていますか?

藤井氏 日本の組み込み市場に関しては、家電製品や携帯電話など、ごく身近に製品が存在しており、非常に規模が大きく、米国以上の規模と期待があると感じています。

 ただし、組み込み市場、とくにモバイル市場へのアプローチに関しては、日米ではプラットフォームベンダーの位置づけが少し違うと考えています。米国では、Symbian OSという特定のプラットフォームに対する取り組みに注力して事業を展開していますが、日本では、その開発を行っている企業の数が少ないという現状があります。そのため、コンシューマ向けにこういった製品を提供してSymbian OSを普及させよう、といった米国的なアプローチではなく、こうしたOSなどの上で、組み込みシステム開発を行っているような企業に、統合的な開発環境を提供するという方向性を取っています。

今後の製品ラインアップはどうなる?

―― 冒頭で、C++BuilderXにはGUIプログラムの作成機能はついていないとのことでしたが、Windows版にはプレビューという扱いですがGUIプログラムの作成機能があるようですね。C++BuilderXがいわゆるRADツールとしても機能するのであれば、Kylixなどの存在価値が希薄なものになる気がしますが、今後、ボーランドの製品ラインはどのようになっていくのですか?

藤井氏 従来のC++ BuilderやkylixはGUIプログラムの開発に長けた製品であり、その点において住み分けができると考えています。しかし、複数の製品ラインアップを維持することは、開発コストを考えても得策ではないため、共通のインタフェース上にさまざまな機能を追加していくことを考えています。そのため、C++製品群は、将来的にC++BuilderXの流れに統合されていくことになると思います。

 今回は、こうした統合の下準備として、「Primetime」と呼ばれるJBuilderと共通のIDE(統合開発環境)を利用しています。共通のIDE上にプロジェクトの管理ツールや、設計ツールを搭載することで、C++、Javaが混在している場合でもプロジェクトを円滑に進めていけるようになります。

 こうした機能は、複数の人間で開発を行っていくにあたっては必須となるものですので、製品の枠組みを超えて提供していく必要があると考えています。

―― C++BuilderXで搭載されているバージョン管理機能や設計ツールについて詳しく教えてください。

藤井氏 C++BuilderXでは、プロジェクトの管理を行う「StarTeam」がIDEに組み込まれています。StarTeamでは、要件管理、変更管理、障害追跡などが可能で、プロジェクトの進行を強力にサポートします。

 CVSと異なる点は、変更要求の管理が可能なところです。コードを修正せよ、という要求が実際の開発者に伝えられ、開発チームのどこで何が起こっているかを即座に把握しながらプロジェクトの工程の中での管理ができることは重要なポイントであると考えています。組み込み用にIDEは必要ないと思われるかもしれませんが、ソースコードを体系的に管理するというのが、開発環境を持たず、エディタなどでプロジェクトを進めている方たちにとって、最も困っている点だと思います。

 また、設計ツールとしては、ソースコードとUML図との相互変換が可能な「Together」というツールが搭載され、プロジェクトの設計機能も備えたIDEとなっています。こちらのツールはEclipse用のものもリリースしています。

StarTeam

Borland StarTeamの画面(クリックで拡大します)

―― 最後に、C++BuilderXがどのように役に立つのかを一言でまとめていただけますか?

藤井氏 C++の開発を行ううえで、現在問題となってきているのは、いかにプロジェクトをうまくまわしていくかという点、言い換えれば、チーム全体の生産性をいかに上げていくかという点ではないかと思います。

 C++BuilderXが持つ潜在的な力は、こうした問題に対しての解決の糸口を与えるものと考えています。

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[聞き手:西尾泰三,ITmedia]