エンタープライズ:ニュース 2003/12/08 14:21:00 更新


ソフトウェアの品質を支えるのはテスト技術者──1月にシンポジウム開催へ

相次ぐシステムトラブルが社会問題化する中、ソフトウェアの品質をテスト技術によって確保・向上させようという取り組みがある。5年前にスタートしたソフトウェアテスト技術者交流会が1月下旬、トム・デマルコ氏を招き、シンポジウムを開催する。

 日本のソフトウェア産業の将来を憂う声がよく聞かれる。最先端のソフトウェアは米国などからの輸入に頼っているほか、最近ではインドや中国で開発を行う、いわゆるオフショア開発も進み、多くの製造業などと同様、その空洞化が懸念されている。

 そんな中、日本のソフトウェア産業の武器となる品質を「テスト」によって確保・向上させていこうという取り組みがある。

 「最近、金融系システムのトラブルや製造業で事故が相次いでいるが、日本は品質の高いものがつくれるという神話が落とし穴となっている」と話すのは、電気通信大学で講師を務める西康晴氏。彼は「ソフトウェアテスト技術者交流会」の主宰者でもある。

 日本の自動車や家電製品の品質は確かに高い。そうしたメーカーは不断の努力によって品質を確保している。しかし、ほかの産業までが自然に品質の高い製品やサービスを生み出せると思い込んでいるのは問題だと彼は話す。

 ただ、日本の技術者が米国のそれに劣っている、ソフトウェアの品質も米国の方が優れているといった話ではないと西氏。米国のソフトウェア技術者たちは、日本の自動車メーカーらと同様、問題意識を持ち、その品質の確保・向上のためにさまざまな取り組みを行っている点で、日本のソフトウェア産業界とは大きく異なるのだという。

 NIST(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術局)は昨年6月、ソフトウェアのバグによる損失額が600億ドル近く(GDPの0.6%に相当)に達するとのレポートを出し、テストの重要性を指摘している。同レポートは、テストの強化によって、1/3以上の損失は減らせるとしている。

 NASAやカーネギーメロン大学などが「Sustainable Computing Consortium」を設立している活動しているほか、「Quality Week」や「STAR」といったテスト技術にフォーカスしたカンファレンスもある。ベンダーだけでなく、多くのユーザー企業がテストを通して、ソフトウェアの品質を維持・向上させようという取り組みが見て取れる。

 振り返ってみれば、日本のユーザーは、どちらかといえば、ITベンダー頼みのところが多い。要件を的確にまとめることが不得手で、優れたソフトウェアは自然と出来上がるという考えがちだ。ベンダーはベンダーで、限られた条件の中でソフトウェアを開発し、人海戦術によって何とかテストまで行うものの、「彼らに笑顔は見られない」(西氏)。

 1998年9月、西氏はソフトウェアの品質に対する問題意識から「ソフトウェアテスト技術者交流会」をスタートさせた。ユーザー企業やベンダーの技術者らが、互いに工夫しているところを話し、聞く機会をつくるのが狙いだったという。

 「何よりもテストが技術であると認知され、技術分野として確立したかった」と西氏。

 現在、同交流会のメーリングリストには600人のテスト技術者らが参加している。今年からはシンポジウム、「JaSST」(ジャスト:Japan Symposium on Software Testing)も開催し、約200人が集い、論文発表や情報交換が行われたという。年が明けた1月下旬、東京で第2回となる「JaSST'04」の開催も予定されている。基調講演には、「ピープルウエア」「ゆとりの法則」「ソフト開発を成功に導く101の法則」など、プロジェクトマネジメントに関する著作で知られるトム・デマルコ氏が登場するなど、広く管理者層にも参加を呼び掛ける内容となっている。

 スポンサーとして、16社(東陽テクニカ、日本アイ・ビー・エム、日本コンピュウェア、マーキュリー・インタラクティブ・ジャパン、エンピレックス、テクマトリックス、メトロワークス、ベリサーブ、マイクロソフト、エーアイコーポレーション、エクスカル、キャッツ、シーイーシー、アシスト、エス・キュー・シー、サイクス)が名乗りを挙げており、各社のツールやコンサルティングサービスも紹介される。

関連リンク
▼テスト技術者交流会
▼JaSST'04

[浅井英二,ITmedia]