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2004/03/12 15:07 更新


Nature's Linux Alliance設立、マネジメント型Linuxディストリビューションとは?

IPテレコムが開発を進めるNature's Linuxをコアに据えた「Nature's Linux Alliance」が設立された。Nature's Linuxとは何か? そして同アライアンスの目的はどこにあるのだろうか?

 Nature's Linux Alliance(NLA)が3月12日、設立を発表した。代表はIPテレコムの関崎裕一氏。構成企業はサンやNTTコムウェア北海道など14社で、初年度で50社の参加を見込んでいるという。関崎氏は冒頭の挨拶で、「ネットワーク中心のコンピューティングの時代にふさわしいソリューションを提供していく」と豊富を語った。なお、関崎氏は、北海道オープンソースソフトウェア調査ワーキンググループの委員も務めている。

関崎氏

「ネットワークセントリックスコンピューティング時代にふさわしいソリューションを提供する」と話す関崎氏

 同アライアンスの結成目的は、次世代ネットワーク・サービスを支える基盤を考える上で、オープンかつセキュアなものを構築・提供するという観点から、調査研究、共同開発、広報、販売等を行うことにある。構成企業の専門性を生かした形で、ソリューションを提供していくのが狙いとなる。

 NLAが提供を予定しているソリューションとしては、次のようなものがある。

  • シーフォーテクノロジーの協力による広域型セキュアファイル暗号化ソリューション
  • VPNソリューション
  • 地域ブランドポータルシステムの構築

 そのほか、ベンチャー企業創出モデルも示している。関崎氏によると、特筆すべき技術を持ちながら、戦略やマーケティングにリソースを割くことが困難なベンチャー企業は多く存在するという。そうした企業が同アライアンスに参画することで、その真価を発揮できるステージに登ることができるとしている。北海道、サッポロバレーに拠点を構えるIPテレコムならではの着眼点といえよう。

 目新しいところでは、ないがしろにされがちなコーポレートアイデンティティ戦略にも力を入れていることが挙げられる。世界的に有名なグラフィックデザイナーであるサイトウマコト氏がロゴのデザインを含めたトータルプロデュースを行う。

メンバー

記者発表会に参列した構成企業の方々

Nature's Linuxとは?

 NLAがコアに据えている「Nature's Linux」。同OSはIPテレコムが開発を行っている。Linuxカーネル2.4系、GCC 2.95 Glibc 2.2.5を採用しており、OSとして最小限必要なプログラムおよびライブラリを厳選した構成となっている。起動時に立ち上がるデーモンも、iptableやSSHなど、ごくごく限られたものになっているほか、NFSやrshはサポートしていない。なお、パッケージ管理にはDebian形式が用いられており、IPテレコム内のサーバからNature's Linux専用のDebパッケージを入手できる。

 また、PMC-SSSF(Package for Management Control by Sepalation of System and Service Filesystem)と呼ばれる機能も実装している。これは、システム領域(カーネル・ライブラリ・各種コマンドなど最低限システム維持に必要なプログラムが動作する領域)とサービス領域(各種ミドルウェア・アプリケーションが動作する領域)を分離することで、システム維持・セキュリティ上のリスクを最大限に抑え、システム動作とアプリケーション動作を明示化しリスクコントロールを可能としたファイルシステムのこと。各領域が分離することで、管理者の明確化や保守範囲の明確化が可能となるほか、各領域別のユーザー管理、ログ管理などが可能になる。

 現時点で展示されているものはまだ開発途中であり、いくつかのバグも存在する。例えば、サービス領域でrootになった場合、システム領域のプロセスもkillできてしまうことなどである。しかし、これらの問題も解決の目処は立っており、8月までには完全なものをリリースするという。

 なお、同OSは、「開発版」と「商用版」の2種類が存在する。その違いは、後述する監視サポートの有無となっており、開発版から商用版へのアップグレードも容易に行える。開発版については、間もなくISOイメージで入手可能になる予定だとしている。

 IPテレコムは3月10日にOSDLへの参加を発表している。同社としては、OSDLが進めているCarrier Grade Linux(CGL)の要求定義に従った形でNature's Linuxを作りこんでいくことで、iDCなどへの導入を進めたい考えだ。

マネジメント型OSと呼ばれる所以

 同OSでは、IPテレコムマネジメントセンターとネットワークで繋がれる。これにより、パッチの自動適用や、システム監視サービス、監視オプションとして、改ざんなどを検知するセキュア監視オプション(Tripwire製品を利用)などが利用可能となる。

 関崎氏は、「安定性、安全性はもちろんのこと、保守運用性というのが非常に重要なポイントだ。手間もコストもかかるこの部分を弊社側で保障することで、従来のLinuxディストリビューションが抱える運用面での問題の多くを払拭できる」と話す。

 価格は、パッチの自動化やシステムの基本情報の監視といった部分が基本のパッケージとなり、導入費用が4万円、月額10万円となる。指定のデーモン監視やセキュア監視オプションを加えた場合は、導入費用が11万円、月額30万円となる。なお、最低利用期間は1年間。月額が最低でも10万円なのは一見高額であるが、それらの作業をIPテレコム側に任せられることや、マネジメントのリスク低減効果を考えると、妥当な額ではある。

絡み合う期待と懸念

 NLAの発表を聞いて感じたのは、ISVとのパートナーシップの不足である。例えばDBにOracleを使いたいといった場合に、OracleがNature's Linuxをサポートしているかというのは重要なポイントになろう。しかし、同アライアンスにはこうした大手ISVの名前は見られない。

 こうした声に対して、同アライアンスでは、「現在の構成企業にはSIerも多く、こうした部分のノウハウも蓄積している。そうしたユーザーの要求に対しても対応していけるだろうと考えている。もちろんISV各社に対しても協力を仰いでいきたい」と説明している。

 もう一つ気になるのが、NLAの構成企業に名を連ねるサン・マイクロシステムズの動向だ。同社は主にハードの提供を行うとしている。しかし、少なくとも現時点ではNature's Linuxはx86ベースである(他のアーキテクチャ用の開発も進めているという)。サンはSun Fire V60xやV65xの展開を考えているのか、という声に対し、同社のe-japan営業開発本部本部長である中村彰二朗氏は次のように話す。

「サンは自社のSPARCだけでなく、Intel、AMDの3プロセッサに対応している。このうち、今回のアライアンスでは、特にAMD64の展開を図っていければと考えている。また、デスクトップ分野での展開なども提案していければと考えている」

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[西尾泰三,ITmedia]

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