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2004/03/23 21:57 更新


ユーティリティコンピューティング技術に磨きをかけるIBM

米IBMは、ユーティリティコンピューティングサービスのトッププロバイダーを目指し、「Universal Management Infrastructure」と呼ぶサービスパッケージを投入する。

 米IBMは、ユーティリティコンピューティングサービスのトッププロバイダーを目指す競争でライバルを引き離すべく、全世界のデータセンターを増強して高度なソフトウェアと柔軟なサービス製品を提供できるようにする。

 同社は今年1年で、世界32カ所のデータセンターを最先端の管理ソフトウェアとツールでアップグレードする計画だ。新ソフトウェアが導入されればアラカルト方式で顧客に各種サービスを提供できるようになり、ユーティリティコンピューティング戦略の推進につながると同社は説明している。

 この技術/サービスパッケージは「Universal Management Infrastructure」(UMI)と呼ばれ、IBMがより高機能で比較的利益率の高いサービスを販売する一助となる。顧客のサーバを単にIBMのデータセンターに設置するだけでなく、本格的なアプリケーションホスティングから、顧客の元にあるアプリケーションや機器をIBMのデータセンターでリモート管理する折衷方式に至るまで、サービスの幅を広げることがUMIによって可能になる。

 IBMのe-ビジネスホスティング部門のゼネラルマネジャー、ジム・コーゲル氏によれば、UMIのフレキシブルな管理ソフトウェアを利用すれば、IBMはオンデマンド方式でホスティングサービスを提供しやすくなるという。オンデマンド方式は、顧客が利用量に応じて処理能力とソフトウェアの料金を支払う方式で、需要の増加に対応することができる。

 コンピューティングパワーを即座に追加し、利用量に応じて支払うという方式は、ユーティリティコンピューティングという業界挙げての構想で不可欠な要素となるもの。この構想によると、企業は電気やガスを購入するのと同じようにコンピューティングパワーを購入するようになる。

 「UMIでは、世界各地のインフラサイトから非常にきめ細かな指令・制御を行うことが可能になる。世界32カ所に高度に同期化されたデータセンターがあり、アップグレードを待っている」とコーゲル氏は話す。

 既にコロラド州ボルダーにあるIBMのデータセンターではUMIの配備が完了しており、北米、欧州、アジアにある同社のほかのデータセンターでもUMIによるアップグレードが予定されている。

 アナリストによると、UMIを利用した高度なサービスにより、IBMが全世界でユーティリティコンピューティングサービスを積極的に展開するとともに、ユーティリティコンピューティングの有力サプライヤーを目指すHewlett-Packard(HP)やElectronic Data Systems(EDS)などの競合企業に対して優位に立てるようになるという。

 Summit Strategiesのアナリスト、ローリー・マッケーブ氏によると、Intel、Exodus Communications、Loudcloudといった大手ITプロバイダーがホスティングビジネスからの撤退を余儀なくされる中、IBMの執念と自社ソフトウェアで実現される高付加価値サービスへの注力が実を結ぼうとしているという。

 「IBMはホスティング分野で方針を曲げなかった。ドットコム華やかなりしころは皆がこの分野に群がったが、バブルがはじけると大手ベンダーの多くが手を引いた」とマッケーブ氏は話す。

 IBMの2003年度年次報告書によると、同社はホスティング事業で10億ドルを超える売り上げを確保し、利益を計上した。同社では、e-ビジネスホスティングを新興成長分野と位置付けている。同部門は過去3年間にわたって売り上げが20%増加し、現在は2000社の顧客を抱える、と同報告書は述べている。

 1990年代後半に登場したアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)の多くが失敗したのは、利益を生むビジネスモデルを見つけることができず、またセキュリティと信頼性をめぐる顧客の不安を取り除くことができなかったからだ。

 しかしここにきて、企業の間でホスティング型アプリケーションに対する関心が高まっている。Summit Strategiesの予備調査によると、調査対象企業の約70%がホスティング型アプリケーションは現実的な選択肢だと答えている。「市場自体が非常に勢いづいている」とマッケーブ氏は指摘する。

 「Salesforce.comなどの企業が、社内で運用するよりも低い初期コストで、しかも高い信頼性でアプリケーションを提供できることを実証したこもと、顧客心理の改善に貢献した」とマッケーブ氏は付け加えている。同氏によると、IBMが多数の競合企業と異なるのは、ユーティリティコンピューティングサービス製品が非常に充実していることだという。

 ホスティングサービスをオンデマンドコンピューティングに緊密に結び付けるUMIの内容は、IBMがグローバルサービス部門の顧客との共同作業を通じて開発した各種のツールとサービスを組み合わせたもの。これらのソフトウェアツールは、企業がコンピューティングリソースを効率的に割り当てるのに役立ち、IBM自身も利用している。

 UMIには、「Tivoli Intelligent Orchestrator」と呼ばれるIBMのプロビジョニングソフトウェアが含まれる。このソフトウェアは、サーバ群が必要に応じて自動的にジョブに処理パワーを追加したり、需要が減少したときに一部の処理パワーを切り離すといったことを可能にする。またUMIは、複数のサーバやストレージデバイスなどのコンピューティングリソースを一つに集約することを可能にするIBMの仮想化技術も利用する。

少ないリソースで多くのサービス

 コーゲル氏によると、UMIではより少ないサーバとストレージリソースでより多くの顧客にアプリケーションをホストすることができる。このため、IBMはデータセンターのリソースを最大限に活用できる一方で、顧客は需要の増加時により多くの処理パワーを迅速に購入することが可能になるという。

 例えば、昨年の全米オープンゴルフでは、アニカ・ソレンスタム選手がプレーしているときに同トーナメントのWebサイトでは通常よりも大きなトラフィックが発生したが、IBMはより多くのサーバを割り当てることによって需要の増加に対処した。一方、オンライン販売業者などの企業も、ショッピングシーズンにおける需要増加に対応するためにコンピューティング能力を追加する契約を結んでいる、とコーゲル氏は話す。

 5年前であれば、ホスティング契約に基づいて顧客がより多くの処理能力を購入することを望んだ場合、IBMはサーバを追加発注して設置する必要があり、これには数日あるいは数週間もかかることがあった、とコーゲル氏は説明する。「今日では、わずか数時間で需要の変化に応じて処理能力を追加することができる」(同氏)

 仮想化ソフトウェアおよびプロビジョニングソフトウェアは、IBMにもメリットをもたらす。自社のコンピューティング機器を有効に活用することで、顧客のコンピューティング需要に対応するのに必要な投下資本が少なくて済むからだ、とコーゲル氏は説明する。

 これらの新しいユーティリティコンピューティングサービスは、いわゆるコロケーションサービスよりも利益率が高い。「コロケーションサービスの場合、プロバイダーは顧客の物理的サーバを収容するだけである。複雑なマネージドサービスでは、サービスプロバイダーはより長期的な契約で顧客を囲い込むことができる」。コンサルティング会社Think Strategiesのアナリスト、ジェフリー・カプラン氏はそう指摘する。

 「年間料金が毎年入るし、サービスに関連するロイヤルティ収入もある。サービスを追加することもでき、その場合は営業コストとソリューションを構築するコストが少なくて済む」とカプラン氏は話す。

 コーゲル氏によると、IBMのホスティング収入の約半分は、ホスティング型パッケージアプリケーションの売り上げによるものだという。インターネット上で提供するアプリケーション、言い換えれば「サービスとしてのソフトウェア」の市場に進出するIBMの前には、HPやEDSといったサービス分野の大手、ならびにCorioやUSinternetworkingなどの小規模企業との競争が待ち受けている。

 コーゲル氏によると、UMIの将来版では、企業が自社のコンピューティングインフラを「社内ユーティリティ」として運用できるサービスも用意する予定だ。IBMではコンピューティングの利用量を計測する機能を提供し、大企業が社内の各部署に費用を負担させるシステムを作成できるようにするという。これにより企業は、例えば、一つの部署でしか利用できないような販売アプリケーション専用のハードウェアを購入するのではなく、複数の部署でコンピューティングリソースを共有して、使用量に応じて費用を分担するようにできる。

 IBMでは、ホスティングビジネスを自社のビジネスプロセスアウトソーシング構想を推進するための重要な要素としても位置付けている。この構想は、人材管理や財務といった企業のビジネスプロセス全体をIBMのグローバルサービス部門で請け負うというもの。IBMは、こういったサービスを「ビジネストランスフォーメーションアウトソーシング」と呼んでいる。

 「当社は多彩なアプリケーションホスティングサービスとマネージドサービスを用意している」とコーゲル氏は話す。

 「昔のコロケーションとは違う。それよりもはるかに複雑であり、顧客にとっては非常に大きな賭けだ」(同氏)

原文へのリンク

[Martin LaMonica,ITmedia]

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