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2004/05/13 16:38 更新


新たな“デザイン”を模索するSAP

「設計」という点から見ると、ビジネスソフトベンダーのSAPとあるデザイン会社の間に意外な共通点が多数存在すると同社の共同創設者プラットナー氏は話す。では、そのSAPの設計思想とは――?(IDG)

 ハッソ・プラットナー氏は、心から驚いていたようだ。独ビジネスソフトベンダーSAPのカリスマ的な共同創設者で元共同CEO(最高経営責任者)の同氏は、米ニューオーリンズで開催しているSAPの国際顧客会議「SAPPHIRE '04」の会場に到着するや、手に持ったBusinessWeek最新刊を掲げ、デザイン会社Ideoの特集記事を指差した。

 「今日この記事を読んだばかりだ」とプラットナー氏。同氏は現在、SAPの監査委員会議長に加え、チーフソフトウェアアドバイザーの職務も務めている。「新しいデザインの技法という意味で、ここで取り上げられている人たちとわれわれのやっていることには、共通点が多い。さらに“アンフォーカスグループ”や“観測”のような同じ用語も幾つか使っている。信じられない。私は今までこの会社のことを知らなかったのだから」

 両社がどれだけかけ離れた会社かを考えると、この類似性はある意味注目に値する。IdeoはEli Lillyのインスリンペンや、Proctor & Gambleの絞らず使える縦置き型の歯磨き粉チューブ、Polaroidのインスタントカメラなど、幅広いジャンルでのデザイン業を売りにしている。これに対して、SAPは企業のビジネスプロセス管理を支援するERP(企業資源計画)ソフトなどのビジネスアプリケーションを開発する企業だ。

 しかし、両社には別の意味で共通点がある。昨年共同CEOの職を退いてからはほとんど取材に応えることがなくなったプラットナー氏は、両社が共にデザイン業務の途中で顧客の反応を探っている点に触れた。顧客の本当のニーズを理解して取引先との関係改善につながる製品・サービスを開発することは、特に複雑なソフトを開発する場合において、設計者にとって非常に重要な課題だと同氏は述べた。

 これまでの開発者は常々、ユーザーがどのように作業するか十分に把握していなかったため、単純に機能を増やして取捨選択させてきたとプラットナー氏は話す。この結果、すっかり「機能過多」のソフトになってしまったと話している。

 「ビジネスソフトウェアをどのように開発できるかについて、新たな模範と方法論を探し出したい。もっと適切で、時間もかからず安価で済み、より良い結果をもたらすほかの方法を見つけたい」(プラットナー氏)

 複合アプリケーション(ほかのアプリケーションの上位アプリケーション)は、SAPが大いに力を入れている分野だ。そして、同社が競合企業より一歩先んじるつもりなら、新たに切り開いていかねばならないと同氏が考える分野でもある。「こうしたアプリケーションの開発では、1人のプログラマーや、1つのプログラマー集団に頼るようではうまくいかない。ほかのアプリケーションの上位に位置するアプリケーションの設計には、異なる品質が必要だ。われわれはさまざまな多数のグループと協力しなくてはならない」と同氏。

 これに関連して、プラットナー氏はIdeoが「クイック&ダーティプロトタイピング」と呼ぶ「大規模プロトタイピング」の必要性について語った。同氏によると、このコンセプトは、可能な限り多種多様な顧客層を持ち、多数のセッションでアプリケーションをチェックするというもの。「早い段階から顧客に参加してもらうことが必要だ。決定を下す前ならそれほど費用もかからない。そしてこのプロセスでは、フォーカスグループだけなく、特定の考えに反対するアンフォーカスグループも求めている」

 プラットナー氏によると、昨今は新しいアイデアの議論を戦わせるのはごく一部の人だけで、ほかはほとんど全員が聞くだけだ。「われわれはグループの全員にどうやれば貢献できるかを質問する。集団力学と作業環境がどれほど重要なものかは以前学んだが、今ではいずれも価値が限られていると思う。われわれにとっては、個人と共に設計していくことにずっと価値がある」

 SAPはこの先、今でも既に手に入る「大量のコンピュータパワーと驚異的なネットワーク性能」をもっと活用するソフト製品を設計する必要があるとプラットナー氏。「多様なデータベースレコードから送られてくる請求を、1秒以内に照合できる製品のプロトタイプ開発を進めている。大容量のデータを送る速度は、企業にとって驚くほど重要だ」と同氏は語る。

 アプリケーション統合も同じくらい大切だとプラットナー氏は間髪入れずに言い添えた。顧客は、複数のアプリケーション――例えばMicrosoftのソフトとAdobe Systemsのソフト、それに銀行のソフト、といった具合に――を容易に統合できるようにしたいと考えているという。SAPは現在よりも一層効率的に「これをまとめる」必要があるという。

 さて、プラットナー氏はチーフソフトウェアアドバイザーとしての役割をどれくらい気に入っているのだろうか? 「ワクワクするね。特にプロトタイプから取り掛かることができるし、完遂する必要がないのだから。だがもちろん、最終的には満足のために、こうしたアイデアの一部を現実のものにしたい」

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